第33話 精霊の里の遊具案

 ガガイアさんとの試合は思いの外あっさりと決着した。


 稽古以外で初めての対人戦ということもあり、最初は結構緊張してたけど、【遊者】の力が偉大すぎたね。


 一応ちょっとした対策として、あらかじめスピードシューズを装着したのがよかったのかな。


 ガガイアさんが初手に放った紫の炎も相当なスピードだったけど、シューズによる高速移動の前では意味を成さなかった。


 あと、ガガイアさんが使う長槍の対応については、屋敷で行っているディナードとの稽古が活きた。


 稽古のおかげで僕の体捌きは相当上達してるし、武器持ちの相手と戦うのにも慣れてるからね。


 今回は素手で戦ったけど、剣の代わりに試したストロングローグも強かったなぁ。


 軽く裏拳を放っただけなのに、筋肉質なガガイアさんを闘技場の端まで吹き飛ばしたし。


 まあ、僕のレベルは常人よりもずっと高いはずだから、グローブなしでも通用しただろうなとは思う。


 じゃあどうして魔遊具を使ったかのというと、森霊族達への宣伝のためだ。


 里に遊具を作る際、あの道具を作った人なら……って思ってもらえるかもしれないでしょ?


 宣伝の意味があったのかはともかく、ガガイアさんに勝利できたのは大きい。


 試合が終わった後、たくさんの人達から拍手をもらえたからね。


 ガガイアさんとその他武闘派っぽい皆さんにも、僕を認めると頭を下げてもらえたよ。


 実際、自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ圧勝だったもんなぁ。



 最後、ガガイアさんの攻撃が相当強そうだったから、レーザーガンの出力を少し上げたところ、予想の数倍のド派手な威力になってしまった。


 霊樹も萎れずに爆散したし、やっちまったかと焦ったけど、ガガイアさんに怪我がなかったからよかったよ。


 今回の試合で改めて痛感したけど、【遊者】の力で作った魔遊具はとんでもないチートだね。


 霊樹の爆散は精霊様にとっても想定外だったらしく、『とんでもないのぉ』と笑っていた。


 そうして、無事? に試合が終わったことで、ヌヌンギさんの提案を正式に受けることに。


 里内の未開発エリアを使わせてもらうこと等、諸々の事項を里長や精霊様と相談し、夕暮れ前に屋敷へ帰宅した。



 ◆ ◆ ◆



 その翌日。


 僕は午前からルティアの授業を受けていた。


「リベル様、どうかされましたか?」

「あ、いや……なんでもないよ」

「……?」


 昨日のことを考えてぼーっとしていたようだ。


 里での1日はとにかく濃密だったので、授業を受けるのも久しぶりな感覚がする。


 怪しまれないように集中して授業を受けた後、午後の剣術の稽古へ。


「――なんだか今日はいつも以上に動きがいいですね」


 5分ほど剣を交わしたところで、ディナードがそんなことを言う。


 昨日のガガイアさんとの1戦で、体の感覚が研ぎ澄まされたのかな?


 僕としてはいつも通り、力をセーブして動いてるつもりだったんだけど。


「そろそろ1度、本気の手合わせでもやってみますか? 今の坊ちゃんなら、私とも互角以上に戦えると思いますよ?」

「さすがにそれは言いすぎだよ。これまで通りでお願い」

「……そうですか」


 ディナードは苦笑しながら言う。


 これってもう、僕が力を抑えてるって完全にバレてるよね?


 いや、結構前から怪しまれてはいたけどさ、そろそろ一部の人には力を明かすべきなのかな……


 ルティアの授業が終わった後、冷静に考えてみたんだけど、僕がやってることってかなりやばいよね?


 幻の国と言われる精霊の里に内緒で行って、そこに遊具を作ることが決まったんだよ?


 さすがに僕の判断だけで話すのはまずいけど、今更ながらなんだか心配になってきた。


 とりあえず僕の力についてだけでも、勇気を出して伝えたほうが……


 近いうちに機をうかがって、父さんの部屋を訪ねよう。



 ◆ ◆ ◆



 さらにその翌日。


 今日は再び精霊の里に行く予定だ。


 昨日考えていた父さんのところへ……ってやつは、一旦頭の隅に置いておこう。


 里へ入る方法について、今回は転移の魔法を使用する。


 ロロネア達が転移ステーションを使えることから分かってたけど、里の結界に関係なく転移が使えるんだよね。


 厳密には精霊様の許可がないとダメみたいだけど、僕は既に許可されているから問題ない。


 里に入る旨をロロネアに伝えた僕は、行き先を脳内でイメージして転移魔法を発動する。


「よし、成功っと」


 転移した先は、里の西側にある未開発エリア。


 一昨日の話で遊具を作ることになった場所だ。


 中央の広場から徒歩で15分ほど歩いたところにある。


 遊具はすぐに作っていいとのことだったので、ジェットコースターの製作と並行して作ることにした。


「それじゃ、さっそく……」


 問題は、どんな遊具を作るのかということだけど、実は既に考えてあるんだよね。


 何を隠そう、その遊具とは“拡張版魔スレチック”。


 他にも小物の遊具は作製する予定だけど、エリア全体を巨大な魔スレチックで埋め尽くそうと思っている。


 魔スレチックは実際に遊んだ皆からも好評だし、里中の森霊族達が使うのにも向いてるからね。


 それと、エリアの端っこのほうに、精霊用の小規模な遊び場も作るつもりだ。


 一昨日、この未開発エリアについての話を聞いている時、精霊様が『精霊達の遊び場もあると嬉しいのう』と言ったんだよね。


 人型や小動物型の精霊には活発なものも多いようで、そんな皆が楽しめる場所が欲しいということだ。


 半分冗談めかした言い方だったけど、面白いアイディアなので採用した。


 また、遊具作りを行うに際し、精霊様から臨時的な加護を授かった。


 里内の霊樹を加工したり、場所を移動させたりできるので、遊具作りに役立つだろうとのこと。


 軽微で臨時的な加護とはいえ、精霊様の加護を授かることは滅多にない栄誉らしく、ロロネアやガガイアさん達がひどく羨ましがっていた。


 ちなみにこの加護だけど、樹木魔法の適性も上がるらしく、霊樹以外の加工等もやりやすくなるらしい。


 実際、今朝に少しだけジェットコースターのコース調整をしてみたところ、結構柔軟に周りの木々を変形させられた。


 工夫次第でコースのスリルが増しそうな気がするので、調整を終えていた箇所も今一度手を加えたい。


 あと、ジェットパーク内に作った魔スレチックについてなんだけど、明日明後日中にも“ジェットスライダー2”に置き換える予定だ。


 魔スレチックはここで存分に作れるわけだし、ジェットスライダーの亜種に置き換えたほうがパーク内の統一感も出る。


 元々あった魔スレチックはこっちに丸ごと移動させて、しばらくはそのまま使ってもらえばいい。


「ふふ……やることがたくさんだね」


 目の前のエリアを眺めながら口角を上げる。


 精霊の里の魔スレチック。


 新たなるジェットスライダー。


 森のジェットコースター。


 一気にいろいろな遊具が増えて、一段と賑やかになりそうだ。

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