第7話 秘密の楽園

「…………広っ!」


 ジェットバイクでの探索を始めて数日。


 僕は思ったよりも森が広いことに気が付いた。


 てっきり、空をバイクで飛んでいればすぐに禁域が見えるかと思っていたんだけど、意外にも禁域が遠い。


 書庫にあった本と地図を引っぱり出してよくよく調べてみた感じ、どうも山の向こうにあるみたいなんだよね。


 僕がこれまで探索していた森は、その山の麓の部分だったってわけ。


 具体的な禁域の方角をルティアに聞いたわけではなかったから、気付くのが少し遅くなった。


 どうすれば禁域に行けるかなんて、直接尋ねるわけにはいかないからね。


 で、すぐに山を越えてもよかったんだけど、しばらくは森の探索を続けることにした。


 森のモンスターは奥に進むほど強くなる傾向があるため、経験値的に美味しいのだ。


 それに、山を越えた先で、一気にモンスターが強くなっても困る。


 禁域の下見は急ぐほどのことでもないし、まずは十分な特訓を積もうというわけだ。


 そうして、さらに1週間ほど探索を続けていた日のこと。


「ん? あれは……」


 バイクで空を飛んでいた僕の視界が、開けたスペースを捕捉する。


 鬱蒼と木々が茂る中、ぽっかりと空いた穴のような場所――いわゆるギャップというやつだ。


「行ってみようか」


 僕はバイクの高度を下げて、開けたスペースに向かった。


 実際に地面に降りてみると、上空で見た時よりも広く感じる。


 ちょっとした体育館くらいはあるんじゃないかな?


「いいね!」


 森の中にひっそりと空いた、体育館サイズの空間。


 秘密の場所といった感じで、少年心がくすぐられた。


「うーん……何かに使えないかな?」


 しばしの間神秘的な空気を楽しんだ後、倒木に座って考える。


 屋敷ではできないような、大きな物のクラフトに向いてそうだけど――


「そうだ!」


 僕はポンと手を叩く。


 遊園地作りの前段階として、公園を作ってみるのはどうだろう?


 公園といっても、【遊者】の力で進化させた公園だ。


「うん、いい。実にいい」


 ここは広大な森のど真ん中だし、誰かに見つかる心配はない。


 自分だけの自由な楽園。


 これはワクワクが止まらないぞ!


 すっかりテンションが上がった僕は、さっそく邪魔な倒木の撤去を開始する。


 長さ2、30メイルの大木も転がっているが、高いステータスと魔遊具があれば楽勝だ。


 使用する魔遊具は“ストロングローブ”。


 初期に開発した魔遊具の1つで、大幅に腕力を上げる効果がある。


 もともとは攻撃力アップに期待して作った物だけど、ステータスの上昇に伴い使う機会がなくなった。


 レーザーガンが便利だって理由もあるけど。


 ちなみに、命名については、強いという意味の『ストロング』と手袋の『グローブ』を掛けている。


 そこ、ダサいとか言わない。


 とにかく、せっかくの機会なので、久々に使うことにする。


「おおー、捗る捗る!」


 死にアイテム化してたとはいえ、グローブの効果は本物だ。


 どんな大木も片手でひょいと持ち上がり、複数の木を一気に運ぶこともできる。


「ギギギッーー!」

「うるさい!」

「ギッ――」


 時折、アーマードンの亜種のようなモンスターや、見たことのないモンスターが現れるが、グローブで殴れば一撃だった。


 粉砕されたモンスターの死骸は魔石を残してレーザーガンで焼却、倒木はなるべく邪魔にならないよう、端のほうへと集めていく。


「おお! それっぽくなったかも」


 数分後、整然と片付いた一帯を見て僕は呟く。


 地面がすっきりしただけでも、ずいぶん雰囲気が変わるもんだね。


 神秘的な雰囲気は少し薄れたけど、一気に“遊び場感”が出た気がする。


「ギギギッ!」

「うわっ、また来たよ」


 仕事の余韻に浸っていると、またさきほどの謎モンスターがやって来た。


 レーザーガンでその眉間を撃ち抜いた僕は、モンスター見つける君を装着する。


「うわぁ……結構いるなぁ」


 人の匂いを嗅ぎつけたのか、派手に戦っていたからか、周囲には結構な数のモンスターがうろついている。


 公園作りを始める前に、侵入防止の策を講じたほうがよさそうだ。


「公園だし、フェンスでも作るかな」


 強力な防御効果のあるフェンスで囲えば、モンスターの侵入を防げるだろう。


 そう考えて、フェンスのクラフトに挑戦する。


 フェンスの高さは5~6メイル、外周の長さはゆうに100メイル以上。


 初めて挑戦するサイズ感だけど、防御機能を付けるだけなのでそんなに難しくはない。


 10分足らずで大枠を完成させた後、ホログラム状に映し出されたフェンスのサイズを微調整する。


「こんなもんかな……出でよフェンス!」


 掛け声と共に魔力を消費すると、ポンッ! と立派なフェンスが周りを囲む。


「ギギッ――!」


 ちょうどこちらに向かっていたモンスターがフェンスを攻撃するが、フェンスはびくりともしない。


 よしよし、ちゃんと作動してるね。


「……と、そろそろ帰る時間かな」


 作業に夢中になっているうちに、空の色が変わりはじめていた。


 今日のところはここまでにしておき、公園作りは明日以降に始めるのがいいだろう。


 僕はジェットバイクに乗ろうとして、ふと思いとどまる。


「目印を作っといたほうがいいかも……」

 

 ここは、適当に上空を飛行しながら見つけた場所だ。


 遠くからでも分かるような工夫があったほうがいい。


 ひとしきり考えを巡らせた結果、強い魔力を発するビーコンを設置することにした。


 高さ3メイルほどの、タワー型のビーコンだ。


 試しにバイクで空を飛び、モンスター見つける君で見てみたところ、遠くからでも問題なく視認できた。


 かなり距離を空けても薄っすらと見えたので、これなら見失うこともないだろう。


 安心して屋敷へ帰った僕は、翌日に再び公園建設地を目指す。


「……お、あっちの方だね」


 モンスター見つける君でビーコンの場所を確認し、魔導ジェットバイクで向かっていると――


「ん?」


 近付いてきたビーコンの傍に、何やら小さな影が映る。


「もしかして、モンスターが入った?」


 フェンスで囲ったはずだけど、それを飛び越えてきた?


 首を傾げつつ空を進んでいると、肉眼でもビーコンが見える距離になる。


「……え?」


 謎の影の正体を視認した僕は、思わず驚きの声を上げる。


 どうしてこんなところに……


 そう、ビーコンの前に立っていたのは、紛れもなく人の後ろ姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る