第13話 チート10歳児と次なる遊具

「しかし、不思議なものだな……これだけ有用であれば魔力消費も大きそうだが、ほとんど魔力を消費した感覚がないぞ? なんなら消費していないような気も……」

 

 通信機――正式名称“話せる君”のテストが終わった後のこと。


 話せる君を見つめながら、ロロネアがそんなことを言った。


「魔力消費?」

「うむ。通常の魔道具は魔石をエネルギー源にしているが、この話せる君には魔石を埋め込むスペースがないように思える。前にもらった知らせる君はともかく、話せる君の機能のすごさを考えれば、それなりの大きさの魔石が要るはず。だから魔石の代わりに、使用者の魔力を消費するタイプかと思ったのだが……」

「なるほど、魔石……」


 僕はロロネアの言葉にハッとする。


 言われてみれば、屋敷においてある魔道具類には魔石を嵌めるスペースがあった。


 魔石は魔力の供給源、いわば電池のような役割だ。


 でもその一方、僕が作ってきた魔遊具達には、魔石を嵌めるための場所がない。


 実体化時の触媒として魔石を使うことはあるにせよ、実体化後は魔石がなくても作動する。


「たしかに、魔石は使ってないよ。使用者の魔力消費については、うーん……」


 もしかしたら魔力消費なしでも使えるのではと思いかけた時、ここ数日の間なんとなく魔力が少ないような、妙な感覚があったことを思い出す。


 暇な時間は魔遊具作りに割いているため、今回は多めに消費したのかなと思ってたけど、もしかして――


 僕はジェットスライダーに目を向ける。


 加速と減速のリングは、常時効果を発動する仕様だ。


 それに、公園の周りを囲うフェンス。


 こちらについても、モンスターの侵入を防ぐための効果を常に発動しているはずだ。


 それらの効果を常に維持するため、知らず知らずのうちに魔力を使っていたとしたら?


 うん、たぶんそういうことだろうね。


 実体化に要する魔力に比べると微々たる量だから、あまり気にならなかったんだろう。


「ああ……ってことはきっと、話せる君の魔力も僕が肩代わりしてたのかもなぁ」

「肩代わり? そんなことができるのか?」

「たぶんね。魔遊具は僕の能力で直接生み出したものだから、僕との間にパス――魔力的な繋がりがあるんだと思う。だから意識しなくしても勝手に魔力が消費されるし、ジェットスライダーとかも常に機能する」

「ふむ、魔力的な繋がりか。リベルが言うのならばそうなのだろうな。というか今、ジェットスライダーと言ったか? まさかあの遊具にも魔石は……」

「使ってないね」


 僕がそう答えると、ロロネアは目を瞠る。


「……既に何度も感じているが、改めてとんでもない魔力量だな」

「はは、みたいだね」


 薄々僕も気付いてたけど、今の僕の魔力量ってこの世界の中でも上位だよね。


 レベルアップの回数ももはや数えてないし、完全にチート10歳児だ。


 とはいえ、遊園地を作るためにはまだまだ魔力が欲しいから、特訓は自重しないけど。


「あれ、そういえば……」


 すっかり忘れていたけれど、アイテムボックス系の魔遊具も常時発動型だよね。


 だとすれば、その分の魔力も消費しているはずだ。


 最後にアイテムボックス類を作ったのは、もう1年以上前のこと。


 はっきりとは覚えてないけど、ここ数日で感じていた違和感に近いものをその時にも感じていた気がする。


 実際、ジェットスライダーとかと同様に、常に魔力を使ってたんだろうね。


 魔力の総量が増えたことと、時間経過に伴う慣れにより、いつの間にか感じなくなったというだけで。


 うん……なんというか、知らないオプションで勝手に課金されていた気分だ。


 今のところは特に問題ないように感じるけど、何らかの対策は必要かもね。


 遊園地を作るということは、常時作動型のアトラクションをたくさん作るということだし。


「うーん……魔石を嵌め込む形に改良しちゃうとか? 魔石は腐るほど持ってるし」


 僕は腕を組みながら唸る。


 魔石でどれくらいの魔力をまかなえるか分からないけれど、足りない場合はハイブリット車のように僕の魔力と併用すれば問題ない。


 でも、なんていうか、もっといい方法を思いつきそうな気がするんだよね。


 この問題は一旦頭の隅に置いておき、帰った後にでも考えよう。


 僕はパン! と手を叩いて、再びロロネアに目を向けた。


「さて、それじゃ遊具の話に戻ろうか。ジェットスライダーはひとまず完成として、次の遊具を考えようと思うんだけどどうだろう?」

「新しい遊具!!!」


 ロロネアの瞳が輝く。


「案は既に浮かんでいるのか?」 

「いや、特にあるわけじゃないけど、順当にいけばブランコとかかな」

「ブランコ?」

「こんな感じで、ブラブラ揺れる遊具のことだよ」


 僕は魔力をインク代わりにして、空中にブランコの絵を描く。


「おお! 面白そうだな。精霊の里にも少し似たようなものがあるぞ」

「そうなの?」

「うむ。大木の上から垂れたつるを結んで作るんだ。特に名前は付いていないがな」

「なるほど」


 蔓で作った自然のブランコか。


 前世でも似たようなものがあったから、なんとなく想像はできる。


「でも、既に似たやつがあるなら他の遊具にしたほうがいいかな?」

「いや、リベルの作りたいものを作って構わんぞ。滑り台? も最初の設計図では簡易的な造りだったが、最終的にああなっただろう?」

「はは、まあたしかに」


 ジェットスライダーに、もはや滑り台の原型はない。


「ただ……その、なんだ……ブランコ? の進化系にも興味はあるのだが、欲を言えば……」

「欲を言えば? 要望があるなら歓迎するよ」


 遠慮がちに言うロロネアに続きを促すと、彼女は「う、うむ……」と口を開く。


「ジェットスライダーの進化版のような遊具があれば……と思ってな」

「ジェットスライダーの進化版?」

「うむ。これがさらに大きくなって、たとえば森のほうまで伸びたら面白いと思わないか? 木々の間を縦横無尽に走るジェットスライダー……嗚呼、素晴らしきかな!」


 興奮気味に語るロロネア。


 完全なジェットスライダーフリークだ、これ。


「でもそっか、木々の間を走る遊具……良いアイディアかもしれないね」

「おお、そうか! もちろん、難しそうなら無理にとは言わないが」

「いや」


 やろうと思えばできないことはない。


 ジェットスライダーの大きさをある程度以上にできないのは、単にスペースが限られていたからだ。


 森のほうまで使えるスペースが広がると、遊具の可能性もぐっと広まる。


 ロロネアは森の中のジェットスライダーと言ったけど……いっそのことスライダーと言わず、アレ、作れちゃうんじゃないか?


 そう、ジェットコースター。


 森の中を走るジェットコースターって、昔から憧れてたんだよね。


「ふふふ……」

「リベル?」


 想像を膨らませながら、僕は口角を上げる。


 なんとなしに始めた公園作りだったけど、思わぬ形で遊園地との繋がりが生まれたのであった。

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