第20話 ロロネア達の戦い

「それじゃあ、しゅっぱーつ!」


 ロロネア達を連れて公園の出口へ向かった僕は、敷地外に出かけていた足をふと止める。


「そうだ、結界」


 僕とロロネア以外も通り抜けられるよう、一時的な通行許可を出していたけど、既に効果は切れているはず。


「レレノンさん、ミルミーさん。ここに手を触れてもらっていいですか?」


 2人に結界を触ってもらい、正式な魔力登録と通行許可を出しておく。


 今後さらに森霊族が増えることを見越して、対策を考えたほうがいいかな?


 1人増えるごとに僕が通行許可を出すのも面倒だし、管理者権限を付与したカードでも作っておこうか。


 それをロロネアに渡しておけば、僕の不在時にも新しい森霊族が入れるからね。


「さあ、それじゃあ気を取り直して。下見するのはあっちだよ」


 3人と共に敷地外へ出た僕は、右手側を指で示す。


「ん? 下見する場所が決まっているのか?」

「あ、どの辺りに作るかは決めてないって言ったけど、なんとなくのイメージはあるんだよね」


 ジェットコースターを作る上で、重要になるポイントが1つある。


 それは乗り場を作る場所。


 最初に“森のジェットコースター”の案が浮かんだ時は、漠然と乗り場も森の中という想定だったけど、森の中に乗り場を作ると分かりづらい。


 それに、ジェットコースターも公園のアトラクションと考えれば、乗り場が公園から遠いというのも考えものだ。


 じゃあどうすればいいのか?


 答えは簡単、乗り場を公園の中に作ればいい。

 

 公園内の乗り場から出発し、深い森中を走るジェットコースター。


 違う世界に入って感じがして、めちゃくちゃ面白そうじゃない?


 そして、公園内に乗り場を作る場合、自ずと設置スペースは限られる。


 敷地内の片側半分は、ジェットスライダーのものだからね。


「――ってなわけで、ジェットスライダーとは反対側のこっちに作る予定なんだ」

「なるほど。公園内から出発する乗り物か。面白そうだな!」


 僕の説明を聞いて、ロロネアが目を輝かせる。


 具体的にどんなアトラクションかはまだ教えていないので、作りはじめてからのお楽しみだ。


 この世界にとってはジェットスライダーと比べても遥かに“異質”な乗り物なので、きっと驚いてくれるだろう。


 そう思いながらニヤついていると、ロロネアが背中の大弓に手をかける。


「そろそろモンスターが出てきそうだな」

「そうね。私が前に出るわ」

「それじゃあ、私は後ろで」

「ふむ、ならば私はリベルの隣にいよう」


 大弓を持ったロロネアが僕の隣に、レレノンさんとミルミーさんがそれぞれ僕の前後に移動する。


「護衛は私達に任せてくれ」

「はは、ありがとう」


 なんだか重要人物になった気分。


「そういえば、モンスター見つける君を試すんだったね。ロロネアとミルミーさん、どっちから試す?」


 僕が思い出して尋ねると、ロロネア達は視線を交わす。


「ミルミーからでいいぞ」

「ありがとうございます。じゃあ私から……」

「了解。ミルミーさんからね」


 ミルミーさんにモンスター見つける君を渡し、装着方法を教える。


 彼女は元から眼鏡を掛けているので、その上からでも着けられるよう、臨時的に固定用の部品を追加した。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 そうしてさっそく着けてもらったところ、ちょっとしたトラブルが発生。


 ノイズのようなものが走るだけで、何も見えないらしいのだ。


「……モンスターが近くにいないのでしょうか?」

「この辺りの奴は来る時に私達が倒したからな。しばらくすれば見えるのではないか?」

「そうですね」


 ミルミーさんの言葉にロロネアが頷くが、僕は「うーん……」と首を捻る。


 モンスター見つける君の感知能力は、並大抵のものではない。


 正しく機能していれば数百メイル先のモンスターだって見えるはずで、何も映らないなんてことはないはずだ。


 だとすれば、何か別の原因が……


「ちょっといい?」


 ミルミーさんにモンスター見つける君を外してもらい、一瞬だけ着けさせてもらう。


 案の定、遠くのほうにちらほらとモンスターの影が見える。


「うーん、もしかして……」


 これまで彼女達に見せてきた魔遊具と違い、モンスター見つける君は純粋に僕のために作った物だ。


 転移ステーションも元々はそうだったけど、送る君2号を作った時に彼女達用の調整が入っている。


 つまり、モンスター見つける君は僕専用にカスタマイズされた状態なので、ミルミーさんには使えなかったんじゃないかな?


 そう思い、ロロネアにも装着してもらったところ、やはりノイズが走るだけだと言う。


「……うん、やっぱりそうだね」


 その状態のロロネアを集中して見てみると、魔遊具とロロネアの魔力が上手く繋がっていないことに気付く。


 まさか自分でも知らないうちに、こんな仕様になってたなんて。

 

 言うなれば、オートの魔力認証システムを組み込んでたって感じかな?


 いや、どちらかと言えば逆なのかも。


【遊者】の魔力が特殊だから、他人の使用を想定せずに作った物は使えない的な。


 まあいずれの場合にせよ、さっと調整すれば解決だね。


 ロロネアからモンスター見つける君を返してもらい、他の人でも使えるように魔力的な調整を施す。


「はい、これで見えるはずだよ。ミルミーさん」

「……? 今の一瞬で何か変わったんですか?」


 ミルミーさんは不思議そうな顔でモンスター見つける君を装着し、「ふええぇぇぇ!?」と大きな声を出す。


「何ですか、これ!? す、すごいですっ……! 遠くのモンスターがはっきり視認できますよ!」

「なにっ!! 私にも貸してくれ――――おおおおっっ!!! 世界も変わって見えるぞ!!」


 続いて装着したロロネアも、興奮した様子で叫ぶ。


「……そんなにすごいの?」

「気になるのならぜひ!」


 興味を示したレレノンさんにも装着してもらったところ、「すごいわね……!」と気だるげな目を見開いていた。


 自分が作った物で驚いてもらえるのは嬉しいね。


 そんなわけで、しばしのリアクションタイムが終了し、僕達は森の下見を再開する。


 モンスター見つける君については、3人で交互に付けることになったようだ。


 今は後衛のミルミーさんが付けている。


 しかし、僕が作った魔遊具の仕様は思わぬ発見だったなぁ。


 先日の無意識的に魔力を消費していた件といい、学ぶべきことがまだまだある。


 1人では気付けなかったことなので、早めに知れたのは収穫だった。


 別に意図してのことではなかったけど、使用者の認証システムは今後いろんな場面で使える気がする。


「リベル君、どっちに進む?」

「うーん……あっちからこうぐるっと回って見たいかな」


 前衛のレレノンさんに方向を伝えて進んでいると、ミルミーさんが「あ!」と声を上げた。


「前方からモンスターが近付いてきます! シルエット的に赤虎かと」

「了解」

「ふむ、大物だな」


 レレノンさんとロロネアが頷く。


 赤狼? 聞いたことないモンスターだけど……


「来ます!」


 ミルミーさんが言った直後、木々の奥から巨体が飛び出す。


 血のように赤い毛皮に覆われた、体長3~4メイルのモンスターだ。


「デカッ! これが赤虎!?」

「私達に任せろ!」


 大弓を構えたロロネアが、緑色に光る矢を放つ。


 放たれた矢は赤狼の眉間を正確無比に捉え、ドゴォッ!!! とすさまじい爆発を起こす。


「グルオォッ!?」

「――油断大敵よ?」


 赤虎が痛みに悶えていると、一瞬で移動したレレノンさんがいつの間にか持っていたナイフをその首筋に振り下ろす。


 ナイフが首筋に当たる瞬間、刃先から濃密な魔力の刃が放出され、赤虎の巨大な頭はあっさり胴体とお別れした。


「おお!」

「――もう1体来ます!」


 洗練された連携に拍手していると、ミルミーさんが再び声を上げる。


つがいか。特大の1撃をくれてやろう」


 冷静に呟いたロロネアが、次の矢を用意しながら言う。


 矢はさきほどよりも強い光を発し、バチバチと青緑の電気が迸っている。


「グオオオオォォッ!!」


 それからすぐ、もう1体の赤虎が飛び出してきた。


 さっきの奴よりもさらにデカい。


「1撃で屠ってやろう!」


 しかし、ロロネアは平然とそう言って、バチバチと鳴る矢を放った。


 空気を割った矢は一瞬で赤虎の眉間に到達し、さきほど以上の爆発を起こす。


 赤虎の眉間にはぽっかりと大きな穴が空き、纏わり付いた青緑の電撃がプスプスと毛皮を焦がす。


 有言実行の一撃必殺だ。


「ふふん! どうだ!!」


 ロロネアが自慢げに胸を反らす。


 あー……うん。


 ロロネア達って、もしかしてめちゃくちゃ強いのでは?

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