第73話


(もうお父様に二度も助けてもらったわ。それにお菓子やケーキもいただいて……ううん、違うわ!あれはリュカお兄様やアルチュールがいたからたまたまよ!偶然でしかないのっ)


そう言って自分を納得させていた。


(わたくしは愛されたりなんかしない……そう思わないとダメ)


調子に乗ってしまいそうになるとキャンディスは頬を叩いて違うのだと言い聞かせていた。

首がもげるほどにブンブンと横に振る。


(わたくしはなるべくお父様にご迷惑をかけたりしないわ。いい皇女となり、帝国から抜け出すまでは……!)


キャンディスは決意を新たに鼻息荒く頷いていた。


その日はなんだか疲れてしまい、次の日は少しだけ寝坊をしてしまった。

朝食を食べ終わる頃に言葉通り、リュカがたくさんの本を持ってホワイト宮殿を訪れてきた。

アルチュールがリュカが来て大喜びしているのを見て、悔しくなりつつも三人で勉強をはじめた。


キャンディスもマナーの確認や帝国の歴史について学んでいた。

そんな古き良き帝国のしきたりをぶっ壊したのがヴァロンタンでキャンディスの父親である。

美術館に飾られている彫刻のように美しい顔と引き締まった肉体をしているのに、親や兄弟たちを皆殺しにするくらいに強く頭が回る。


しかし兄弟を皆殺しにしたのはキャンディスも同じだ。

親子で似たようなことをしているなと思いつつもキャンディスは目の前で文字を教えるリュカと真剣なアルチュールを見ていた。


(わたくしにもこんな風に二人と過ごす未来があったなんて驚きだわ)


ジャンヌはアルチュールを温かく見守っており、エヴァとローズはお茶とお菓子を取りに向かう。


(お父様が用意してくださる講師たちの前で粗相はできないわ。それにお母様への手紙をまだ書けていないもの……)


ユーゴにリサ宛てに手紙を送る時に一緒にキャンディスが書いた手紙を送ると言われて内心嬉しくてたまらなかったキャンディスだったが、ふとテーブルの上に紙を置いて羽ペンを持ったはいいが何も書けないままだった。


(わたくしはお母様に言いたいことがたくさんあったはずなのに……どうして何も書けないの?)


エヴァやローズに「二人はお母様とはどんな話をするの?」と聞いてみたのだが、二人は目を潤ませて何故か抱きしめられてしまった。

キャンディスは手紙を取りにきたユーゴに何も書けなかったことを伝えて、今はリサからの返事を待っている最中である。


そして書庫での一件から、キャンディスは何故か三日立たぬうちにヴァロンタンに呼び立てられることになる。


(ど、どうしてですの……!?)


時間はバラバラでヴァロンタンの気が向いた時に呼び出される。

いつも用意されているお菓子やケーキ。

書類で顔を隠しつつもこちらを観察しているではないか。


(わたくしは生かしておくに値するか試されているんだわ!)


キャンディスの勘違いも日に日にひどくなる。

おいしいお菓子やケーキが用意されているのだけは嬉しいのだが、ずっと黙っているヴァロンタンに観察され続けるのは緊張してしまう。

毎回、キャンディスは飛び出そうになる心臓を押さえながら紅茶を啜る。


ただ以前の記憶を生かして愛想だけは振り撒いておこうと、キャンディスは子どもらしくニコニコと笑っている。

彼が満足して去っていくタイミングは様々で十分くらいの時もあれば一時間以上の時もある。

部屋で待たされることもあるため、最近では本を持参している。


礼儀正しく挨拶をしてみるもののほとんど無反応なので好きに過ごしていた。

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