第72話
アルチュールはずっとマイペースだ。
ケーキのクリームでペタペタになっている口元をキャンディスが拭う。
「アルチュール、口にクリームがついているわよ?」
「キャンディスお姉様、ありがとうございます!とてもおいしいです」
「ふふっ、よかったわね」
「キャンディス、これはどう?君が好きそうだけど」
「まぁ……!とても可愛らしいケーキですわ。ありがとうございます。リュカお兄様」
「う、うん!」
三人で和気藹々と話しながらお茶をしているとユーゴが「そろそろお時間です」と声をかける。
ヴァロンタンはこちらに一度だけ視線を向けて溜息を吐くと、そのまま不機嫌そうに部屋から出て行ってしまった。
(ま、まさか処刑できなくて残念だっていう溜息!?)
キャンディスはまた盛大に勘違いをしつつ、ヴァロンタンの背中を見送っていた。
キャンディスが頭を抱えて泣きそうになっていると、リュカから声がかかる。
リュカはキャンディスを不思議そうに見ながら口を開く。
「キャンディス、急に落ち込んでどうしたの?」
「…………身が引き締まる思いがしただけですわ」
「よくわからないけど大丈夫?」
キャンディスはプルプルと小刻みに震えながら頷いた。
「明日はホワイト宮殿にいくよ」
「え……?」
「朝は母上が迎えに来ないだろうから、教会に行って祈る必要もないし、アルチュールに文字を教えたいんだ」
「ほんとですか?リュカお兄様、ありがとうございますっ!」
「いいんだよ、アルチュール」
リュカはそう言ってアルチュールの頭を撫でた。
アルチュールを取られたような気がして邪魔してやろうとした瞬間に、何故かキャンディスまで頭を撫でられてしまう。
「リュカお兄様、わたくしを子供扱いしないでくださいませっ!」
「キャンディスだってまだ子供だろう?それに僕より年下だし」
「~~違いますわっ!わたくしの中身は立派な淑女ですから」
「キャンディスならすぐにそうなれるよ」
リュカはキャンディスの頭をポンポン撫でると安心したように笑った。
すっかりリュカに子供扱いされている。
しかしキャンディスは十六歳まで生きた記憶を持っているため複雑な心境だった。
ケーキをたくさん食べて満腹になったお腹を摩りながら立ち上がる。
リュカは護衛と共にブルー宮殿へと帰って行った。
キャンディスもアルチュールと手を繋ぎながらローズとエヴァ、ジャンヌを連れて長い長い廊下を歩いていく。
(今回は合格だったのかしら……でも次はどうなるのかわからないわ)
キャンディスがヴァロンタンの冷たい目を思い出していると、アルチュールはキャンディスのドレスの裾を引く。
視線を向けると心配そうにこちらを見ている。
「アルチュール、どうしたの?」
「ごめんなさい」
「……アルチュール?」
「ぼくがもっとしっかりしていたら……キャンディスお姉様をまもれたのに」
アルチュールはマリアとのやりとりを思い出しているのだろうか。
もう一度「ごめんなさい」と言った。
キャンディスはアルチュールを抱きしめた後に言葉を返す。
「アルチュールは悪くないわ。あなたはわたくしのそばにいてくれるだけでいいの」
「そばに?」
「えぇ」
「ぼくはキャンディスお姉様のそばにいます。ずっと、ずっと……!」
「ありがとう、アルチュール」
キャンディスはアルチュールの笑顔にいつも救われている。
(もう自分に嘘はつけない。わたくしはアルチュールを大切に思っている)
ジャンヌと手を繋いで去っていくアルチュールを見送りながら改めてそう思っていた。
波乱の一日が終わり、キャンディスは自分の部屋でヴァロンタンとの関係について考えていた。
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