第28話 悔しいです
雪乃が演奏を終える。
そして、彼女がスタジオへ戻ると、番組の終了時刻が迫っていた。
演奏の感想を軽く言った後に、司会がまた来週と言ってカメラに向かって手を振り、画面がCMに切り替わる。
スタッフの『はい、オッケーです』という声が響き渡り、雪乃にとっての初めての生放送番組は終了した。
しかし、番組が終了したにもかかわらず全く動くことの出来ない者がいた。
それは星野聖華だった、彼女は放送が終わったのにもかかわらず、俯き動く気配がなかった。
「星野さん、撮影は終了しましたよ、どうかしたんですか?」
撮影スタッフが声をかけた事で聖華はやっと我に返り、ゆっくりと立ち上がるとトボトボとした足取りで歩き出す。
雪乃の隣でそれ見ていた赤羽ないかが一言呟いた。
「何、あれ? 挨拶も無しに帰るなんて」
「えっ?」
余りに覇気のない聖華の様子にポカンとしてしまう雪乃。
赤羽ないかは雪乃の事を見ずに続ける。
「もしかして、体調でもくずしたのかしら」
そんなやり取りをしていると番組スタッフの一人が駆け足でスタジオに入ってくる。
「皆さん、視聴者投票の結果がでましたよー」
視聴者投票とは、番組視聴者が今日一番いいパフォーマンスをしたと思われるアーティストを選んで投票したものだ。
聖華は、そんなプリントを持つスタッフにも見向きもせずにスタジオをふらふらと出て行ってしまった。
他の出演者たちは視聴者投票の結果を持つスタッフに出演者たちは集まり、順々にプリントを受け取りにいく。
雪乃とないかもプリントを受け取り、確認する。
「8グループ中6位……」
雪乃は自分の結果を思わずつぶやく。
しかし、納得はしていた。今の自分はまだまだ未熟だったと。
「まぁ、あれだけの失敗しながら最下位じゃなかった事をファンと楽曲に感謝するのね。でなかったら間違いなく最下位だったわよあんた」
ないかは自分の順位を確認しながら、隣にいる雪乃にそう声をかけた。
「分かってます、でも悔しい、悔しいです……」
雪乃の大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
しかし、涙を拭う事をせずじっと自分の順位と名前が書かれた紙を見つめていた。
この悔しさを忘れないために。
◇ ◇ ◇
番組本番中に大声を出した俺は番組スタッフに物凄く怒られた。
母さんも一緒になって謝ってくれて何とかなったが、本当に申し訳ない事をした。
でも、また同じ状況になったら同じ行動をすると思う。
「それじゃ、放送も終わったみたいだし聖華くんたちのいるメインスタジオに行ってみようか」
母さんの
番組終了直後はまだスタッフと思われる人々がせわしなく動いている。
俺たちがメインスタジオに向かう廊下を歩いていると反対側から聖華がゆっくりと歩いてきた。
「聖華、お疲れ様」
「あっ、勇気くん……」
聖華は俺が話しかけた事でやっと俺の存在に気付いた様子だった。
そして、ゆっくりと俺に近づいてくるとそのまま抱きついた。
「ちょっ、聖華。まだ、番組スタッフさんとかもいるんだから、抱き着くなよ」
俺のそんな言葉も無視して聖華はきつく俺を抱きしめる。
「私……私、頑張ったんだよ……」
なんだか元気が無さそうな声だった。
何かあったのだろうか。
「あぁ、見てたよ。流石聖華だな、よく頑張った」
聖華の頭を軽く撫でてあげる。
それでも、彼女は俺の胸に顔を擦りつけるようにぐりぐりとする。
「もっと……もっと、褒めてくれないとヤダ」
俺はそんな様子の聖華をどうしたものかと思いつつ、助けを求める意味も込めて隣にいる母さんに顔を向けた。
しかし、母さんは目を瞑り肩を竦めた。
「頑張り屋の聖華は俺の自慢の幼なじみだ」
「……私、可愛かった?」
「あぁ、見惚れるくらい可愛い」
「本当? 一番?」
「あぁ、一番だ」
「……嘘つき」
「嘘じゃないよ」
「じゃぁ、結婚してくれる?」
「考えとく」
俺がそう言うと頬を膨らませて、不服そうに俺を睨みつけた。
トップアイドルだけあって本当に可愛い顔をしているな、まつ毛も長いし……。
「どうやら、聖華くんは甘えん坊モードになってしまったようだね。よかったら、今日は私たちと一緒に帰るかい?」
母さんの言葉に聖華は俺からはなれる。少しだけ名残惜しい。
「うん」
「そうか。ただ、ちゃんとマネージャーさんにはちゃんと連絡するんだ。分かったね?」
聖華は頷いてから、楽屋に荷物を取りにいった。
そして、俺たちもそれについていきそのまま帰宅する流れになった。
本当ならメインスタジオに行って雪乃と少し話したかったが、まぁ今日は仕方ないか。
【改訂版】美少女に楽曲を提供して幸せにする話 ごん丸 @nyapo_kiti
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