7.


「あああ! アンタぁっ、『ズゥ』ッ」


「ひさしぶりだね、オマエ﹅﹅﹅


 二匹はそれぞれ二人の前に飛んでいき、ガッシリとハグをした。片や炎で片や氷なのだが相殺はしないようだ。何故かは知らない。


「ちょっと……あなたたちって、知り合い?」


「そ、あたしたち夫婦なの」


「え────っ!?」


 聞くところによると、ズゥとメイは実質は夫婦というよりはつがいで、一匹の『ズメイ』と呼ばれるドラゴンであったという。


 それがかつて、人間の女に恋をした〝ズメイ男性パート〟が分化してしまい、今日まで離れ離れになってしまったらしい。


「でもこのビッチは当然あの時の女じゃないわよね」


「そりゃもちろん千年も経ってるんだから。ていうか怒ってないの? 前のこと」


「大概のことを忘れちゃう年月だわよ。でもひょっとして……」


「そうさ。僕は雄龍だから女性に加護を与えるだろ。だから男性を追っていれば、いつかきっとキミに逢えると思って」


「いや~ん! 惚れなおしちゃうぅ~っ」


 竜と龍がキャッキャするところをしらーっとした目で見る二人。



 しばらくして。

 二人はウロボロスの如く、お互いの尾を追う形でグルグルと回転をし始め……

 最終的に 2 in 1 の黒い大きなドラゴンと化した。


「「あぁ~ひさしぶりこの一体感。やっぱりこうでなくちゃ」」


 男女混成の変な声がエコー掛かって響く。


「え、メイ、どっか行っちゃうの」


「ちょっとズゥ、何の承諾も無くいきなりどういうことよっ」


 めまぐるしい事態の展開に全くついていけない二人を余所に、感無量で空を見上げる『ズメイ』。もはや何も聞いちゃいない。


「ちょっ……あの」


「加護はどうなるのっ」


「「ごめんね~当然もう無いよ二人共。今まで楽しかった。じゃね~」」


 ズメイは土埃を竜巻の如く巻き上げ、周りの木々を騒然とひと揺らしすると、あっという間に空の彼方へと飛んで行ってしまった。



 その場に取り残され、茫然と佇む二人。ドラゴンの加護を失った上で、ほぼただの男と女になってしまった。


 未経験DTの躊躇を忘れルナを全身ごと凝視してしまうジェド。

 その目線にはっと気づいたルナは、今更無駄なのに両腕で胸を隠した。どうやら加護で強気になっていたらしい。


「ナニ期待した目で見てんのよこのクソヘンタイ〝ピー〟野郎ッ! ドラゴンがああなったからって、私たちもそうなると思ってんのバッカじゃないのっ、●ねっ!」


 酷いなんてものじゃない罵声の限りを尽くすと、ルナは一目散に走り去った。




 ポツンと残されたジェドは、特に哀しい訳でもなく。


 しばらくぼんやりとしていたが……

 やがて思い立ったように、全身鎧を次から次へと脱ぎ捨てた。


 そして荷物袋から、かつてのノースリーブシャツとプロテクターを取り出しそそと着替え終え……

 最後に残った剣を、谷底に向かってぽーいと放り投げた。



「……さーってとっ、職安でも行ってくるかぁ」


 ジェドあらためショウは、ルナとは反対方向へと足先を向ける。


 そして……

 歩き出すそのさまは身も心も軽く、意気揚々としていた。




 (おわり)




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ドラゴン神拳のショウ 矢武三 @andenverden

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