第17話 森霊族仲間が増えました

「――もしもし、ロロネア?」

『も……もしも……? うむ、ロロネアだ。本当に離れていても使えるのだな!』


 僕が通信に応答すると、驚いたような声で言うロロネア。


 遠距離通信が初めてだったら、そんな反応にもなるよね。


 あと、ノリで言ってみた“もしもし”は伝わらなかった。当たり前か。


 しばし初々しい反応が続いた後、慣れてきたロロネアが『それでだ』と切り出す。


『言伝を頼まれていた件なのだが、無事に開発許可が下りたぞ。過度な伐採などをしなければ、自由にやって構わないそうだ」

「おお、本当!? よかった」

『うむ。それと、仲間にリベルのことを話したところ、ぜひ会いたいと言われてな。公園にも興味があるようだ。2人とも信頼できる奴だから、会ってやってくれないか?』

「はは、そんなにかしこまらなくてもいいよ。いくらでも来てくれていいから」

『そうか! 助かる!』


 ロロネアって妙に真面目だよね。


 とげとげしさはないんだけど、なんか委員長っぽいというか。


 いや、年上で普段は落ち着いているし、どちらかいえば生徒会長……そんなのはどうでもいいか。


 とにかくロロネアが連れてくるという時点で、悪い人達ではないと確信できる。


『それでリベル、今日は公園に来るのか? ちょうど彼女達も暇らしくてな。都合が合えば、連れていきたいと思うんだが』

「あ、それならこの後すぐにどう? 僕もちょうど公園に来ててさ、正直ちょっと暇だったんだよね」

『おおっ、そうだったか! 悪いが、少しの間待っていてくれ。支度が済み次第そちらに行く』

「了解、適当に時間を潰しとくよ。もし僕が公園にいなかったら、話せる君で連絡して」

『分かった。では後ほど』

「じゃあまた」


 僕はロロネアとの通信を切る。


 それにしても、本当にいいタイミングだったね。


 ジェットコースターの開発許可も貰えたので、午後の予定も新たにできた。


 森に出るのは止めて、公園で時間を潰すことにする。


「魔力生成パネルの改良でもしとこうかな」


 さきほど並べたパネルの様子を観察すると、まだまだエネルギーの変換効率に多くの粗がある。


 エネルギー変換の調整はこれまでやってきた魔遊具の調整の中でもトップレベルに難しく、一筋縄では改善させられない。


 隙間時間にコツコツと改良に臨むことが、将来的な効率改善に繋がるのだ。


 しばらく作業に集中していると、再びロロネアから通信が入る。


 もう公園のすぐ傍まで近づいているということらしい。


 僕はパネルの改良作業を止め、入口の近くでロロネア達を待つ。 


 入口には結界を張ってあるから、ロロネア以外の2人も通れるように設定しておいた。


 そうして待つことおよそ1分、ロロネアと2人の女性が公園に入ってくる。


「待たせたな、リベル」

「いやいや、2日ぶり……3日ぶり? だね、ロロネア」


 僕はロロネアと握手を交わす。


 その傍らでは、2人の女性が目を瞠りながらジェットスライダーのほうを見ていた。


「本当にロロネアの言ってた通りなのね……誇張表現かと思ってたのに……」

「はわわわ……すごいです……! こんなのチェスターでも見たことありません……!」

「はっはっは! だから言ったであろう? 絶対に驚くはずだと」

「そうね……疑って悪かったわ」

 

 得意気に笑うロロネアに、ミディアムショートの癖毛を伸ばした女性が言う。


 髪色はロロネアと同じ緑銀色だけど、全体的に暗めの色合いで、日の当たり方によってはアッシュに見える。


 どことなく眠そうな目をしており、半無気力系という印象だ。


 同じ森霊族でも結構違うんだね……なんて当たり前の感想を抱いていると、彼女が俺に視線を移す。


「ごめんなさい、挨拶が遅れたわ。私はレレノン。リベル君の話はロロネアから聞いてるわ」

「レレノンさん、よろしくお願いします」

「ん、よろしくね」


 レレノンさんと握手を交わすと、次いでもう1人――丸眼鏡を掛けた女性が口を開く。


「わ、私はミルミーと言いますっ……! 摩訶不思議な力を持つというリベルさんには興味がありました……!」

「ミルミーさん、よろしくお願いします」

「よっ、よろしくお願いしますっ……!」

 

 ミルミーさんは腰を曲げながら握手してくる。


 はわわわ……とか言っていたし、言動からドジっ子の匂いがするな。


 髪色はやっぱり緑銀色で、ロロネアの髪色の緑を強めたという感じだ。


 髪の長さは、レレノンさんより少し短いくらい。いわゆるミディアムボブというやつだろうか。


 そして、ロロネアやレレノンさんに比べると、どことなく都会的な格好をしている。


 ベースは2人と同じ民族衣装なんだけど、少し学者感があるというか。


 1人だけ眼鏡を掛けているのも相まって、その印象が強いのかもしれない。


「ところでリベル、さきほどから気になっていたんだが……あの妙な装置はなんだ? 前はビーコン? があったはずだが……」

「ああ、そうそう。ロロネア達が来る前にいろいろと改良したんだよ」


 簡単な挨拶も済ませたことだし、皆に新しい魔遊具を紹介することにする。


「この装置は転移ステーション! 機能はその名前の通りだよ」

「転移……ステーション……?」

「名前からしてすごそうね」

「転移って、あの転移ですか……?」


 ロロネア達は揃って首を傾げる。


「まさか、リベルは転移魔法を使えるのか? 世界でも数人しか使い手がいない希少魔法を……」


 使い手が数人の希少魔法……やっぱり転移はそういう位置づけだったか。


 まあ、そりゃそうだよね。


 この世界における魔法というのは、火・水・土・風の4属性+いくつかの特殊属性に振り分けられる。


 しかし、中にはどれにも属さない、無属性魔法と呼ばれるものが存在する。


  ルティアの授業の聞きかじりだから詳しいことは分からないけど、転移魔法はおそらく無属性。


 レアな魔法なんだろうなーとは思っていた。


 ただ、あまりにもあっさりと習得できたものだから、案外レアではないのかも? という一抹の可能性もあったのだ。


 まあ結局、ゴリゴリのレアだったわけだが。


「そうそう。実は僕、転移魔法が使えるみたいなんだ。だからこれはそれを補助するための装置というか……端的に言えば、転移がもっと楽になるというか」

「転移が楽になる? そんな装置は初耳だな」

「そうね、ちょっとよく分からないわ」

「なんかすごいというのは分かります……!」


 ロロネアとレレノンさんが顔を見合わせ、ミルミーさんが目を輝かせる。


 ミルミーさん、知的な印象があったんだけど、『なんかすごい』とか言うんだね。


 ちょっとしたギャップに笑いながら、僕は転移ステーションの使い方を実践する。


 10メイルほど離れた場所に立ち、転移を心で念じるだけだ。


「「「おおっ!!!」」」


 ステーション上に一瞬で現れた僕を見て、3人が声を揃える。


「それは私達でも使えるのか?」

「あくまでも補助の魔遊具だから、転移魔法が使えないとダメだね」


 こうして説明してみると、用途が限られすぎてて笑えるなぁ。


 僕の話を聞いたロロネアは、「そうか……」と心なしシュンとした顔になる。なんかごめん……


「いや、ちょっと待てよ? 補助用の魔遊具を作れば、ロロネア達でも転移できるかもしれない」

「「「えっ!!!」」」

「少々お待ちを――」


 要は、転移魔法それ自体を魔遊具に行わせればいいんだよね?


 転移ステーションがある時点で転移の9割は発動しているようなものだから……あとは送る君のように、転移発動のきっかけとなる魔遊具を用意すればいい。


 というか、ゼロから作る場合でも、送る君をそのまま流用するだけで転移自体は可能なのか。


 転移ステーションを絡めることで、わざわざ回り道をしているまである。


 どのみち、そんなに難しいことじゃないんだけど。


「――できた!」


 案の定、調整はものの数分で終了した。


「はい、これで転移できるはずだよ」

「これは……?」


 ロロネアに渡したのは、テレビのリモコンを1回り小さくしたような魔遊具――“送る君2号”。


 ボタンが1つだけ付いたシンプルな構造で、中には僕の魔力を込めた小さなバッテリーが入っている。


「送る君2号だよ。1号についてはノーコメントで。あっ、そのボタンはまだ押さないでね。

 どうせなら距離を取りたいから」

「……?」


 ロロネアが顔に疑問符を浮かべる隣で、レレノンさんとミルミーさんにもそれぞれ送る君2号を渡す。


 ロロネアだけを贔屓する形はかわいそうだしね。


 新たな出会い記念としてプレゼントしよう。


「さあさあ。皆さん、あちらへ」


 それぞれに送る君2号を渡した僕は、転移ステーションから距離を取るように指示を出す。


「それじゃあ、まずはロロネアから。そのボタンを押してみて」

「う、うむ……」


 まさかな、という顔で頷き、送る君2号のボタンを押すロロネア。


 瞬間、僕が転移した時と同じように、彼女の体が転移ステーション上に現れる。


「本当に転移したああああああああ!!!?」


 さすがはロロネア。素晴らしいリアクションだ。


 遠くに見えるレレノンさんとミルミーさんも、それぞれに驚きの表情を浮かべている。


 その後、レレノンさん達も支障なく転移を成功させ、ロロネアと3人で驚きを語り合うのだった。

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