第40話

今がチャンスと思い攻撃しようとした時、視界の端でマルコポーロが膝をついている姿が見えた。

(一体何があったんだ?)

動揺しながらも周りを確認すると同じように苦しんでいる人が数人いることが確認できた。

(まさかあいつの能力か?)

考え事をしているうちに動きを止めていた俺に対して攻撃を仕掛けてきた。

それを間一髪で避けることができた。

そのまま反撃するがやはり相手は簡単に避けられてしまった。

その後も何度か攻撃を試みるが全て交わされてしまい全くダメージを与えれていなかった。

俺だけはまだ平気だったが他の人たちの様子がかなり悪くなってきた。

これ以上放置する訳にもいかないので全力で行くことにした。

俺は剣を捨て拳で戦うことに決めた。

ただただ殴り続けるというシンプルな戦法であったが俺にできるのはこれしかなかった。

俺が突っ込んでくるとは思っていなかったのか驚いた表情を浮かべていた。

そこから何度も殴られたがなんとか耐え忍んでいた。

相手のパンチを避けるのではなく敢えて受けたりしながら少しずつダメージを与えた。

そんな攻防を繰り広げていたが徐々に追い込まれていることに気がついてしまっていた。

最初は受け流したり避けたりなどができたのだが次第に反応が遅れ始め徐々に被弾が増え始めていた。

そのせいか腕はどんどん痛みを帯び始めていた。

しかし俺はここで引くことはできなかった。

なぜなら後ろに守るべき人がいるからだ。

俺は守りながら戦い続けていた。

そんな様子に見かねたのかマルコポーロから援護射撃が入る。

それは魔力を帯びた槍で的確に目潰しを狙って放たれた。

それが効いたのか敵は目を瞑ってしまい一時的に視力を失っていた。

その隙を逃すまいとその懐に入り渾身の一撃を放つべく思いっきり飛び込む。

そして勢いに任せたまま敵の腹を思い切り殴った。

すると、鈍い音が響いたあと手に感触を感じた。

それと同時に相手が数メートル後ろへと吹き飛んだ。

これで勝負がついたと思っていたがそうはいかなかった。

奴はすぐに体勢を立て直すと再び襲ってきたのだ。

今度はその手から禍々しいオーラを放ち出した。

それを見て危険だと直感的に感じ取った俺は即座に横に飛ぶ。

その瞬間

に俺が立っていた場所に大きな穴が空いていたのだ。

それを見るだけでもその力が計り知れないほど恐ろしいことがわかった。

その後敵の攻撃を回避し続けるのがやっとの状況であった。

どうやら先ほどの行動で目が回復したようであった。

それからも攻撃を続けて来るが未だに俺の体は無傷であった。

どうやら完全には見切れていないようだ。

だが俺の方からはあまり攻めることができない状況にあったのだ。

というのも俺の攻撃は全て相手に掠ることすらできないのに対し、魔王の攻撃を受ければ間違いなく致命傷となってしまうからである。

そのため下手に攻撃することができなかったのだ。

この状況のまま時間だけが経過するとやがて俺たちの勝利は完全に消えることになるだろう。

何か策はないだろうかと考えているとふと頭に一つの案が浮かぶ。

これは賭けではあったが迷っている暇は無かった。

こうなればイチかバチかに掛けるしかないと考えた俺はすぐさまそれを実行する。

まず魔王の動きを止めた後に魔王の後ろに回り込み抱きついた。

その後すぐにマルコポーロの放った魔法の効果が現れ、辺りが一瞬にして暗闇に覆われた。

どうやら成功のようだ。

魔王も何が起こったのか分からず困惑していた。

だが魔王はすぐ様この状態を脱却すべく動き出そうとしたその時だった――

魔王が突如苦しみだしたのである。

恐らく闇の中でマルコポーロたちが動いているはずだ。

魔王の体からは闇の霧が消えており姿が見えるようになっていた。

俺が魔王の体を離すと魔王は膝をつき荒い呼吸をしていた。

「お前たちの攻撃は我には通じぬ」

そう言うと魔王は両手を広げた。

そして魔王の体に黒い粒子のようなものが集まりだした。

次の瞬間魔王の周りには巨大な影が現れた。

魔王が生み出したのは10メートル以上はあるであろう大巨人の姿だ。

魔王はその巨人に向かって手を伸ばした。

魔王の手のひらの先には大きな球体のような魔法が出現していた。

そのままその球を握りつぶすように力を加える。

するとその手の中からは鋭い爪を持った獣のような手が出現した。

さらにもう片方の手でも同様に別の形を作っていく。

2つ3つの形となった獣のような手が完成したところでそれを地面に置いたまま力を込めるようにして押し込んだ。

3本の鋭利な鋭い指が出来上がった。

魔王は満足そうに眺めた後こちらを見下ろしていた。

「次はお前たちだ」

そう言うと俺に狙いを定めてきた。

俺は魔王と距離を取りながらもなんとか魔王の動きを封じる作戦に出た。

魔王は走りながらこちらへ向かってきた。

俺はそれに対して真正面から受け止めることにした。

魔王が近づいてくるにつれ魔王の大きさが際立ってくる。

正直怖いが逃げるわけにもいかない。

魔王は勢いよく殴りかかってくる。

それを紙一重で避ける。

その後も攻撃は続いたがギリギリで全て回避することができた。

「小賢しい人間め!」

魔王は苛立ちを募らせているように見えた。

魔王が一歩踏み出すたびに振動が伝わってくる。

それでも必死に避け続けた。

魔王が動きを速めたがそれでも問題なく避けられるほど余裕が出てきた。

そんな時マルコポーロから声が聞こえてきた。

どうやら成功したらしい。

その証拠に魔王の顔色が変わった。

それもかなり悪くなっているように見える。

魔王は何をしたのか気になっている様子であったが気にする余裕はないようで直ぐに攻撃に転じてきた。

さっきよりも少し動きが速くなっていた。

それでも避けきれないほどでもなかった。

そしてそのまましばらく攻防が続いた後ようやく変化が訪れた。

魔王の足元から徐々に崩れていったのである。

それによりバランスを失ったのか地面に倒れてしまった。

好機と思った俺は一気に駆け寄っていき倒れた魔王に飛び乗った。

そこで両腕を掴み身動きができないようにする。

そしてその状態で拳を振り上げた。

まさにトドメの一撃を放つ寸前に突然のことだった。

腕を抑えていた力が抜けたのだ。

見ると俺の腕は既に消滅しており痛みを感じることも無く血も出ていなかった。

まるで腕が元から存在しなかったかのように感じた。

それと同時に全身から力が抜けて行き意識が遠くなっていくのを感じた。

そのまま目の前が真っ暗になりその場に倒れると同時に気を失ってしまった。

それからどのくらい時間が経ったのか分からないが目を覚ますとそこは白い天井があった。

(俺は確かあの化け物と戦っていてそれで……)

まだハッキリしない頭を抱えながら考え事を始めたのだが徐々に記憶を取り戻していくと共に恐怖に襲われた。

「大丈夫!?」

俺は声を聴いてユウトちゃんだと分かった。

「ゆ、ユウトちゃん!?」

俺は慌てた。だってユウトちゃんが俺を抱きしめていたからだ。

彼女の胸が当たっており俺は非常に困惑した。

「ゆ、ユウトちゃん……その……胸が当たってる」

「へ?……ごめん!俺ってば」

彼女は慌てて離れると謝ってきた。

それから彼女が今どんな状況なのか説明してくれた。

どうやらここは病院で俺はあの戦いの後気絶してしまったみたいで丸1日寝込んでいたそうだ。

幸いなことに命に別状はなかったようで本当に良かった。

話によるとどうやら俺が助かったのは奇跡的だったらしく、もしあれ以上戦い続けていたら確実に死んでいたと聞かされた。

消えた腕が戻っていることに気づく。

「なんで俺の腕が戻ってるんだ?」

「あ、魔王が戻してくれたよ」

どうやら俺の体は魔王の加護によって回復力が上昇していて命に関わるような怪我でも短時間で治せるようになっているようだ。

だが俺にはまだ疑問に思うことがあった。

魔王がなぜ急に姿を消したかということだ。

そのことについて尋ねると魔王は俺に倒されたあとに何かしらの力を手に入れたことで俺たちの敵ではなくなったというのだ。

それを聞いた俺は驚きを隠せなかった。

「なんで?」

「魔王は名前を変えて俺達の仲間になったよ」

「元気そうだな」

誰だこの男?

「魔王だよ」

「は?このイケメンが?」

「おお!我をイケメンというか。この優男は」

「優男って」

「まあまあエルビスいいじゃん」

ユウトちゃんが言うのでよしとするか。

それにしても魔王改めレオハールさんが俺たちの仲間になるなんて思わなかったな。

確かに魔王だったときに比べると弱々しくなっているがそれを差し引いても相当な実力者だと思うんだけどね。

「とりあえずエルビス君も無事そうでよかったわー」

「えっとどちら様ですか」

「ああすまん。自己紹介がまだだった。」

この男タングステンが新しい魔王だと言われたけどいまいちピンとは来ないな。

「タングステンよあとは頼むぞ」

「はい。レオハール殿は隠居生活楽しんで」

タングステンは魔王の息子らしい。

なるほどそういうことだったのか。

そして彼はもう戦うつもりは無いと言っているので俺の知っている限りの魔王軍の情報を教えておくことにした。

「ところで魔族はどうして人間を襲うんですかね」

その質問に対して彼らは困った表情を浮かべている。

「話すべきであるな。我々は元々人間を食べる習慣があるのだ」

「そうなのか」

「だが食べずとも良い方法をずっと探していたのだ。それが野菜!果物!動物、魚の肉!であることに気づいたのだ」

「で?」

「人間の食事と同じものを食べるようにしていたら人間食べる必要がなくなってきてなそれでいまは農林水産、漁業、畜産をやって暮らせるようになっている」

魔王が農業とか言ってる……。

なんか思ってた魔王軍のイメージと違うな。

もっと恐ろしい集団を想像してた。

これなら別に敵対しなくても普通に貿易できるんじゃ。

俺はふと思ったことを口に出してみた。

「俺らは平和主義なんだよね。できれば争いたくないからさ」

「じゃあその証拠としてこれから先戦争を起こさないっていう誓約書を書くってのはどうかなって思うんだよ。」

「それはいいな」

さらさらと必要事項にサインする魔王さん。

「こんなものでどうだろうか」

そこには魔王の名のもと二度と人間に危害を加えないと書いてあった。

これで一応解決かな。

こうして人類に平穏が訪れた。

「お疲れさま」

「ほんとよ」

魔王城からの帰り道、ユウトちゃんに話しかけられた。

あの魔王との戦い以来、彼女との距離感が近くなった気がする。

そして彼女は俺に思い切って聞いてきた。

「俺、普段は男の子モードだけど好きになってくれる?」

「もちろん」

俺の言葉に顔を赤らめる彼女。

俺は彼女を優しく抱きしめる。

彼女の温もりを感じる。

そしてそのまま口づけを交わし合う。

俺はこのまま幸せに暮らすことを願った。

魔王討伐の日から数週間後のある日のこと。

今日は勇者パーティーが魔王城に集まる日である。

というのも国王が皆の前で正式に魔王を倒したことを発表することになっておりそのために呼ばれているというわけである。

ただ今回の主役は俺ではなくエルビラ姫である。

そのため俺は特に何もすることなく家で待っていた。

(暇だし剣でも振るか)

俺は家の中で軽く運動することにした。

まず素振りをする。

(やっぱり少し鈍っているな)

最近はユウトちゃんとの修行があったからサボっていた分を取り戻すため俺は訓練を再開した。

最初はゆっくりと徐々に速く振っていく。

(まだ遅いか)

今度は徐々に速めていく。

(よし!いける)

俺は全力を振り絞ることにした。

俺には必殺技がない。

だからこそ一から技を作る必要があると考えた。

そこで考えついたのが魔力を纏わせて斬撃波を放つというものである。

イメージとしては衝撃波のようなものだ。

その威力はかなり高いと思う。

問題は発動まで時間が掛かることだ。

俺の場合溜めが必要になりかなり時間を要することになる。

ユウトちゃんは冒険者大学を卒業しガイルとの正式結婚が確定したらしい。

俺は彼女たちの結婚式に呼ばれた。

俺もいつか結婚したいなと思いながらそんな未来に思いを馳せていた。

いつか俺にもユウトちゃんみたいな天使な彼女と結婚出来ますように。


[完]

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勇者道中記 みなと劉 @minatoryu

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