第16話 転移ステーション
「じゃあ行ってくる!」
「はぁ……お気を付けて」
朝食をとり、ルティアに外出の旨を伝えた後、僕はいつも通りに森へ向かった。
「いやぁ、ここ2日くらいで一気に便利な魔遊具が増えたなぁ」
森を少し進んだところでジェットバイクを出しつつ、僕はしみじみと呟く。
魔石回収を楽にする“コレクターガン”。
魔力を蓄積できる“魔力バッテリー”。
太陽光から魔力を作る“魔力生成パネル”。
訪問者を感知して自動で部屋に送ってくれる“送る君”。
たった2日で出揃ったとは思えない、超絶便利な魔遊具達だ。
「……と、そうだ。送る君といえば」
ジェットバイクに跨りかけていた脚を戻し、ポケットに入れっぱなしだった送る君を取り出す。
「危な……ちゃんと機能を切っとかなきゃ」
通常時の送る君はいわゆるスリープモードのような状態なんだけど、自室前に設置したセンサーが訪問者を感知した途端、即座に起動して転移が発動する。
仮に今、ルティアが僕の部屋の掃除にでもやって来れば、問答無用に転移するわけだ。
便利な能力の反面、うっかりで発動させるとまずい。
僕は急ぎ送る君を改良し、スイッチによるオンオフ機能を付ける。
ふぅ……これで安心だね。
ちなみに、改良前の送る君と僕は魔力的に繋がっていたから、アイテム袋に仕舞っていても作動していたはずだ。
実際、つい先日まで使っていた知らせる君2号は、アイテム袋内にある時もルティアが部屋に来るごとに作動した。
ほんと、魔遊具作りではたまにこういうイレギュラーが起こるから気が抜けない。
試行錯誤の余地が多いことは、魔遊具作りの醍醐味でもあるんだけどね。
閑話休題。
スイッチをオフにした送る君をアイテム袋に仕舞った僕は、ジェットバイクで木々の間を疾走する。
今日の予定についてだけど、一度公園に立ち寄るつもりだ。
魔力バッテリーができたことだし、ジェットスライダーに取り付けたいんだよね。
あ、それと、魔力生成パネルの試験運用もどっかでやりたいね。
まだエネルギーの変換効率に粗があるから、本格的な運用はもう少し先だけど、とりあえず公園の隅でも使って何枚か試そうか。
現状、パネルの大きさは前世のものよりも小さいから、それほど場所は取らないはず。
また、モンスター狩りも公園の近くでやろうと思う。
公園近くのモンスターは比較的強い個体が多く、それだけ経験値が得られやすい。
それに、もしロロネアから連絡が来た際に、合流しやすいメリットもある。
彼女に言伝を頼んでから丸2日以上が経つし、そろそろ連絡が来る頃合だと思うんだよね。
「……お。やっぱ目立つなぁ」
しばらくジェットバイクで空を走っていると、遠くに公園が見えてくる。
ジェットスライダーはとにかく巨大なので、毎回笑っちゃうんだよね。
先日の改良でさらにサイズアップして、もはや公園の半分近くを占めてるんじゃないかな?
というか、もはやどう見ても公園という規模じゃないよね。
近々ジェットコースターも増える予定だし、ちゃんと名前を考えたほういいだろうか。
「なんだろう、ジェットパークとか?」
ジェットスライダーとジェットコースターでジェットパーク。
安直な気もするけど、案外悪くないんじゃない?
ジェットコースターの開発が正式に決まったら命名しよう。
僕は上空の結界を抜け、公園の真ん中に降り立つ。
そういえば、目印として作ったビーコンだけど、もう撤去しちゃっていいかもな。
おおよその方角は覚えたし、ジェットスライダーも魔力を発しているからある程度の距離になれば分かる。
「いや、なんならもう転移できちゃうか」
なんとなく習慣でバイクに乗ってたけど、魔力量的には余裕で転移できるはずだ。
問題は、遠く離れた場所から正確に位置を指定できるかってとこかな。
まあ、そうは言っても、送る君が作れたんだから問題ないだろうね。
送る君による転移は、自動で部屋の座標を指定してるわけだし。
「あ。せっかくだし、ビーコンを座標指定用に改造しちゃおうか」
僕は妙案を思い付く。
送る君と同じ要領でビーコンを転移先に指定すれば、楽に転移できるのではないか?
ビーコンなしでも転移自体は可能だけど、使えるものは使っていかなきゃね。
僕はうんうんと頷きながら、ビーコンの改造作業に取り掛かる。
そうして、およそ30分後。
想定していたよりも手の込んだ、“転移ステーション”が完成した。
いや、最初は単なる転移補助のつもりで始めたんだけどね……
改造するうちにこだわりが出てきて、いろいろと手を加えてしまった。
現在、塔のように建てられていたビーコンの姿はそこにない。
代わりに、地面に埋め込まれた円形の装置が出来ていた。
装置はうっすらと青い光を発していて、どこかSF的な趣がある。
機能としては元々の想定をパワーアップさせた感じで、転移先の座標指定から転移まで全面的にサポートするというもの。
要は、『公園に転移したい』という僕の思念がトリガーとなり、自動的に転移できるってわけ。
正直、ロマンのために作った側面が大きいけど、軽く念じるだけで転移できるのはかなり楽だ。
まあ欲を言えば、屋敷の部屋にでも別の転移ステーションを設置して、ポータル的な感じで行き来するのが理想だけど……さすがに今は無理だからね。
当分は純粋な転移先として使用する形になるだろう。
「んじゃ、ジェットスライダーのほうもやっちゃいますか」
転移ステーションの出来に満足した僕は、続けてジェットスライダーの改良に移る。
改良と言っても、スイッチを付けてバッテリー用のスペースを作るだけだけどね。
転移ステーションの時とは違い、1~2分もあれば十分だ。
「よし、この辺かな」
中心部の太い支柱を件の場所に選んだ僕は、60センチ×40センチほどの縦長の穴を空ける。バッテリーを嵌め込むスペースだ。
穴が露出していると不格好だから、表にはちゃんと扉を作っておくよ。
次に、先日開発したバッテリーの設計図をもとに、新しい魔力バッテリーを作製する。
ジェットスライダーのサイズに対して小さいんじゃないかと感じるけど、バッテリーの内部は空間的に拡張されているので、これくらいの大きさで問題ない。
扉を開けてバッテリーを嵌め込んだ後は、バッテリー表面に浮かんだ数字が『100%』になるまで自ら魔力をチャージしていく。
この辺りも将来的には、太陽光とか他のエネルギー源で完全に補えるのが理想だよね。
「はい、終わりっと」
約15~20秒でフルチャージが完了した。
注ぎ込んだ魔力量は全体の4分の1くらいかな。
ジェットスライダーの稼働に要する魔力量から考えれば、最低でも1ヶ月弱は持つはずだ。スイッチの使い方次第では数ヶ月持つ。
そんなわけで、最後の仕上げにスイッチを追加する。
「場所は……まあバッテリーの横かな」
扉の内外どちらに付けるか迷ったけど、管理上の問題から内側に取り付けた。
扉には魔力を使ったロックをかけて、開錠のためのカードキーを作ろうかな。
僕はパパっと魔力ロック&カードキー作製を済ませ、ジェットスライダーとの間にあった魔力的な繋がりを切る。
試しにスイッチをオフにしてみると、加速リングが発していた光が消え、ジェットスライダーの魔力反応が消失する。
この状態だと、モンスター見つける君を装着しても遠くから認識できないね。
なんだかんだで転移ステーションを設置したのは正解だった。
「ふぅ、順調順調」
伸びをして体を解した僕は、公園の端に移動して数枚の魔力生成パネルを作製する。
あまり日当たりはよくないけど、少ない日照量でどれだけの魔力を生成できるかも重要なデータだ。
なるべく日の当たる方を向くよう各パネルをフェンスに立てかけて、それぞれを別途作った魔力バッテリーに接続した。
「……さて、全部終わったわけだけど」
いろいろとやることがあったけど、想定よりも早く片付いちゃったな。
このままその辺の森に出て、モンスター狩りでも始める?
もしくは、1度屋敷の近くまで戻って、いい感じのパネル設置場所を探すとか?
「うーん、とりあえず公園の外に――」
しばらくの間思案して、とりあえず外に出ようとしていた時――話せる君の魔力を感知した。
グッドタイミング! ロロネアからの連絡だ。
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