第19話 森霊族の身体能力
それから10分ほど。
休憩用に作ったベンチに腰掛けながら、ジェットスライダーで遊ぶロロネア達の姿を眺めていた。
「ロロネアは相変わらずだなぁ」
アクロバティックな回転と共に着地するロロネアを見て呟く。
やっぱり彼女は最後のジャンプが好きみたいだ。
「もう1回!」
ロロネアが階段のほうへ駆けていったところで、少し前に滑りはじめたレレノンさんが出口手前の直線に差し掛かる。
結構な勢いで飛び出すから、最初は心配してたんだけど――
「レレノンさんも、運動神経いいんだよなぁ……」
そう、彼女もなんなく華麗な着地を決める。
少し気だるげな表情とは裏腹に、その動きには見惚れるほどのキレがあった。
2回目からはロロネアみたいに回転を交えはじめたし、心配したのが馬鹿らしくなる。
「でも、楽しんでるみたいでよかった」
レレノンさんが再び階段に向かうのを見ながら言う。
これでたぶん4回目かな?
何度も乗ってくれるということは、きっと気に入ってくれたということだ。
皆の熱が冷めないうちに、ジェットコースター作りも始めなきゃね。
「――リベルさん」
「あ、ミルミーさん」
1人で頬を緩めていると、ミルミーさんが声を掛けてくる。
「魔遊具を触らせていただきありがとうございました……! また今度観察してもいいですか?」
「もちろん。好きなだけ見てくれていいよ」
「ありがとうございます!」
ミルミーさんは頭を下げた後、ジェットスライダーに視線を向ける。
「少し遅くなりましたが、私もあの魔遊具で遊んでいいですか?」
「どうぞどうぞ。あとで感想を聞かせてもらえると嬉しいな。あ、ただ、最後のところでかなりジャンプするから気を付けて」
「分かりました!」
僕は一応注意しておく。
ミルミーさんって、見るからにインドア派だからね。
ちょうど着地を決めたロロネアを一瞥し、ミルミーさんは階段に向かった。
そして、そんな彼女に追い付いたロロネアが笑う。
「お! ミルミーも遊ぶのか! ジェットスライダーはいいぞぉ、特に最後のジャンプがいい。アクロバティックに回転するのがポイントだ」
「いや、そんなポイントはないから!」
思わずツッコんでしまったけど、ミルミーさんには聞こえなかったらしい。
ロロネアの言葉に頷いたミルミーさんは、スライダーを滑りはじめる。
ミルミーさん、大丈夫かな……?
「ふええぇぇぇ―!! 速いですぅぅぅぅぅ!!!」
ほら、めちゃくちゃ驚いてるじゃんか!
ミルミーさんは肩を窄めながら滑っていく。
やっぱり運動は苦手そうだし、アクロバティックなジャンプなんて無茶ぶりだ。
「ふえええぇぇぇー!!!!!」
最後の直線に突入し、ドシュッ! と宙に飛び出すミルミーさん。
盛大に転ぶんじゃ――と立ち上がりかけた僕の不安は、しかし見事に裏切られる。
ミルミーさんは器用に体を回転させ、完璧な着地を決めたのだ。
「えぇ……」
運動苦手じゃなかったの?
不思議に思い、ロロネア達に訊いてみたところ、やはり彼女は運動が苦手らしい。
精霊の里の中でも、運動音痴の部類なんだとか。
あの着地ができて運動音痴って、森霊族の身体能力高すぎない?
いや、森霊族というか、この世界の住人の水準が高いのかな?
稽古相手のディナードとかも、前世の人間ではありえないレベルの強さだし。
「まだ認識がズレてるんだろうなぁ」
この世界に関する知識はそれなりにあるけれど、感覚的な部分については前世の影響が強いんだろう。改めてそう実感した。
◆ ◆ ◆
それからさらに10分ほど休憩を取った後、レレノンさんとミルミーさんにジェットスライダーの感想を聞く。
幸い、感想はどちらも好意的だった。
まずレレノンさんは、高速でパイプを滑り降りる疾走感が気に入ったとのこと。
最後のジャンプも楽しいけど、それ以上に滑走が楽しかったそうだ。
ジャンプ大好きなロロネアとは違い、本来僕が想定していた楽しみ方だね。
疾走感が気に入ったということは、ジェットコースターも気に入ってくれるんじゃないかな?
次にミルミーさんの感想だけど、概ねレレノンさんと同じだ。
パイプ内を疾走する感覚が新鮮で、最後のジャンプもいいアクセントだったとのこと。
滑っていた時の反応的に絶叫系が苦手なのかなと思ったけど、意外にも気に入ってくれたようだ。
まあ、彼女の場合、加速リングの仕組みのほうが気になってるみたいだけど。
純粋に楽しむ心2~3割、知的好奇心7~8って感じだね。
とにかく、ジェットスライダーは皆から好評で、他の仲間も気に入るだろうとお墨付きをもらうことができた。
「よし! それじゃあ、ジェットコースターの開発に着手しようか」
「おお! 新たなる遊具だな!」
「うん。そのためにはまず、コースの下見を行わないと」
「コースの下見? 森の下見ということか?」
「そうそう」
今回のジェットコースター作りは、今までの魔遊具と事情が違う。
木々の間にコースを作る都合上、ポン! と生み出してはい設置! とはいかないのだ。
森の中を実際に下見して、どんなコースにするか吟味しなければならない。
がっつり森を開くという手もあるけど、なるべく自然をそのまま利用したいからね。
「とりあえず今日は、下見で大まかなエリアを決めようと思う。どの辺に作るとか規模感とか、まだ何にも決めてないから」
「ふむ、なるほど」
「ってことで今から周辺を見に行くんだけど、ロロネア達はどうする? もしかしたら今日は何も作らないかもしれないし、暇なら遊んでてもいいけど」
「いや、私はリベルに付いていこう。外にはモンスターがいるからな」
「モンスター? いや、モンスターなら――」
「そうね。私も付いていくわ。リベル君の護衛は任せて」
「いや……うん、ありがとう」
「はっはっは! 任せておけ!」
モンスターなら僕でも倒せるけど、せっかくの厚意なので受け取っておく。
ロロネアもなんか張り切ってるし、手伝いは普通にありがたいからね。
「ミルミーさんはどうする? ここで魔遊具を見ててもいいけど」
「うーん……下見では何か魔遊具を使うんですか?」
「どうだろう……モンスターの発見に役立つ魔遊具とかはあるよ」
「モンスターの発見に役立つ、ですか?」
「そうそう。これなんだけど」
モンスター見つける君を出して見せる。
「これを装着すると、モンスターの魔力がはっきりと見えるんだ。サーモグラフィー……って言っても分からないよね。良かったら試してみる?」
「いいんですかっ!? ぜひ使ってみたいです」
「面白い魔遊具だな。私もいいだろうか?」
「もちろん。下見中に試してもらっていい?」
「了解だ」
「分かりました!」
モンスター見つける君の試用のため、ミルミーさんも同行することが決まるのだった。
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