第34話 新しい魔スレチック

「――うん、とりあえずこれでいっか」


 作業を始めて1時間。


 まずは精霊様の加護を使って辺り一帯の霊樹を取り除いた。


 取り除くといっても本当に消したわけじゃなくて、地面に引っ込めただけだけどね。


 全ての霊樹は根っこで繋がっているから、他の霊樹に吸収させたといえばいいのかな?


 精霊様が生やした霊樹だからこそ成せる特別なやり方だ。


 とはいえ、霊樹の除去は最小限に留めたいので、ジェットパークがある場所と同じような空間をあちこちに作る形にした。


 開けた空間は小規模なものから中規模なものまで様々で、前者には子供用の小さな魔スレチックを、後者にはメインとなる魔スレチックを作るつもりだ。


「まずはメインの魔スレチックからだけど……それぞれのエリアで個性が欲しいよね」


 アイテム袋から取り出した椅子に座りながら考える。


 大きな魔スレチック用に作ったエリアは全部で3つ。


 どうせなら、3つそれぞれが違うタイプの魔スレチックになるようにしたい。


 ギミックの方向性を揃えたり、デザインにテーマ性を持たせたりするのがいいかな?


 ゲームでステージが変わると雰囲気もガラリと変わるように、魔スレチック毎に違う楽しみがあるのが理想的だ。


 先に進むほど難しくなる既存のシステムについては、そのまま採用でいいかな。


 ギミックとテーマを工夫するだけでも、各魔スレチックの雰囲気はだいぶ変わるはず。


「うーん、そうなると……ジェットパークの魔スレチックも変えちゃったほうがいいかな?」


 丸ごと移動させてもいいんだけど、なんだか中途半端になる気がする。


 移動の後に大幅な改良を施すか、場合によっては作り直したほうが早いかも。


 今はいろんな森霊族達が使ってるはずだし、今度事前に告知してやっちゃおうかな。


 とりあえず今日は別の魔スレチックを作製しよう。


「クラフト」


 クラフト台を生成した僕は、さっそくミニチュアサイズのホログラムを調整する。


 前に1度作ったノウハウがあるからか、どんどんアイディアが溢れてきて、みるみるうちに魔スレチックの基礎ができていく。


 作りはじめて約1時間半が経った時には、7~8割のギミックを設計していた。

 

「――リベル、作業中か?」

「あ、いいとこに来たね」


 試しに本来のサイズで生成しようと思っていたところ、タイミングよくロロネアが現れる。


 ここに来ることは伝えていたので、様子を見に来たんだろう。


 ロロネアの隣にはなぜだかミルミーさんもいる。


「一昨日の話を聞いたのですが、面白い魔遊具を使って戦ったんですよね? 私、それが気になりまして……」

「ああ、そういうことね」


 いかにもミルミーさんらしい理由だ。


 たしかにラボまでは試合の話が届かなかったのか、ミルミーさんは観戦に来てなかったもんね。


 僕はアイテム袋からスピードシューズ、ストロングローブ、レーザーガンを取り出して、それぞれの機能を紹介する。


 ストロングローブとレーザーガンの紹介では、手早く作ったモンスター型の模型に攻撃して見せた。


 もちろん、レーザーガンの出力は最小に抑えたよ?


「ほわあー……どれもすごいですね……! やっぱりリベルさんの魔遊具は面白いです!」


 ミルミーさんはキラキラと目を輝かせて、手渡した各魔遊具を観察する。


 ロロネアも結構興味があったのか、一緒になって観察していた。


「そうそう、これから新しい魔スレチックを調整するところだったんだけど、2人とも試して行かない?」

「本当か!!? ぜひ試したい!!」

「新しい魔スレチック……面白そうですね」


 2人とも興味を示したので、新魔スレチックのモニターをやってもらうことにする。


「じゃあさっそく生成するね! ――ほっと!」

「「おおおおっ!!」」

 

 出現した魔スレチックを見て、大きな声を出すロロネア達。


「すごいな……ジェットパークの魔スレチックよりずいぶん大きく見えるぞ」

「ですね……少なくとも2倍くらいはあるんじゃないですか?」

「そうだね、それくらいはあると思う」


 加護の力で作った魔スレチック用スペースは、その1つ1つがジェットパークと同じくらい広い。


 パーク内の魔スレチックは敷地面積の半分も占めていないけど、こちらのそれは全体に広がっているので、単純計算で2倍以上の大きさがあるはずだ。


 水平方向に広い分、高さは抑え目に設計したものの、僕自身驚くほどの迫力があった。


「見た感じ、なかなかに激しそうなコースだな」

「お、分かる? 全体的に激しめなギミックにしてるんだよね」


 今回の調整で意識したのは、まさにロロネアが言った通りの“激しさ”。


 棒から棒に飛び移ったり、障害物を飛び越えたり、ジャンプ系の動作が多く求められる。


 ジェットパークの魔スレチックにはなかった跳ねる床――トランポリン的なギミックも多用しているので、よりアクロバティックな走りを楽しめるはずだ。


 テーマデザインはまだ決めてないから素朴だけど、炎なんかをモチーフにしたらかっこいいなと考えている。


 火・水・風……のように、各属性のデザインをそれぞれ採用するとかね。


 激しさは炎……火属性のイメージにぴったりだし、悪くないアイディアなんじゃないかな?


 そんなわけで2人に試してもらったんだけど、特にロロネアの反応がすこぶるよかった。


 新たに加わった跳ねる床のギミックが新鮮らしい。


 ただ、まだまだ粗削りな箇所があることはたしかなので、2人の意見を聞きながらどんどん改良していった。


 約半日に及ぶ集中的な改良で、大半のギミックは文句のない出来になったと思う。


 まだ細かいギミックやテーマの追加は必要だけど、あと数時間もあれば完成しそうな勢いだ。


 ミルミーさんは途中で用事があると抜け、ロロネアもそろそろ帰るとのことなので、作業の続きはまた明日だね。


 ロロネアは明日も手伝えるみたいだけど、右霊隊の隊長って思ったより暇なのかな?


 基本的に里の中は安全だから、必要とされるのは本当に有事の時だけだとか……?


 揚々と帰る後ろ姿を眺めながら、ふとそんなことを思うのだった。

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