第6話 レクシオンの街と冒険者ギルド
ジェットバイクを完成させた次の日。
僕はメイドのルティア、護衛の騎士と共にレクシオンの街に来ていた。
「久しぶりの街だね」
馬車から降りた僕は、賑わう通りを眺めながら言う。
領主の屋敷から街のほうまで降りてくるのは、これで数回目だ。
屋敷と森で大抵の時間を過ごしているとはいえ、たまにはこうして出かけることもある。
気分転換のためというのもあるし、単純に街を歩くのは好きだからね。
前世でも今世でも、寝た切り生活が普通だったんだ。
ただ街の様子を見て歩く。それだけでも、僕にとっては新鮮な経験だった。
「ルティア、あの店を見てもいい?」
「もちろんです、坊ちゃま」
そう言って頷くルティア。
普段は僕をリベル様と呼ぶ彼女だが、ここでは坊ちゃまと呼んでいる。
お忍びの
外から見た僕の様子は、金持ち商人の息子といったところだろう。
ルティアもいつものメイド服ではないし、護衛の騎士も冒険者風の格好だった。
「ルティア、この果物は?」
僕は向かった果物屋の先で、見たことのない果物を手に取って尋ねる。
これまで街に来た時はなかったし、屋敷でも見た覚えがない。
値段も1個700コインとお高めだ。
経験上、1コインは前世の日本円でいうところ1.2~1.5円くらいの価値なので、1個1000円くらいの計算になる。
「帝国原産の果物ですね。名前はたしか――」
ルティアは思い出すように説明する。
なるほど、帝国の南部地域で獲れる珍しい果物のようだ。
レクシオン領は辺境の街なので、他国の商品が比較的流入しやすい。
こうして新しい商品に出会えるのも、街に出る楽しみの1つだった。
「うん、さっぱりしてて美味い。ほら、ルティア達もどうぞ」
「「ありがとうございます」」
その場で買った果物をカットしてもらい、3人で食べた僕達は、次なる店に足を運ぶ。
メインストリートの魔道具店だ。
「坊ちゃまは魔道具が好きですね」
「まあね」
微笑ましそうな目で言うルティアの横で、1つずつ魔道具をチェックする。
魔道具店は街に来た際必ず訪れるスポットだ。
【遊者】として魔遊具作りを嗜む者として、種々の魔道具を見られるメリットは大きい。
僕の場合、前世の知識というアドバンテージがある一方、この世界の魔道具の知識についてはまだまだお子様レベルだからね。
それに、レクシオン領の魔道具店はレベルが高い。
国境の先に魔法国家チェスターがあるからだ。
チェスター産の優秀な魔道具の構造や発想は、魔遊具作りの参考になる。
「ん? これは……」
物色を始めて数分。
新商品のコーナーに並ぶキャンバス型の魔道具に目が留まった。
単に絵を描くための商品かなと思ったけど、説明を見たところ違うようだ。
この商品は魔法のキャンバス。
目の前の景色を認識し、自動で絵を描く魔道具らしい。
近くには、実際に描かれたという絵が飾られている。
「面白い魔道具ですね。立派な絵です」
ルティアが隣で感嘆の声を上げる。
たしかに面白い魔道具だ。
今世のリベルであれば驚いたかもしれないけど……僕はカメラの存在を知っている。
「カメラ、いいよなぁ」
ルティア達に聞こえない声で呟く。
前世の病室生活でも、疑似的な旅行体験として写真や動画にはお世話になった。
よし、今度作ってみよう。
カメラがあれば旅行した時とかに役立つし、作っておいて損はない。
それからしばらく店内の商品を見て回り、いろいろとインスピレーションを得た僕は、ホクホク顔で魔道具店をあとにした。
◆ ◆ ◆
魔道具店近くの食堂で軽食をとった後。
帰りの馬車がある方向に向かっていると、冒険者ギルドが見えてきた。
冒険者ギルド。
前世で読んでいたweb小説等でも、定番だった組織である。
その実態についても、概ね前世で理解していた知識の通りだ。
素材の買取や各種クエストの発注等、主にモンスター関連で重要な役割を担っている。
特に、禁域から近く強力なモンスターの出現も多いレクシオン領では、非常に心強い存在だ。
レクシオン家とも良好な協力関係を築いていると、ルティアの授業で聞いている。
そして、実際のギルドの内部だが、こちらも概ねイメージ通りだ。
十人十色の冒険者達で常に賑わい、横長のカウンターにギルド嬢達が並んでいる。
僕はそのギルド独特の雰囲気が結構好きなんだけど、入ったことは1度しかない。
冒険者の中には荒くれ者も多いため、ルティア達に止められるのだ。
1度だけ中に入った時も、護衛の騎士が複数人いる時だった。
今度こっそり来てみようかな……
内心でそんなことを考える。
前に来た時は僕もまだ弱かったけど、今はそれなりに戦える。
モンスターの魔石も相当ストックが溜まってるし、どこかのタイミングで売りたいんだよね。
なんなら、冒険者としてクエストを受けることにも結構興味がある。
冒険とかダンジョンとか、なんかワクワクする響きじゃん?
ただ、そうなると冒険者登録が必要になるし、さすがにこっそりやるのは厳しいかな?
たとえば変装の魔遊具を作ってみるとか――
「坊ちゃま?」
1人で考え込んでいると、ルティアから声が掛かる。
「何か変なこと考えてませんよね?」
「え? そ、そんなことないよー……はは」
「本当ですか?」
「も、もちろん」
ルティアって妙に鋭いんだよなぁ。そしてジト目の圧がすごい。
僕は誤魔化すように笑いながら、帰りの馬車に乗り込むのだった。
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