第64話
「僕の願いは何一つ叶うことはないんだと思う。そういう運命なんだよ」
「でもマクソンスお兄様が皇帝になれば……」
「そうじゃないんだ、キャンディス……僕は」
諦めたように言うリュカの言葉にキャンディスはハッとする。
教皇の孫であり皇帝の血を引くリュカが医師になることは限りなく不可能だと言いたいのだろう。
以前ならばリュカを弱虫と馬鹿にしていたところだが、今は違う。
キャンディスはリュカが以前の自分と重なって見えてしまった。
(抗いたかった……リュカお兄様も同じだわ。自分の思いを認めてもらいたかっただけなのかもしれないわ)
キャンディスは不満を外に向けて発散していたが、リュカの場合は逆。
自分の殻に閉じこもることで、抵抗していたのかもしれない。
それがあの結果ならば、なんだか虚しく感じてしまいリュカを放っておくことができないと感じていた。
リュカはもう一度同じことを繰り返すのだろうか。
「リュカお兄様はそれで本当にいいのですか?」
「……え?」
「後悔しないと言いきれますか?」
キャンディスの問いかけにリュカは唇をギュッと噛んだ。
「でも僕にはどうしようもできないよ」
「わたくしも、そう思っていましたわ」
「え……?」
「ですが〝真逆作戦〟という素晴らしい作戦を思いついてから、人生が百八十度変わりましたの!」
「真逆、作戦……?」
「今までの自分が取らない行動をすることをしたのですわ!たとえばわたくしでしたら……好き嫌いせずに野菜を食べるとか、お買い物をしすぎないとか、アルチュールと仲良くすることもそうですわね」
「……!」
「お祖父様を撃退いたしましたし、侍女とも二ヶ月近く一緒にいますのよ!」
キャンディスが顎に手を当てながら自慢げに語っているのをリュカは意外にも関心して聞いている。
「キャンディスは面白いことを考えるんだね。真逆作戦……今までの自分とは大きく変われそうだ」
「そうでしょう?わたくしは今度こそ後悔がないように生きるつもりですわ!」
その言葉には色々な意味が含まれている。
キャンディスはくっついているアルチュールの頭を撫でた。
キャンディスは執着していたものをすべて手放して諦めたのだ。
そして死なずに生きたいと思ったからこそ、こうして新たに大切な人たちと心温まる日々を過ごせている。
「わたくし、自分の道は自分で決めますわ。いい皇女になって、この帝国から出ていくその日まで!」
「……!」
最近はいい皇女になれたなら、今まで見たことのない世界が見られるかもしれない。
新しいことを学んで、大切なものが見つかるかもしれない。
そう前向きになれたのも、一度目の失敗があったからだ。
キャンディスは自分の目的のために、これからもガンガンと前に進むつもりだ。
(今のわたくしにできないことなんてないわ!オーホッホッホ)
キャンディスが胸を張ってドヤ顔をしていると、リュカはアクアマリンのような瞳を大きく見開いている。
アルチュールも目を輝かせてキャンディスを見ていた。
「さすがキャンディスお姉様!とてもかっこいいです」
「ありがとう、アルチュール。これからもわたくしについてきなさいっ」
「はい!ぼくもつよくなってキャンディスお姉様についていきますっ」
「まぁ……!頼もしいわ」
アルチュールの可愛らしい言葉にキャンディスは笑顔を向けた。
気合い十分に頷いたアルチュールの頭をいつものように撫でていると、リュカが真剣な表情でキャンディスに問いかける。
「キャンディスはどうしていい皇女になりたいの?」
「え……?」
「どうして帝国から出て行こうとしているんだい?」
「そ、それはですね。わたくしは……」
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