第15話 新たなる魔力源

 魔力バッテリーを開発した翌日。


 僕はレクシオン騎士団のディナードと剣の訓練をしていた。


「坊ちゃん、さすがですね!」

「ディナードこそ」


 高速で繰り出される攻撃を1つずついなしながら僕は言う。


「はは、表情に余裕が見えますよ」

「そう?」


 僕はとぼけたように笑って言う。


 実際、ディナードの言うように結構な余力があるんだけどね。


 少し前まではギリギリで対応していた彼の剣筋も、最近は軽く見切れるようになってきた。


 間違いなく、爆速でレベル上げしているのが原因だ。


 剣の技術はディナードに及ばないけど、純粋な力比べでいえば普通に超えてるんじゃないかな?


「今日はこれくらいにしておきましょうか」

「分かった」

 

 お互いに木剣を収め、稽古の時間を終える。


「いやはや、もう私から教えられることはないかもしれませんね。今度団長に稽古相手の打診を出しておきましょうか?」

「いやいや、冗談はやめてよ! ディナードが来てくれるだけでも大ごとなのに」

「はは。冗談ではないんですけどねぇ」


 ディナードは悪戯な笑みを浮かべて言う。


 はぁ……完全に僕の強さがバレてるなぁ。


 一応最近はやりすぎないようにセーブしてるつもりなんだけど、一流のディナード相手に誤魔化しは通用しないっぽい。


 僕の実力を見抜きつつも、なんだかんで知らないふりをしてくれるので助かるけども。


 え? もう手遅れだって?


 うん、僕だってそれは分かってるよ。


 剣術の稽古もそうだけど、他にもいろいろと無理があるもん。


 正直、ルティアなんかにはディナード以上にいろいろバレてるような気がする。


 裏では父さんとかにも報告されててもおかしくないし、むしろ何も言われてないのが不自然なくらいなんだよね……


 1日中1人で外に出た日の夕食時にも、「今日も体調は大丈夫か?」とか言われるだけだし。


 きっと僕が2年前まで寝た切りだったから、しばらくは自由にさせてやろうということなんだろうな。


 僕もそろそろいい歳――順当にいけば学園に行く歳になるし、折を見て両親やルティアには話そうと思っている。


 結局、遊園地作りで全部バレるっていうのが1番だけど。


「坊ちゃん、水分補給はこまめにしておいたほうがいいですよ」

「……ああ、ありがとう」


 ぼーっと考え事をしていた僕に、ディナードが水筒を差し出してくる。


 少し汗を掻いていたので、ありがたくもらうことにした。


「稽古終わりの後の水はしみるね」

「はは。特に今日はそうでしょうね。かなり日差しが強いですから」


 ディナードは別の水筒で水を飲みながら空を見上げる。


 たしかに今日は彼が言うように、一段と日差しが強い。


 そう、日差し……日差し? 


 照り付ける太陽に目を細めた僕は、ふと鮮烈な閃きを得る。


「そうだ……太陽光……!」

「坊ちゃん?」

「水、ありがとね! ちょっと野暮用を思い出した!」


 ディナードに水筒を返却し、自分の部屋へ急ぐ。

 

 そうだ、太陽光――があるじゃないか!


 実は、昨日作った魔力バッテリーについて、別の魔力源がないかなーと思ってたんだよね。


 現状、魔力バッテリーに魔力を充填する手段は、魔石から魔力抽出or僕の手で直接供給の2パターンだけだ。


 もちろん、それでも十分なんだけど、たとえば魔石が不足した時とか、他の魔力供給手段があると便利じゃん?


 そこで今さっき思い付いたのが、ソーラーエネルギーを使うやり方。


 前世で電力というものを知っていて、バッテリーを作っていたからこそ生まれた発想だ。


 もちろん、必ずしも太陽光を使えるとは限らないけれど、【遊者】の能力があればできる可能性は高い。


 ということで、すぐさま自室で試行錯誤してみた結果――できたよ、できてしまったよ、ソーラーパネル。


 見た目は幾何学的な模様の入った黒い板という感じで、前世の物とは少し違う。


 模様に特に意味はなく、真っ黒だと味気なかったのでデザインした。


 言ってみれば、魔法の道具感の演出だ。


 それで、このソーラーパネル――“魔力生成パネル”の使い方だが、魔力バッテリーとコードで繋いで使用する。


 ソーラーエネルギーをパネルが魔力に変換し、それをそのままバッテリーに溜める形だね。


 バッテリーの魔力が満タンになった場合は、パネルの下に組み込まれた予備バッテリーに蓄積される。


 当然、予備バッテリーにも蓄積上限があるけれど、その辺の仕組みはおいおい改良していけばいい。


 今大事なのは、これで新しい魔力源を確保できたということ。


 昨日作ったコレクターガンも革命的な魔遊具だったけど、この魔力生成パネルはそれ以上に革命的な魔遊具だ。


 バッテリーと併せればどんどん魔力が集まるので、まさに前世での電力感覚で魔力を保有することができる。


 パネル専用の広大な土地を確保できれば、遊園地の運営に役立つこと間違いなし。


 もちろん日常においても役立つので、今度どこかにひっそりと設置するつもりだ。


 ふっふっふ……どんどん生活が豊かになるなぁ。


「……っ!」


 パネルをアイテム袋にしまっていると、ふいにドアがノックされてビクッとする。


 そうだ、いつもは知らせる君2号の受信機を傍に置いてるけど、今回は出すのを忘れてたから……


「リベル様、そろそろ夕食のお時間なのでご準備を」

「分かった。少し待っててもらえる?」

「かしこまりました。外でお待ちしています」

「うん」


 顔をのぞかせたルティアがドアを閉めた後、服装を整えて準備をする。

 

「知らせる君2号といえば、自動転移装置も作っとかなきゃだったんだ」


 ずっと頭にはあったんだけど、まだ作ってないんだよね。


 魔力生成パネルを作った勢いのまま、今日中に作っちゃおうかな。


 そしてその夜、眠い目をこすりながら開発に勤しみ、自動転移装置――“送る君”も無事完成させた。


 ふふ、僕は有言実行の男なのだよ。


 これからは森に出ていようと、ルティアがドアの前に来ただけで部屋に転移できるはずだ。


 あ、自動のアイテム収納機能はまだ実装してないけど。


 そうして翌日の早朝、アイテム収納機能も忘れずに付け足した僕は、送る君のテストのために森へ出た。


 ちゃんと動くか少しだけ不安だったけど、転移はしっかりと発動した。


 いきなりの転移で思わず大きな声が出て、ルティアに聞かれちゃったけどね、はは。

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