この先も笑顔で
藍葉詩依
この先も笑顔で
「これからする事、許してくれる?」
誰もが惚れ惚れする、整えられた魔法陣を作り出した彼は、そう言いながら悲しくなるほど綺麗に笑った。
本当は許さないって言いたい。
だけど、ずっと君と一緒にいた私は君がこういう行動をとるだろうって分かっていた。
だから私が言える言葉は決まっている。
「許すよ」
「ありがとう……君ならそう言ってくれると思ってた」
色素の薄い瞳には涙が溜まっている。
自身の存在を消すことは何度でも生まれ変わることができる彼でも怖いことだ。
だけど、それ以上に現状が耐えられなくて彼はひとつの魔法陣を作った。
その魔法陣は魔法使い、魔女が多くいるこの世界でも私と彼しか作れないもの。
「僕は皆が笑っているのが好きだった」
「うん、私も」
「この後の世界を、頼む」
「それは無理かな」
苦々しく言葉を紡ぐ彼に、私は朗らかに笑う。
すると彼は大きく目を開いた。
「どうして?君なら可能だ」
「君一人の全魔力を使って姿を消失させても救えるのはこの場にいる子達の半分だけでしょう?君は私の事をまだ分かってないみたい」
「まさか……」
「みんなの笑顔が、この世界が好きだったのは君だけじゃない。私も。そして1人では無理でも2人なら、私と君以外の全員を救える」
彼が作り出した魔法陣をなぞるように私も同じ魔法陣を作る。
作り出す間に蘇ってくる記憶はここの人たちとの出会いと思い出。
そして彼と何年、何百年と一緒にいた記憶。
「私、君といるの好きだったよ」
「……僕もだよ」
何度でも生まれ変わることが出来る私たちはいつでも死を選ぶことが出来る。それでも今の姿で300年もを過ごしたのは彼と出会えたからだ。
いくら魔力を持っていたって、生まれ変わることが出来たって、生まれる世界は選べない。
でも記憶は残るから。魔力を持っている私がこんなことを思うのも変だけど、願いが叶うなら。
「また、会えたらいいね」
「……再開の言葉でも決めておく?」
「決めなくても、きっと言うことは一緒だよ」
そういうと彼は嬉しそうに無邪気に笑った。
「そうだね」
その言葉を最後に、彼は無邪気な笑顔と共に光の中へ消えた。
私の魔法陣が発動するのはもう少し先だ。
彼が救いたかった人達が少しずつ生気を取り戻すのを感じながら私は目を閉じる。
どうか、この世界で過ごす人々が幸せで明るく過ごせますように。
そして、彼と出会えた時には笑ってこう言うんだ。
久しぶりって
❀❀❀――――❀❀❀
ひらりと舞い散る桜の花びらの先に私は君を見つけた。
「久しぶり」
私と視線があった彼は最後の記憶と同じように無邪気に笑う。
こうなる日をずっと願っていたけど、何年前から願っていたのかはもう忘れた。
「君なら笑顔でこの言葉を言うと思ったんだけどな」
彼は頬を掻きながら、苦笑する。
「わたし、だって……」
笑顔で言えると思っていたのに実際は涙が出てきて。
とめたいのに涙はとどまることなく溢れ、言うことを望んでいた言葉さえも、必死にならないと紡ぐことが出来ない。
「何年ぶりかな」
平然と言ってのける彼に私は少しだけ恨み言を言いたくなった。
何年、なんて優しいものじゃない。
あの日。2人で死を選び、世界を救うことを望んでからすでに何千年もたっている。
「再会の言葉は?」
うるさいなぁ、と思いながらも顔は緩む。
「久しぶり」
魔法が完全になくなったこの世界で、奇跡のような再開を君と
この先も笑顔で 藍葉詩依 @aihashii
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