想像は現実に

二階の守人

第1話 【月下の都市】

※縦読み推奨。


 2030年6月20日。


 日本。


 東京。


 高く聳え立ち並ぶ無数のビル。

 広場に面してその側面に設置された電光掲示板は、青白い文字で零を3つ表示している。

 現在時刻午前0:00。

 掲示板の前を黒い鳥が一羽通り過ぎた。

 吹き抜けるビル風に連れられて、カラスはビルとビルの間を流れる。そこから抜け出し、大通りを横切って狭い道路に出る。

 ちょうど車一台が通れるほどで、両サイドに歩道が敷いてあった。

 満月と街灯が、ビルの窓ガラスに都市の夜景を映し出し、道を照らす。

 日中にこの道を行き交う人々も今は誰1人としていない。

 ただ静寂が夜の冷気を際立たせているだけだ。

 すると、突然、その道路に気配が立ち込めた。

 範囲は狭く、そして、速度はゆっくりと『揺らいで』いる。

 歩道の上に、まるで真夏の路上のようにその一部だけがゆらゆらと『揺らいで』いるのだ。

 一体、何が揺らいでいるのだろう。空気か。いや、空間や時空といったものかもしれない。

 人は眼でとらえた光と、自分の『想像』とを重ねてモノを見るという。

 ならば今、目の前で激しさを増しながら広がってゆく『揺らぎ』は貴方の『想像』が曖昧になって生じている視界の『バグ』なのではないか。

 カラスは歩道に降り立ち、1、2歩進むと『揺らぎ』に入り込むようにして触れる。

 そして、その見た目にノイズが入り、そのノイズに飲み込まれて存在を消した。

 直径170センチほどで膨張を止め、更に激しさを増しながら、まるで絵具を水に溶かしたかのように『黒』が滲む。

 『揺らぎ』は段々と穏やかになって縮小し、消滅した。


――この世にあってはならない存在を残して。


 月下の都市に、乾いた足音が高く鳴り響いていた。

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想像は現実に 二階の守人 @nikainomoribito

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