第9話 滑り……台?
「――クラフト!」
「おおっ、台が現れたぞ!」
ポン! と現れた作業台に、ロロネアさんが目を見開く。
「それは何だ?」
「クラフト台……物を作りやすくする台です」
まあ、なくても作れるっちゃ作れるんだけど。
特に細かな調整が必要な時は、やはり台があったほうがいい。
え? 遊具を作るには台が小さすぎるって?
ふふ、その点も【遊者】の応用力があれば問題ない。
クラフト台で作った魔遊具のサイズは、後から自由に変更が利くからね。
じゃないと、身長よりも大きな遊具を調整するのは大変だし、サイズを間違えると取返しがつかなくなってしまう。
「うーん……何を作ろうかな」
定番はやっぱりブランコや滑り台……うん、決めた。滑り台にしよう。
即決した僕は、台上にホログラム状の設計図を描いていく。
まずは一般的な滑り台の形から始めて――
「な、なんだ!? 面妖な線が現れたぞ!?」
作業に集中していると、ロロネアさんが大きな声を上げる。
初めて見るホログラムに驚いたみたいだ。
けど、この状態って他の人にも見えるんだね。
勝手に見えないものかと思っていた。
危ない危ない。屋敷で作業する時は、周りの目に気を付けないと。
「これは一体……」
「設計図って言えば分かりますかね? ここで遊具の形を調整・拡大して、あとでポン! と出すんです」
「ほぅほぅ……おおっ! みるみるうちに線が変形するぞ!」
手を動かしながら説明すると、ロロネアさんが嬉しそうに言う。
さっきから薄々思ってたけど、めちゃくちゃリアクションいいよね。
ホログラムを調整する度に逐一反応してくれるので、なんだか楽しくなってくる。
「よし、もう少し高さを出してみよう」
興が乗ってきた僕は、どんどんホログラムを増築する。
魔法の滑り台なんだから、爽快にスピードを出したいよね。
通るたびに加速するポイントを設置するとか? 某レースゲームの加速床みたいなイメージ。
うん、面白いアイディアだと思うけど、カーブ時に飛び出す危険があるね。パイプ型にしようか。
形状は……高いところから螺旋状に降りる形はどうかな?
高さの上限はないんだから、縦に増やす分には問題ないよね。
あとは……そうだ、加速ポイントがあるんだし、少しくらい上昇する場所があっていいかも。
もはや滑り台とは言えないけど……面白ければそれで良し!
そうして、あれやこれやと手を加えること30分。
「――できた!」
無事に良い感じのホログラムが完成する。
「それじゃ、実際に遊具を出しますね」
「う、うむ……!」
興味津々な表情で頷くロロネアさん。
僕はそれを見て頷くと、実体化のために魔力を込める。
「おっ……!?」
思ったよりも魔力を持っていかれるね。
体感、全魔力の2分の1くらいは使いそうだ。
やはり、大きな物を作るには相応の魔力が求められる。
これからも魔力量アップの修行は続けたほうがよさそうだ。
必要分の魔力が消費された後、シュポン! と軽快な音がなる。
そうして現れたのは、軽快な音で出来たとは思えないほど巨大な滑り台。
「おおおおっ!! デカいのが現れたぞ!」
突如生まれた滑り台を見て、ロロネアさんが嬉しそうに叫ぶ。
うん、やっぱりこの人リアクションいいよね。
なんとなく森霊族=寡黙ってイメージだったんだけど、イメージが塗り替えられてくな……
ただ、彼女が大きなリアクションをとるのも尤もだ。
目の前の滑り台は、僕でも驚くほどに迫力があった。
まずなんといっても、デカい。高さ30メイル……いや、40メイルはあるんじゃないか。
パイプ型なのも相まって、もはや滑り台というよりウォータースライダーに見える。
そして、その巨大さに負けず劣らず、デザイン面のインパクトもすごい。
滑る時の景色を考えてパイプ全体を透明にしたんだけど、これがなかなかにかっこいい。
まばらに配置されたリング型の加速ポイントもいい感じだ。
なんだろう、独特の未来感があるというか。
「リベル! 試してみてもいいか?」
滑り台の出来に満足していると、ロロネアさんが声を掛けてくる。
未知の遊具に好奇心を刺激されたのか、ソワソワした様子だ。
「もちろんです。ぜひ試してみてください」
「うむ。遊び方は、あそこから滑り降りるやり方で合っているか?」
僕が頷くと、ロロネアさんは階段を上りだす。
「あ、階段はキツイかも――」
この遊具における欠点の1つが階段だ。
中心部を貫く形の螺旋階段で、上り切るのが結構大変……と思ってたんだけど、どうやら杞憂だったらしい。
さすがは鍛え抜かれた異世界人。
数段飛ばしでひょいひょいと上り、あっという間に天辺に辿り着いた。
よくよく考えれば、たぶんあの人フェンスを越えて来てるんだよね。
5~6メイルのフェンスを越える身体能力があるんだから、この階段も敵じゃないか。
「では滑るぞー!」
「はは、どうぞー」
笑いながらロロネアさんの声に応えると、彼女は「いざ!」とパイプに入る。
瞬間、入口付近に配置した加速リングによってその体がギュン! と加速した。
「おおおおおー!!!」
「速っ!」
透明なパイプの中を、弾丸のように進むロロネアさん。
自分で作っておいてなんだけど、びっくりするようなスピードだ。
ロロネアさんの叫び声が近付いては遠ざかり、あっという間に終盤に差し掛かった。
安全のために設置しておいた複数の減速ポイントを通過して、ロロネアさんが出口からぴょんと飛び出す。
「あ」
想定よりも勢いが強く、受け止めるべきかと動きかけたが、ロロネアさんはシュタッと見事な着地を決める。
ほっ……彼女の身体能力が高くてよかった。
あと、出口直前に設けていた傾斜にも助けられたね。
もし傾斜を付けていなかったら、飛び出すや否や地面にズザザー! となっていただろう。
「すみません、思ったよりもスピードが――」
「もう1度行ってくるっ!!」
僕が言葉を言い終わる前に、駆け出していくロロネアさん。
さっきよりも軽快に階段に上ると、今度は「ははははーっ!!」と笑い声を上げながら滑る。
「うん……とりあえず、気に入ってはもらえたかな?」
ロロネアさんは滑り終わると、間髪入れずに3度目の滑りに向かった。
勢いで作った滑り台? だったけど、成功といってよさそうだね。
その後、ロロネアさんの意見を聞いたり、実際に僕も試したりしながら、滑り台の調整を続けた。
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