第11話 作戦完了

 窓から失礼しますよ。

 ガラガラと窓を開けて、先程まで戦場だった部屋の中に入ると、床から突如現れた複数の根によって俺の体は拘束された。

 金森を守る木から緑色の子供の精霊が出てくる。


「メイカ、早く逃げて!僕が抑えている間に!」


 子供は必死そうな声でそう言った。

 なんだ?もしかして俺は敵と間違えられているのか?


「ちょ、ちょっと何してるの?師匠は味方だよ!」

「味方?これが?」


 これとは失礼だな。

 緑の精霊は説得する真夜と抵抗しようとしない俺の顔をしばらく見てから、根の拘束を解いた。


「ごめんなさい。僕の勘違いだったみたいだ。メイカ、彼らは敵じゃないよ」

「うん、えっと、助けてくれてありがとうございます……でいいのかな」


 元凶は俺だけどその認識で大丈夫です。

 俺は密かに呪いの指輪を回収したフェイを確認してから事情を説明することにした。


「もう薄々分かっていると思うが、俺たちは君と同じ魔法使いだ」


 金森は「魔法使い」と呟いて呆然としている。

 まぁそれはそうだ。そんなこと言われたら誰だって混乱する。

 しかし今まで見ていた光景はそれを肯定するものだろう。

 俺の肩に妖精が出現した。それを見て真夜も頭の上に黒猫を出している。


「そしてヒーローとして魔王と戦っているの。あなたのように強い魔力を持っている人を魔王は狙っているんだって」

「ヒーロー……魔王……猫かわいい……」


 真夜が説明をしている。彼女の仲間を探すためにやっているわけだし、このまま説得を任せてみるか。


「あなたも何か心当たりはない?私は過去に両親を事故でなくし、この前はいじめっ子に襲われたよ」

「私は……5年前にお父さんが亡くなって、今もお母さんが病気になっている」

「やっぱり!それもきっと魔王の仕業だよ!」


 いや待て、その理屈はおかしい。なんでも魔王が悪い教を広めるのはやめるんだ。

 俺は咳払いをして注意を引いた。


「まぁそれが魔王のせいかはさておき。君がヒーローになってくれるのなら、当然メリットも用意する」

「そうだ。魔物を倒したら報酬が貰えるんだよね!」


 そうだな。今回は強い魔物だったし、金森の勧誘もかねて前より多めに渡すか。

 俺はアイテムボックスから札束を取り出した。とりあえず一人30万円くらいでいいか。

 真夜は金を受け取ると喜んで飛び跳ねた。金森は札束を凝視して震えている。


「こ、こんなに貰えるんですか」

「ああ、正当な報酬だ」


 金森の口角がピクピクと上がるが、ハッとした顔でこちらを向いた。


「でも、私には病気の母がいるので、魔王?と戦うのは難しいと思います」

「その病気がどの程度のものか知らないが、君の精霊は木属性だ。魔法で治せると思うよ」

「本当ですか!?」


 木属性は生命に干渉する属性の一つだ。養分を注いだり、薬草を出したりできるだろう。

 俺が説明するより早く、金森の精霊が白い花を出した。


「この蜜を飲めば治るよ」

「あっこれ、夢で見たやつだ」


 金森は精霊から渡された花と30万円を大切そうに胸に抱いた。

 とりあえず彼女の当面の問題は解決しただろう。


「さて、仲間になるかどうかの返事は後で構わない。後片付けは俺がやるから今日はその花を持って母親の下に帰ると良い」

「はい……あのそういえばあなたの名前は?私は金森命華と言います。そっちの彼女はシャノワールでしたっけ?」


 真夜は顔の猫マスクを取った。若干顔が赤くなっている。


「そ、それは世を忍ぶ仮の名前。私はマヨ。そしてそっちの師匠はユウキ」

「それでそこの猫がクロで、こっちの妖精がフェイだ。よろしくね」


 自己紹介を終えた後、金森は前より明るい顔で帰っていった。

 今回の作戦は成功ということで良いだろう。


 さて、俺には荒れ果てた部屋の中を直す作業が待っている。ああ、あと電線もか。

 部屋の中は流石にごちゃごちゃしているので、時を戻す魔法を使うか。魔力をかなり消費するがしょうがない。


 <時間逆転>


 自動的に元の位置に戻っていくデスクやパソコンを真夜が興味深そうに見ている。


「真夜、君ももう帰れ。あまり遅くなると心配されるぞ」

「うん。でもさ、今日は凄かったよね。私の活躍見てた?」

「ああ、そうだな。修行の成果がちゃんと出ていた」


 真夜は「えへへ」と笑った。

 確かに鳥っ子と戦っていた時とは雲泥の差だった。

 異世界基準でも一端のルーキーとして活躍できるだろう。


「だが油断もしていたな。自分が優勢だからって遊びだすのは良くないぞ。なぁ、クロ」


 真夜の頭の上にいる黒猫に声をかけると、ビクッと反応した後に消えた。

 最近は普通に姿を見せるようになったが、未だに警戒されているらしい。


「うん、ごめん。なんか戦っていると楽しくなってきちゃうんだ」

「それに気づけているならいいさ」


 そうこうしている内に部屋の中の片付けが終わった。

 色沼はしばらく目覚めないだろうから、このまま放置で良いだろう。

 精霊が滅びたので目が覚めた時には余計な煩悩は消えているはずだ。

 後は電線を直して撤退だが……真夜はいつまでここにいるんだ。

 真夜の方を見ると楽しそうに話しかけてきた。


「ねえねえ、メイカさんは仲間になるかな」

「まぁおそらくね。彼女が仲間になったら、真夜が先輩だから面倒を見て上げないとな」

「私が先輩!えへへ……だったらさ、みんなで集まれる場所とか欲しいよね。アジトみたいなさ」


 アジト?まぁ、今は修行場にしている山くらいしか集まる場所がないしな。どこか良い場所があるだろうか?

 考えていると、妖精が自分に任せろとばかりに胸を叩いた。


「それなら私が良い場所を知っていますよ。きっとマヨちゃんも気にいるはずです」

「本当!?楽しみにしているね」


 なにやら妖精に案があるらしい。

 まぁフェイはそこら中を飛び回っているので、そういう場所には詳しいだろう。


「さあ、もう遅いから本当に帰りなさい。アジトの件はこっちでやっておくから」

「分かった。またね!」


 アジトの一件で満足したのか、真夜は手を振ると、影に溶けこみ消えていった。

 うーむ、影渡りは結構便利な魔法だよな。俺も練習しようか。

 妖精が肩に乗った。


「ふふふ、私もなんだか楽しくなってきました。メイカさんが仲間になると良いですね」

「ああ、そうだな」


 それとなく金で釣っているのがあれだが、彼女も母親が元気になって貯金が増えれば安定するだろう。

 彼女たちが立ち直るまではヒーローごっこを楽しんでも良いかも知れない。

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マッチポンプヒーローズ~異世界帰り勇者(黒幕)は弟子のヒーロー達に倒されるのを待っている 暇男 @himajin2424

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