第12話 ジェットスライダーの改良と通信機

 改良を続けること約2時間。


 ジェットスライダーは大きく様変わりしていた。


 一昨日は魔力量の関係で高さくらいしか弄れなかったけど、今回はコースの形状も変わっている。


 なんというか、だいぶ調整が上手くなったみたいなんだよね。


 大きい魔遊具の変形には大量の魔力が要るんだけど、だんだん要領を掴みはじめ、魔力の節約が可能になった。


 単純に同じ操作に要する魔力量で言えば、おそらく一昨日の2分の1、下手したらそれ以上に減ったんじゃないかな? さすが【遊者】の順応力。


 で、具体的にどう形状が変わったのか?


 端的に表現すれば――縦横無尽といった形。


 元のジェットスライダーは全体的に綺麗な螺旋を描き、イレギュラーな箇所は少なかったけど、今は螺旋の中に螺旋があったり、斜めに走るパイプが多かったり、ぱっと見ではどう繋がっているか分からない。


 また、出口部分の傾斜が大きくなり、減速リングの数も減らしたことで、結構な角度・スピードで飛び出すようになった。


 ちょっとした人間ロケットと言っていい。


 正直危ないんじゃないかと思ったけど、ロロネアは余裕で着地し、「問題ない」と笑っていた。


 むしろその部分を1番楽しんでいる節さえある。


 ちなみに、出口の手前にある直線状のパイプだが、上部分を取り除いた形に変更した。


 断面で見ると半円状の形だね。ウォータースライダーでよくあるやつ。


 そろそろ出口ですよーという合図に加え、爽快感を出す目的がある。


 あ、それと念のため、着地する部分には“衝撃吸収マット”を敷いてるよ。


 万が一着地に失敗したら怖いからね。


 僕も何回か試してみて、かなりの衝撃吸収能力があることを確認済みだ。


「おおおおおー!!! やはり爽快感抜群だなっ!」


 間に合わせで作った椅子で休憩中の僕の前で、ロロネアが大ジャンプからの着地を決める。


「楽しんでるね、ロロネア。今日の改良は一旦終わりにしていい?」


 というか、ジェットスライダーはこれで完成としていい気がする。


「とりあえず、知らせる君の代わりの魔遊具を作るから、しばらく遊んでて。あ、もし暇だったら、別に公園の外に出ててもいいよ」

「了解した!」


 ロロネアはジェットスライダーの階段へ走っていく。


 もう何回も乗ってるのに、本当気に入ったんだなぁ。


「……さて」


 僕は椅子の前にクラフト台を出す。


 今のうちに通信の魔遊具を作製しよう。イメージは既に頭の中にある。


 通信の道具といえば、やっぱり携帯電話。


 といっても、単に連絡を取るための物だから、トランシーバーのほうが近いけど。


 ひとまず、電話番号とかはなしにして、知らせる君(1号)と同じボタン式にする。


 発信用のボタンを押すと、相手側の機器に魔力の通知が行く形だ。


 知らせる君(1号)との違いは、通知の後に会話が可能かどうかだけ。


「親機と子機の差別化は……しなくていっか」


 知らせる君(1号)の時は通知側と受信側に分かれてたけど、今回はどちらも同じにする。


 こちらがボタンを押せば向こう側に連絡が行くし、逆の場合もまた然りだ。


 何か伝え忘れたことがあった時とか、向こうから連絡できないと不便だしね。


 あとは見た目のデザインだけど、知らせる君(1号)と同じ感じでメタリックな質感にしようか。


 話しかける部分には、マイクとかで見る小さな穴を空けておく。


 穴なしで声を拾わせることもできるけど、ないとなんだかしっくり来ないから。


「できた!」


 知らせる君(1号)をベースに作ったため、作業は思いの外早く終わる。


 また、機能も最低限に留めたことで、実体化時の魔力消費も少なく済みそうだ。


「そういえば……」


 ふとロロネアのほうを見ると、まだジェットスライダーで遊んでいる。


 今は出口から飛び出した後のアクロバティックな動きに挑戦しているようだ。


 くるくると数回転の宙返りを決めた後、「もう少し回れたな……」等と呟いている。


「ロロネア、もう魔遊具ができるよ」


 そのまま階段に向かいかけた背中に声をかけ、準備ができた旨を伝える。


「ん? ずいぶん早かったな。通信? の魔遊具だったか。この知らせる君とは違うのか?」

「知らせる君の進化版だよ」


 僕はそう答えながら、実体化のために魔力を使う。


 数秒後、手のひらに収まるサイズの通信機が2つ出現した。


「おお! 少し知らせる君に似ているな?」

「デザインのベースは同じだからね。でも性能は全然違うよ? はい、この小さなボタンを押してみて」

「ん? これか?」


 僕はロロネアに通信機の1つを渡し、中央部に付いた丸いボタンを押すように言う。


 発信のためのボタンだ。


 ちょっとしたこだわりとして、ボタンにはデフォルメされた電波のマークを付けている。


 ロロネアがぎこちない動きでボタンを押すと、僕の通信機から魔力が生じ、電波マークのボタンが緑に点滅する。


「なんか光ってるぞ!?」

「うん、ロロネアから通信が来てるって証拠だよ。この光っているボタンを押すと……」


 僕は点滅中のボタンを押して、「あーあー」と送話口に話しかける。


「……!? ここからリベルの声が聞こえたぞ!?」


 驚いた顔で通信機を見るロロネア。


 うんうん、知らなかったら驚くよね。彼女の反応はやっぱり新鮮で面白い。


「この送話口――小さな穴がたくさん空いた部分で声を拾って、上部にあるスピーカーから声を届けるんだ」

「そうわこう……すぴぃかぁ? よ、よく分からんが、すごいのだな……」

「うん、便利だよね。今は通信が繋がってる状態だから、ロロネアも話しかけてみてよ」

「わ、私にもできるのか? たしか、この部分が声を拾うんだったか……」


 ロロネアは口が付きそうなところまで顔を近づけて、「ど、どうだ?」と尋ねてくる。


「はは、そんなに近づけなくても、これくらいの距離で喋れば大丈夫だよ。ちゃんと聞こえるから」

「う、うむ……分かった」


 それから僕達は使い心地のチェックのため、1分ほど適当に雑談する。


 魔法の力で声を届けているからか、電話よりも声がクリアに聞こえ、かなり使い心地がいい。


 距離が離れると多少のノイズが入る可能性こそあれど、十分に使えることはたしかだ。


「うん、問題なさそうだね。通話を切る時なんだけど、こっちのボタンを押せばいいから」


 僕は発信ボタンの横に付いている別のボタンを指で示す。


 電波マークに斜線が引かれたボタンだ。


「僕が押してもロロネアが押しても通話が終わるから気を付けて。通話が続いてるかどうかは、発信ボタンの光を見れば分かるよ。今は緑に光ってるでしょ?」

「ふむ、なるほど」


 頷くロロネアに見せながら、僕は通話終了ボタンを押す。


 ふっと魔力が切れるが感覚と共に、点灯していた発信ボタンの光が消えた。


 その後、ロロネアのほうから発信するパターンも試し、通信機のテストを終える。


 ちなみに、発信後に30秒間応答がなかった場合は、自動的に魔力が止まるので安心だ。


 ふふ……これで明日以降は、ロロネアの協力を得やすくなるね。

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