第26話 いざ、精霊の里へ
「ふんふんふーん♪」
その1週間後。
僕はクラフト小屋で各種魔遊具の微調整を行いながら、ロロネアからの連絡を待っていた。
「いやー、楽しみだなぁ」
先日レレノンさんから持ち掛けられた、精霊の里に興味はあるかという話、答えはもちろんイエスに決まっていた。
世間で精霊の里といえば、ベールに包まれた謎の国というイメージがある。
ロロネア達と知り合ったことで少し親近感が湧いたとはいえ、僕にとってもいまだに謎の国のままだ。
文献等でもほとんど情報がないのに、まさか行けるチャンスがやって来るとは。
一応、レレノンさんの話では里への招待を考え中とのことだったけど、僕の回答を持ち帰ってもらった結果、無事に正式な招待が決定した。
そして今日、ついにその時がやって来る。
あとはロロネアからの連絡を待ち、精霊の里へ案内してもらうだけだ。
願ってもいない機会に、僕のテンションは絶賛爆上げ中だった。
ちなみに、正式な招待が決まるまでの数日間で、ジェットコースターのレール作りは9割方終わらせている。
大木のトンネルや泉のエリア以外にも、いろいろと大胆なコース設計を行い、かなり面白い内容になったと思う。
あとは細かい調整を除き、パーク内への乗り場作りと車体作りを残すのみだ。数日もあれば完成するだろう。
さらに、ジェットスライダーとアスレチックにもそれぞれ改良を加えている。
まずジェットスライダーだけど、乗り場の横に信号を取り付けた。
ウォータースライダーとかでよく目にするやつだね。
信号が赤の時は待機の意味で、青に変わると行っていいですよーの合図になる。
利用者が増えると出口付近での衝突事故が起きやすくなるけど、この信号があれば安全だ。
そして、アスレチック――正式名称“魔スレチック”については、先日考えていた難易度調整と脱落者の転移システムを導入した。
序盤のギミックは比較的簡単だけど、上に進むにつれてぐんぐんレベルが上がり、階層の数もいくつか増えている。
特に終盤のギミックは激ムズと呼ぶにふさわしく、今のところレレノンさんとロロネアの2人しかクリアできていない。
その2人もそれぞれ数回、十数回の失敗を経験していると言えば、いかに難しいかが分かるだろう。
難しくしすぎたかなとも思ったけど、壁は高いほうが燃えるようで、森霊族の皆からの評判も上々だ。
同時に取り入れた転移システムも、狙い通りゲーム性の向上に貢献し、皆の挑戦心に火を付けている。
当初はネットへの転落で転移させるつもりだったけど、難易度調整の兼ね合いもあり、おもちゃの矢等の攻撃に当たっても転移が発動するようにした。
ステージ外に落ちても転移、攻撃が掠っても転移……と、元々強かった“ゲーム感”がさらに増した形だ。
魔スレチック人気の高まりと、これまた根強いジェットスライダー人気によって、パーク内はどんどん賑やかになっている。
2つの遊具のアトラクション感、さらにはジェットコースター作りもあいまって、もはや公園というよりミニ遊園地だ。
最初はこうなるなんて予想してなかったけど、将来の遊園地建設の布石と思えば嬉しい誤算だね。
異世界の人達(種族は特殊だけど)にも遊園地が受けるという確信が得られた。
「……っ! 来た来た!」
と、そんなことを振り返っていると、ロロネアからの連絡が来る。
「もしもし? ――うん。了解、すぐ行くよ」
現在ジェットパークに来ているので、そこで待ち合わせようとのことだ。
デスク上の魔遊具を仕舞った僕は、いそいそとクラフト小屋をあとにした。
◆ ◆ ◆
「――リベル。待っていたぞ」
公園の転移ステーションに転移すると、ステーションの前でロロネアが待機していた。
「ロロネア、お待たせ。相変わらず賑わってるね」
「うむ。里内で噂になっていてな」
「はは」
パーク内では多くの森霊族達が遊んでいて、ジェットスライダーと魔スレチックの前に並んでいる。
見覚えのない顔も結構あるので、新規の入園者も着々と増えてるみたいだ。
僕はその様子に口角を上げつつ、ロロネアと共にパークを出る。
森の中を歩いてしばらく経ったところで、目の前に川が現れた。
そういえばロロネアと初めて会った時、川の先に里があるって言ってたかも。
蔓を編んだような細橋を渡り、さらに数分進んだ時、ふと妙な違和感を覚えた。
「ん? なんか変な感じがするような……?」
「里の周りには結界があるからな。その効果が表れているのだろう」
ロロネアが説明してくれる。
以前、里の周りにはカモフラージュの結界があると聞いたけど、部外者の無意識に働きかけて他所へ誘導する効果もあるらしい。
仮にロロネアの案内なしで進んだ場合、見当違いの方向に行ってしまうだろうとのことだ。
「なるほどなぁ」
精霊の里が謎の国とされている最大の理由は、探しても見つからないからだ。
ただ森の中にあるということだけが分かるのみで、自力で里を見つけられた者はいないと言われている。
結界によってそもそも近付くことが困難なわけだから、そりゃ頑張っても見つからないよね。
それから僕はロロネアの案内通り、森の中の道なき道を進んでいく。
僕にはさっぱり分からないけど、里の人間には正しい道が分かるみたいだ。
川を越えてから15分ほどが経った時、ロロネアが足を止める。
「ここが里の入り口だ」
「ここが……?」
立ち止まった場所には1本の白っぽい木が生えているだけで、特に入り口のようなものはない。
「リベルにはまだ見えないだろうな。入るには精霊様の許可が必要なのだ」
「あ、そっか。そういえば前に言ってたね。でも、僕の許可は大丈夫なの? このままだと入れないんじゃ……」
「心配ない。精霊様にも話は通してあるからな。一応、軽いチェックは入るが、リベルなら大丈夫だろう」
「……?」
ん? それってつまり、これからチェックがあるってこと?
ロロネアの言葉に首を傾げていると、目の前の白い木が淡い光を放つ。
「え? 木が――」
驚く僕の前で、淡く光った木の枝がニョキニョキと伸びる。
まるで動物のように動く枝は僕の体のほうへとやってきて、ぴたりと腕に張り付いた。
「もしかして、これが精霊様の……?」
困惑の中でロロネアに尋ねると、彼女はコクリと首肯する。
そのままの状態でおよそ10秒が経った時、枝は僕の腕から離れて木の発光も収まった。
「許可が出たようだな」
「そうなの?」
「うむ。では行こうか」
なんだかあっけなかったなぁ。
そう思い、ロロネアが歩く先に目をやると、さっきまではなかった
ちょうど人が通れるくらいのサイズで、空間の周りを縁取るように白い蔓がアーチを作っていた。
ロロネアは躊躇なくそこに足を踏み入れ、スッと靄の向こう側へ消えていく。
おそらく、これが精霊の里の入り口なんだろう。
彼女の後に続き、おそるおそる靄を通ると、一瞬にして周囲の景色が切り替わる。
「おおっ……!」
それはまさにおとぎ噺の光景だった。
辺り一面に生える白っぽい大木の数々と、そこに茂る緑青の宝石のような葉。
葉の隙間からは無数の木漏れ日が差し込み、キラキラと地面を照らしている。
「――ようこそ、精霊の里へ」
こちらを向いて立っていたロロネアが、笑みを浮かべながら言うのだった。
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