第61話

キャンディスが本音で話しているとわかったのだろう。

ユーゴは「なんだかよくわかりませんがわかりました」と黒い髪を掻きながら答えた。

キャンディスはユーゴを見ながら思ったことを伝えるために口を開く。



「よく見ると、ユーゴの黒い髪は素敵なのね」


「……!」


「わたくし、触ってみたいわ!」


「…………。皇女様は一体、何を考えているのですか?」


「わたくしはただユーゴの髪に触ってみたいと思っただけよ?」



そしてユーゴに屈むようにアピールすると、ユーゴは嫌々ながらもキャンディスの前に膝をつく。

アルチュールとは違うサラサラと流れるような髪はなめらかで癖になる。



「艶々しているし黒曜石みたいね」


「なっ……!?皇女様、一体どうしたのですか」


「ちょっと動かないで!」


「~~~っ!」



ユーゴの余裕ある表情が珍しく崩れたのを見て、キャンディスはニタリと笑みを浮かべた。

キャンディスはユーゴの黒く生まれた髪や瞳だけで差別していたが、自分と変わらないことに気づく。

それにこんな表情が見られるのも悪くない。

いつもユーゴに嘲笑われていたキャンディスだったがいい気分である。


(これも真逆作戦ですわ……!ユーゴは褒められ慣れてないのね)


ユーゴの意外な弱点を見つけて、キャンディスは満足していた。



「皇女様、揶揄わないでください……!」


「揶揄っていないわ。わたくしは褒めているのよ!」


「…………変な方ですね」


「ふふっ」



そしてユーゴを褒めたおかげなのか、あの後すぐにホワイト宮殿に戻してくれた。



「「皇女様っ!」」


「二人とも、よかった」


「心配したんですからっ」


「ご無事でよかったです~!」



エヴァとローズは泣きながらキャンディスとの再会を喜んでくれた。

二人共、一時は別の宮殿に移されそうになってたがホワイト宮殿にまた戻りたいと訴えてくれていたようだ。


そしてキャンディスがホワイト宮殿に帰ってきたと知らせを受けたのか目元が真っ赤に腫らしたアルチュールはポロポロと涙を流しながらキャンディスに抱きついた。



「アルチュール!?どうしたの……?」


「……ッ!」


「アルチュール?」


「キャンディス、お姉様ぁ!」



アルチュールは何度も何度もキャンディスの名前を呼んで、その後もキャンディスからずっと離れなかっなかった。

ジャンヌはキャンディスの予想通り、責任を感じていたらしく、すぐに謝罪して頭を下げ続けていた。



「私が軽率な行動を取ったせいで皇女様を危険な目に遭わせてしまいました……申し訳ございませんっ」


「ジャンヌのせいではなくってよ」


「ですが……っ」


「わたくしは気にしていないわ」



キャンディスはジャンヌのせいではないと言ったが、納得いかなかないようだ。

初めて見るジャンヌの様子にアルチュールが瞳を潤ませている。

アルチュールの不安げな表情にキャンディスは胸が締め付けられる思いがした。


これ以上、見たくない……そう思ったキャンディスはアルチュールが不安になってしまうからと説明するとジャンヌはやっと口を閉じたのだった。


ホワイト宮殿から人が消えたためアルチュールがどうしたか気になっていたが、どうやら書庫に通いながらリュカと勉強を続けて、こっそりとブルー宮殿で世話になっていたそうだ。


リュカが母親と教会に行った後に書庫に行って文字を教えてもらい、リュカと一緒に食事をしていたと聞いてキャンディスは驚いていた。

キャンディスに続き、リュカもアルチュールと親しくなったとあればアルチュールの扱いは改善されていくかもしれないと思ったからだ。


(リュカお兄様にお礼を言わなくてはいけませんわね)

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