第65話
リュカにそう問われて〝一度目の人生の記憶があり、また死刑になりたくないから〟とは言えずに口篭る。
そして死刑にされた理由も父親に愛されたくて兄弟や気に入らない奴らを皆殺しにしたとはとても口にできない。
「えっと……わたくしの夢は愛する人と幸せな結婚をすることですから!」
「……そうか。そうだよね」
「ぼく、キャンディスお姉様と結婚する」
「まぁ!アルチュール、ありがとう」
「キャンディスお姉様をしあわせにしてみます!」
「ふふっ、楽しみね」
アルチュールの頭を撫でながらキャンディスがそう言うとリュカは少しだけ残念そうにしながらも納得するように頷いた。
「わたくしは今からどんな困難にも立ち向かってみせますわ。この世界を生き抜くために……!」
そう言って自信満々に胸を叩いたキャンディスを見て、リュカは口を開いた。
「君がそう言うと、なんだか本当に叶いそうな気がしてきたよ」
リュカは少しだけ口角を上げて微笑んだ。
それがとても美しくて、キャンディスは感動から口を開いた。
「リュカお兄様の笑顔をはじめて見た気がしますけど、とても素敵ですわね」
「~~~ッ!?」
キャンディスがそう言うとリュカの頬は一瞬で真っ赤になった。
「キャンディスお姉様、ぼくは!?ぼくは?」
アルチュールは笑顔を作りながら自分の顔を指さしている。
「アルチュールは天使でしょう?」
「うれしいです!」
パァッと花が咲くような笑みは天使にしか見えない。
喜ぶアルチュールを可愛がっていると、書庫の外が騒がしいことに気づく。
聞き覚えない甲高い声を聞いて不思議に思ったが、リュカがすぐに反応して、アルチュールとキャンディスに「今すぐ隠れて」と言って書庫の奥に行くように促した。
すると乱暴に扉が開く音が聞こえた。
「──リュカッ、リュカ!ここにいるんでしょう!?」
怒りを含んだ女性の声が耳に届く。
「母上……!」
「届け物をしようとしたらブルー宮殿にいないから、まさかと思ったけど、どういうことなのか説明してちょうだいっ」
「……こ、これは」
「本ばかり読んでないで、少しは神に祈りを捧げたらどうなの!?前もそう言ったわよね?」
どうやら頭ごなしにリュカを叱りつけているのはリュカの母親のようだ。
(リュカのお母様は教皇の娘で名前はマリア。表では聖母のように美しくて穏やかなだった。わたくしもマリア様みたいなお母様が欲しいと思っていたけど……リュカお兄様の前では随分と気性が荒いのね)
ディアガルド帝国には教会がたくさんあった。
そして帝国民は国の名前の由来でもあるディアガルドの女神に祈りを捧げている。
信者たちや帝国貴族からの多額な寄付金を受け取っている。
ある意味、帝国民の支持をもっとも受けていると言えるだろう。
「でも……っ」
「口答えしないでっ!この出来損ないが」
「……ッ」
「ああ、女神ディアガルドよ……どうかこの哀れな子をお許しください。何故、私の元にこんな不出来な息子を寄越したのでしょう」
「母上、僕は……っ」
「こんな腑抜けた性格ではとても皇帝になれはしないわ。お祖父様に言われたでしょう?容姿は美しいのに、どうしてこんなにも中身が残念なのかしら」
キャンディスはその言葉に愕然としていた。
リュカ次第に心を閉ざしていく原因がなんとなくわかったような気がした。
(なんてこと言うの!わたくしなら即ぶっ殺して……ゴホンッ、ぶっ飛ばしてあげますわ)
そしてキャンディスは思い出していた。
謎の死を迎えたリュカの母親と教皇の姿を。
今は人を救いたいと言っているリュカが、毒物の研究を進んで行っていた理由に繋がっていく。
教皇はリュカの親戚が継いだが、一時期大混乱になっていた。
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