第31話 なんか戦うことに

「どうだね? リベル君」

「そうですね……」


 考える素振りを見せながら答える。


 ヌヌンギさんの話はものすごく興味深い。


 ただ……後ろのガガイアさんをちらりと見ると、超絶不満そうなんだよね。


 里の中に遊具を設置したことで、反対運動とかが起きたら洒落にならない。


「その……面白そうだなーとは思うんですけど、部外者の僕が里の中に遊具を作っちゃってもいいんですか? 反対する人達もいそうですけど……」

「それについては問題ないだろう。リベル君の遊具はかなり評判がいいからね! 部下の者にそれとなく聞いてもらった結果、里の中に作ってほしいとの声が多数あがっている。そもそも、人間のリベル君がここまで来られたということは、精霊様がお認めになったということ。精霊様に認められた人間であれば、里の者達も拒みはしない」

「うむ、リベルは里内の精霊達にも好かれているからな。今日ここに来るまでの道中も、精霊達がたくさん集まっていたぞ」

「おお! それは素晴らしい! であれば、なおさら問題ないだろう」


 ロロネアの言葉を聞いたヌヌンギさんが笑顔で頷く。


 ガガイアさんの視線がさらに鋭くなった気がするけれど、本当に大丈夫なんだろうか?


「というわけで、リベル君さえよければぜひ里に遊具を作ってほしいのだが……」

「まあ……作っても大丈夫ということなら、ぜひ作りたいなとは思います」

「ありがたい!! ではこれから、精霊様のところへ向かうとしよう。精霊様の許可が下りたら、正式に遊具の作製を頼みたい」


 ヌヌンギさんは席を立つと、僕にも席を立つよう促す。


 里内に遊具を作る許可をもらうため、精霊様に会いに行くらしい。


 精霊様の存在についてはずっと気になっていたから、自然と会える流れができてラッキーだ。


 4人で霊樹の家をあとにした僕達は、ヌヌンギさんとガガイアさん、僕とロロネアに分かれて歩く。


「ガガイアさん、不満そうだったけど大丈夫かな」

「はは、ガガイアのことは気にしなくてもいいぞ。あいつは里でも指折りの保守派だからな。森霊族自体は別に人間を疎んではいない」

「そうなの?」

「うむ。里の防衛や精霊達の安全を重視した結果、今の形をとっているだけだ。精霊達に好かれているリベルであれば、むしろ歓迎されるだろうさ」

「そっか。ちょっと安心したよ」


 歩きながら、ロロネアとそんな話をする。


 どうやら、ガガイアさんが極端な性格をしているだけらしい。


 それからしばらく彼についての話を聞いたが、単に人間を嫌っているわけではないようだ。


 彼は力ある者が上に立つべきという、ある種の脳筋思考を持っているため、“か弱い人間の子供”である僕が気に食わないという話っぽい。


「ただ、リベルの遊具や魔遊具はすごいからな。実物を目にすれば奴の見方も変わるかもしれんぞ? 力というのは戦闘力だけではない」

「はは、そうかな」

 

 そういえば、僕が戦えることはまだ言ってなかったんだっけ?


「――リベル君、そろそろ到着だ!」


 ロロネアの話を聞いていると、ヌヌンギさんがこちらを向いて言う。


 精霊様が普段いるのは大霊樹の外周部分。


 中央広場から徒歩で数分離れたところにある、人通りのないエリアらしい。


 巨大な幹に沿って歩いた先に出っ張った部分が覗いており、近くに行くと中に入れるようになっていた。


 幹と一体化した神殿って言えばいいのかな。


 あちらこちらに芸術的な彫刻が施され、前世の写真で見たアンコール・ワット的な趣がある。


「すごく綺麗な彫刻だね。精霊様が作ったの?」


 入る前にロロネアに尋ねたところ、基礎の部分以外は森霊族達が彫ったものだと説明された。


 里の中でも芸術肌の森霊族を選定し、時折メンテナンスしているらしい。


 その際に新しい彫刻も増えるそうで、年を経るごとに少しずつ立派になっていくそうだ。


「精霊様がいるのはこの奥だ」


 ヌヌンギさんを先頭に、神殿の奥まで進んでいく。


 内部の壁には大小様々な根が絡み合いながら並んでいて、外観とはまた違う独特の雰囲気を呈していた。


 そうして、根に囲まれた通路を進むこと約1分。


 木の中とは思えない深さにある、開けたホール状の空間に出た。


 ホールには霊樹と同じ色をした立派な祭壇が設置され、その中心に1人の精霊が佇んでいる。


 雪のように白く発光する、幼女の外見をした精霊だ。


 霞のような羽衣を纏っており、地面からフワフワと浮いている。


 一目見た瞬間に精霊様だと理解した。


『――よく来た』


 僕達を見た精霊様は、凛と響く鈴のような声で言う。


『ああ、よいよい。皆楽にして構わんぞ』


 膝を突いたヌヌンギさん達にならおうとすると、精霊様がそれを制する。


 立ち上がったヌヌンギさんが一礼し、僕と精霊を交互に見た。


「精霊様。先日お話していた客人、リベル殿を連れてまいりました」

『うむ。ご苦労じゃ。リベルよ、初めてじゃな』

「はい。初めまして、精霊様」


 頭を下げてそう言うと、精霊様はまじまじとこちらを観察する。


『ふむ、分体で接触した時にも思ったが……お主、をしておるのう?』


 ニヤリと笑みを浮かべる精霊様。


 見透かすような目つきと含みのある言い方からして、僕の正体にある程度勘づいていそうだ。


 少しヒヤリとしたけれど、それ以上触れるつもりはないらしい。


 満足そうに頷いた後、『里の様子はどうじゃ?』とか、『変わった魔道具を作るらしいのう?』とか、雑談的な話を振ってくる。


 しばらくそれに答えていると、傍らで見ていたヌヌンギさんが口を開いた。


「精霊様、リベル殿の遊具に関して考えていることがあるのですが――」


 ヌヌンギさんは里内に遊具を設置する案を話す。


『ふむふむ――よいのではないか? 儂はいい案だと思うぞ?』


 精霊様は一通り話を聞くと、あっさりと了承のサインを出した。


「おお! よろしいのですか? 精霊様!」

『うむ。里内でのリベルの様子はちょくちょく分体で観察しておったが、あれほど精霊達に懐かれておれば問題あるまい。儂としても、リベルの人間性は気に入ったし、摩訶不思議な遊具とやらにも興味がある』

「おおっ! 左様ですか!!」

『ただ、そうじゃな……儂は遊具設置の許可を出すし、里にいる大半の者も受け入れるだろうとして…………不満を抱く者もおるようじゃぞ?』


 精霊様は面白そうに笑いながら、ガガイアさんをちらりと見る。


 彼女の視線を受けたガガイアさんは、一礼の後に口を開いた。


「精霊様! 誠に不躾なことながら、このガガイアは里長の案に反対です! 長らく精霊様がお守りしてきた神聖な里に部外者の……ひ弱な人間の作ったわけのわからない物を置くなど……!」

「よさないか、ガガイア!」

「精霊様とリベルに失礼だぞ!」


 ヌヌンギさんとロロネアが諫めるも、ガガイアさんは不満気に歯を食い縛る。


『ふむ……なるほどのう』


 ガガイアさんと僕達を交互に見た精霊様は、ニッと口角を上げて言う。


 何か悪巧みを思い付いたような表情だ。


『ガガイアよ。お主はたしか、里内きっての武闘派じゃったな? 1度リベルと仕合いをして、実力を確かめたらどうじゃ?』

「「「なっ……!!?」」」


 精霊様の発言に、僕とロロネアとヌヌンギさんの声が揃う。


 ガガイアさんも驚きに目を瞠りながら、「本気ですか……?」と口を開く。


「ひ弱な人間の子供と戦っても、結果は分かりきっています!」

『はて、本当にそうかのう……? 儂はが見られると思うんじゃが……のう、リベル?』

「はは、それは……」


 この状況でしらばっくれても無駄だよね。


 明言を避けつつ曖昧に首を縦に振ると、ロロネアとヌヌンギさんが驚いたような目で僕を見る。


『安心せい。安全に仕合いができるように、儂が直々に結界を張ろう。そうじゃな……どうせなら、ギャラリーも用意するかのう? ごく一部とはいえど、ガガイアに似た思考を持つ者もおるじゃろうからな。ふふ……久々に楽しい余興になりそうじゃのう』


 精霊様は楽しそうに呟いた後、『さて』と僕達に向き直る。


『ではさっそく、ギャラリーのもとへ出発じゃ!』

「「「「………………」」」」


 こうして、勢いに流されるまま、急遽ガガイアさんと戦うことが決まるのだった。



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 本日の投稿はここまでです。

 明日からは通常の投稿ペース(1日1~2話)に戻ります。

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