第25話 アスレチックと提案
急遽作ることに決まった、森霊族用アスレチック。
異世界仕様の難易度にするのに苦労しつつ、なんとか完成させることができた。
所要時間は約2時間。
軽く作るつもりだったけど、意外に時間がかかってしまった。
なんだかんでこだわってしまうのは、もはや物作りあるあるだね。
まあ、僕も作るのは楽しいからいいんだけど。
で、現在。その出来立てほやほやのアスレチックに、ロロネアが先陣を切って挑もうとしていた。
難易度チェックも兼ねたモニター役だ。
「リベル、確認なのだが、このアスレチック? を天辺まで上り切ればいいのだな?」
「うん。一応コースの形になってるから、ちゃんと道順に進んでもらえると嬉しいかな」
遊び方を縛るつもりはないけど、一気に上まで飛んだりしたら醍醐味がなくなるからね。
「了解した」
ロロネアは頷くと、期待に満ちた目でアスレチックを見る。
さっきから遊びたそうにしてたもんなぁ。
ジェットスライダーも最後のジャンプがお気に入りだし、こういう体を動かす系はロロネアにハマると思っていた。
「では行ってくる」
ロロネアはそう言って、アスレチックのスタート地点に向かう。
このアスレチックは作る前の想像通り、立体的に上へと伸びるアトラクション的な構造だ。
スタート地点のゲートから大きな螺旋を描きながら登っていき、最終地点のゴールを目指す。
内容も前世の人達では到底クリアできないような、超絶高難易度に設置してある。
空中を動き回る小さな丸太の上を飛び移ったり。
回転する障害物の棒を避けながら細い綱の上を渡ったり。
壁から飛び出してくるおもちゃの矢を躱したり。
一定間隔で底が抜けるタイル状の床を進んだり。
正直、アスレチックというよりも、ゲーム内に出てくるステージと言ったほうがいいかもしれない。
もちろん、足を踏み外した場合に備えて安全ネットは張り巡らせてある。
また、このアスレチックもジェットスライダーと同じく、スイッチによるオンオフが可能だ。
オン状態では宙に浮いている丸太等も、オフ状態で下に落ちる。
アスレチック全体が折り畳まれていく様子は、まさに魔法の世界ならではの光景だ。
「――はっ!」
スタートのゲートで軽くストレッチをしたロロネアは、気合いの掛け声と共に走り出す。
さて、上手くクリアできるかな?
ロロネアの身体能力があっても、少しくらい苦戦してもおかしくない。
そう思って眺めていた結果――あっさりとクリアされてしまった。
いや、途中いくつか躓いた箇所はあったんだけど、驚異的な修正力で結局突破するんだよね。
ゴール先に設置した滑り台(ジェットスライダーと違って普通のもの)で地面に降りてきたロロネアは、爽やかな笑顔で戻ってくる。
「ふぅ、なかなかに面白い遊具だな。もう少し難易度が高くても構わないが」
「うん、みたいだね。また今度改良するよ」
「ありがたい。ただ、こんな不思議な物は見たことがないし、皆楽しめるとは思うぞ。体を動かすいい訓練にもなりそうだしな」
ロロネアがそう言うと、興味ありげに集まっていた森霊族の皆がコクコクと頷く。
評判が悪かったらどうしようと思ってたけど、その心配はなさそうだね。
僕は皆に自由に使っていい旨を伝え、ロロネアと一緒にパークを出る。
「今日もレールを敷く作業の続きか?」
「そうだね。ただ、今日のメインは結界を張る作業になるかな」
「ん? 結界を張るのか?」
「そうそう」
僕は頷くと、一昨日から考えていた案を伝える。
レールを敷くエリア周りに防御用の結界を張って、あとの作業は僕が1人でやるというものだ。
「なるほど。そういうことか」
「うん。どのみちジェットコースターが完成したら、結界は必要になるからね。コース上にモンスターが侵入してきても困るし」
「ふむ」
「それに、ロロネア達には新鮮な気持ちで楽しんでほしいからね。作る過程を最後まで見ちゃったら、楽しみも半減しちゃうでしょ?」
「むぅ。たしかに……?」
よしよし、了承は得られそうだね。
護衛として活躍できないのは残念だけど、サプライズは楽しみという顔だ。
「まあ、そういうわけだから。ちなみに結界を張ること自体は大丈夫そう? 皆の通り道の邪魔になりそうなら、なるべく範囲を狭めるけど」
「その点は問題ないぞ。広大な森全体から見れば微々たる範囲だからな。精霊の里への入り口に被ることもない」
「よかった」
これで心置きなく結界を張れる。
それからロロネアと共に森を回り、エリア全体を結界で囲った。
モンスターの侵入を防いだ後は、結界内のモンスターを掃討する作業だ。
「討伐は任せろ!」と胸を張るロロネアにモンスター見つける君を渡し、存分に暴れてもらった。
「ふむ……終わりだな」
モンスター見つける君をスチャリと鳴らし、大弓を仕舞うロロネア。
さすがは強力な弓の使い手、遠距離から敵を仕留められるので殲滅はスムーズに完了した。
結界を囲う作業と合わせても、2時間くらいしか経っていない。
アスレチック製作で作業の開始が遅れたから、まあまあいい時間にはなったけど。
とにかく、これでジェットコースター作りのための環境が完璧に整った。
日中に限らず早朝や深夜でも、好きな時に1人で作業できるね。
「さて、パークに戻ろうか」
僕はそう言って、ロロネアとパーク内に転移する。
「あれ? なんかまた増えてない?」
「うむ。レレノン達が来たみたいだな」
「あ、本当だ」
ロロネアが指さした先を見ると、アスレチックに挑むレレノンさんの姿があった。
体術の達人なだけあって、ひょいひょいと各ギミックを突破していく。
危なげなくゴールに辿り着いた彼女は、滑り台で下に降りて僕達のところにやって来た。
「リベル君、また面白いものを作ったわね」
「はは、楽しんでもらえたならよかったよ。ただ、レレノンさんには簡単すぎたかな?」
「たしかに少し簡単ね。けど、他の子達にはちょうどいい難易度みたいよ?」
レレノンさんはそう言って、アスレチックのほうを見た。
挑戦中の森霊族は動きがぎこちなく、ところどころで危なっかしい場面がある。
序盤はなんとか進んでいたが、小さな丸太が動き回るエリアで足を踏み外してネットに落ちた。
「あんな感じで、皆結構失敗するのよね。最後までミスなく行けたのは、まだ数人しかいないみたいよ?」
「そうなんだ」
ロロネアも一発でクリアしてたから簡単すぎたのかと思ったけど、意外とそうでもないみたい。
【体術仙人】のレレノンさんは別枠として、ロロネアの身体能力も森霊族トップクラスということかな。
そう思ってロロネアを見ると、「ふふん、私も1回でいけたぞ!」とレレノンさんの前で鼻を高くしていた。
「いろんなレベルの人が楽しめるように、今度また難易度調整しておくよ。まだ作り立てで粗があるから」
「そう? 助かるわ」
「楽しみだな!」
「まあ期待してて」
序盤、中盤、後半みたいに、数段階の難易度を設けるといいかもしれないね。
あと、アスレチックで遊ぶ様子を見た感じ、ネットに落ちた場合は強制的にリタイア――地面に転移させるシステムを取り入れたほうがよさそうだ。
そうすればゲーム性がぐっと増すし、回転率も一気に上がる。
その後、レレノンさんが連れてきた数人の森霊族と挨拶を交わし、皆が遊ぶ様子を見ていると、「そういえば」とレレノンさんが何かを思い出すように言った。
「今日ここに来る前、里の長と話してきたんだけど、リベル君に興味があるみたいよ。リベル君さえよければ精霊の里への招待を考え中って言ってたんだけど…………リベル君は興味ある?」
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