第10話 知らせる君1号&2号

 滑り台の調整を始めた数時間後。


 夕暮れ時が近付いてきたので、そろそろ帰ることにした。


「リベル、今日は楽しかったぞ。明日もここに来るのか?」

「うーん……明日は屋敷で予定があるから、来るとしても遅めになるかな。もしかしたら明後日になるかも」

「そうなのか」

「うん」


 僕はそう言って頷く。

 

 最初は丁寧だった口調も、ロロネアさん改めロロネアからの提案で砕けたものに変化した。


 この数時間でずいぶんと打ち解けたからね。


「うーむ、ぜひ調整には付き合いたいが……時間を合わせるのがな」

「うーん、そうだね……」

 

 僕達は唸りながら、滑り台――正式名称“ジェットスライダー”に目を向ける。


 調整の結果、高さが少しだけ増している。


 ただ、サイズがサイズなだけに調整が大変で、大幅な改良はまだできていない。


「僕としても、ロロネアが手伝ってくれるのは嬉しいし……何か、来ることを知らせる魔遊具でも作ろうか?」

「おお! そんなことができるのか?」

「たぶん。簡単な物ならね」


 今は魔力が減っているから高度な魔遊具は無理だけど、来訪を知らせるくらいの機能なら問題ないはずだ。


 そうだね……たとえば、呼び出しボタン的な物はどうだろう?


 レストランとかでよく見るやつ。


 悲しいことに、僕にとってはナースコールのイメージが強いけど。


「ちょっと待ってて」


 僕はクラフト台をその場に出すと、簡易的なホログラムを組み上げる。


 本当にただの呼び出しボタンという感じだ。


 通知側と受信側の2種類から成る。


 通知は一方通行なので、受信側にボタンはない。


「じゃあ出すよ」


 1分余りで調整を終え、それらを実体化させる。


 せっかくなので、メタリック風のかっこいいデザインにしてみた。


「おお! 何だそれは!?」

「呼び出し装置だよ。はい、これがロロネアのやつ」


 ロロネアに受信側の物を渡す。


 うーん、一応名前を付けときたいな。


 よし、シンプルに“知らせる君”で。


 僕が持つほうを親機、ロロネアのほうを子機としておこう。


「どうやって使うんだ?」

「僕がこっちのボタンを押すと、そっちから魔力が発生するんだ。あそこにあるビーコンの弱い版みたいな感じ」

「なるほど」

「1回試しとこうか……どう?」

「おおっ、ちゃんと魔力を感じるぞ! すごいな、どういう仕組みなんだ……?」


 僕が親機のボタンを押すと、ロロネアが感心した様子で反応する。


「よしよし、ちゃんと機能してるね」


 あまり大きな魔力を発しても迷惑かと思い、弱めの魔力にしてみたけど、特に問題はないみたいだ。


「離れた場所でも問題なく使えるとは思うんだけど、万が一使えなかった時はごめん。とりあえず、僕がここに来る時は直前にボタンを押してみるよ」

「了解した」


 精霊の里は結界があるということだし、上手く通信できない恐れもある。


 細かい内容を伝えることもできないので、早いうちに通信の魔遊具でも作っておこう。


「それじゃあ、また」

「うむ、楽しみにしているぞ」


 手を振るロロネアの前でジェットバイクに乗り、離陸する。


「ふぅ」


 いやぁ、実に濃い1日だった。



 ◆ ◆ ◆



 その翌日。


 午後遅くまで屋敷での予定が長引いたため、公園に行くのは断念した。


 公園行きは比較的時間のある明日に回し、森でのモンスター狩りレベル上げに専念する。


 そうそう、モンスター狩りと言えば、今後は早朝や夜の時間帯でも隙を見て森に行きたい。

 

 たまにルティアとかが部屋に来るから、今までは諦めてたんだけど、警報装置的な魔遊具を作れば行けると思うんだよね。


 発想のきっかけは、昨日作った“知らせる君”。


 あれはボタンを押すことで子機から魔力が発生するけど、ボタン部分を感知センサーに変えればいい。


 つまり、部屋の前に誰かがやって来た時、それを感知させればいいのだ。


 そうすれば、離れた場所にいながらにして、来訪者の存在を知ることができる。


 問題は、即座に転移できるかだけど……今の僕ならたぶん大丈夫。


 結界の外に出る時は毎回転移を使うから、転移のやり方には慣れている。


 森の浅い部分から自室への転移くらいならば、魔力量的にも問題ないだろう。


「思い立ったら即行動……っと」


 その夜、風呂に入って自室に戻って来た僕は、すぐにセンサー作りに取り掛かる。


「センサーがバレたら意味ないし、見つからない形にしとかなきゃ」


 数分の試行錯誤の末、床に設置する形に落ち着く。


 透明な膜のようなセンサーで、踏まれると感知する仕組みだ。


 僕の部屋が角部屋でよかった。


 廊下の途中にある部屋だと、人が通る度に感知するからね。


 僕はこっそりと暗い廊下に出て、今しがた作ったセンサーを設置する。


 手元に対となる受信機を持ち、センサーの上に立ってみると、受信機から微弱な魔力が発生した。


 急ごしらえだったけど、上手く応用できたみたいだ。


 名前は“知らせる君2号”にしておこう。


「――よし」


 そんなわけで翌朝。


 早い時間に目が覚めたので、知らせる君2号の運用がてら森に転移する。


「ふふ……これはレベル上げが捗るぞ!」


 次々とモンスターを狩りながらほくそ笑む。


 モンスター見つける君、レーザーガン、スピードシューズを駆使すれば、1時間くらいでもかなりの数のモンスターを狩れる。


 最初の頃と比べると見違えるようなスピードだ。


「それにまさか、こんな魔石回収のやり方があるなんて……」


 僕は倒したモンスターの胸元にアイテム袋を近づけて、収納するように念じる。


 すると、シュン! と魔石の反応が消え、アイテム袋に転送された。


 この方法は、ついさっき偶然見つけたやり方だ。


 狩りの効率を上げるため、魔石の回収を省略できないかと試したところ、あっさりと成功してしまった。


 固定観念を取り払うのは大事だね。


 これまでのようにナイフで取り出す必要がなくなったのは大きい。


 ちなみに、まさか生きている相手にも……? と思い試してみたけど、死んでいる相手限定のようだ。


 まあ、倒す際はレーザーガンで一瞬なので、そんなに変わらないと思うけど。


「でもなんか、もっと効率化できる気がしてきたなぁ」


 モンスターの亡骸から直接魔石を抜き取ることが可能なら、遠隔でも可能なんじゃないか?


 さすがに念じるだけじゃ厳しいけど、そこは魔遊具の力でカバーすればいい。


 そうだな、たとえば……魔石回収用の銃なんてどうだろう?


 撃った亡骸の魔石を感知して、アイテム袋に移送するみたいな。


 まあまあ複雑な機構になりそうだけど、うん……【遊者】の力があればいける気がする。


「くっくっく……これは革命が起きますぜぇ?」


 妙な早朝テンションで独り言ちた時、ふいにポケットから微弱な魔力を感知した。


 知らせる君2号の受信機だ。


「やばっ、完全に忘れてた!」


 慌ててレーザーガンとモンスター見つける君を収納し、転移の魔法を発動する。


 直後、ボフッ! とベッドに落ちる僕の体。


「リベル様? 入りますよ?」


 くぐもったルティアの声がして、ドアがノックされる。


 僕はスピードシューズを履いたままだったことに気付き、急いで足に布団を掛けた。


「リベル様、おはようございます……なぜベッドに座っているんですか?」

「ああ……ちょうど起きたとこだったんだ!」

「そうでしたか。朝食の準備ができていますよ」

「う、うん……! すぐ行くよ」


 布団の中でサッとスピードシューズを仕舞い、ルティアの後に付いていく。


 よかった、ギリギリセーフ。


 怪しまれてはいないみたいだね。


 そう思い、ほっと息を吐いていると、ルティアがくるりとこちらを向く。

 

「……ところで、どうして汗だくなんですか?」

「あ」


 咄嗟に口を押さえかけ、ゴホンと咳払いで誤魔化す。


 うん、やっちまったね。汗は盲点だったなぁ。

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