第39話
「アルチュールさえよかったら、この時間に書庫に来れば文字を教えてあげるよ。少しの間だけど……」
「リュカお兄様、よろしいのですか?」
「うん……僕も楽しかったから」
「アルチュール、よかったわね」
「リュカお兄様、よろしくおねがいします!ぼく、べんきょう、がんばります」
「……っ」
アルチュールの天使のような笑顔にリュカは照れながらも頷いている。
なんだかアルチュールを取られたようなモヤモヤした気持ちになったものの、キャンディスとアルチュールはリュカに手を振りながら本を持って書庫を先に出た。
アルチュールは嬉しそうにジャンヌに自分が書いた文字を見せている。
ジャンヌはアルチュールの成長が嬉しいのか、抱きしめながら涙が滲んだ瞳を拭った。
本を抱えてジャンヌに読んでとせがんでいる。
中庭で本を読むアルチュールとジャンヌを見送って、キャンディスもホワイト宮殿に戻ろうとエヴァとローズと共に本を持って談笑しながら歩いていた時だった。
本の内容を説明しながら歩いていたせいか、誰かとぶつかってしまい、キャンディスの体はすごい勢いで後ろに飛んで転がってしまう。
「いたっ……!」
いつもならすぐに「大丈夫ですか!?」と声を掛けてキャンディスの心配してくれるエヴァとローズが声を発しないことを不思議に思っていた。
ぶつけた頭を押さえながらキャンディスが振り返りエヴァとローズを見ると二人は見たことがないくらいに深々と頭を下げている。
キャンディスは前から圧を感じてゆっくりと視線を上に向ける。
プラチナブロンドの髪が窓から差し込む光に照らされてキラキラと光っていた。
アメジストのような濃い紫色の瞳がギラリとこちらを睨みつけている。
ビリビリと感じる威圧感にキャンディスはゴクリと喉を鳴らした。
(ヴァロンタン皇帝陛下……お父様と言った方がいいかしら。どうしてここに?)
キャンディスの行動範囲が広がったことと、ここはバイオレット宮殿なので当然といえば当然なのだが偶然にしては最悪なタイミングではないだろうか。
まさか鉢合わせるとは思わずに、キャンディスは尻餅をついたまま体を固くしていた。
上から凄まじい圧を感じる。
以前ならばその姿を見て喜んでいたところだが、今はまったく違う。
(あの時と同じ目だわ……怖い!)
無意識に呼吸が浅くなってしまう。
あの日、キャンディスを絶望へと突き落としたヴァロンタン。
彼の命令で牢に閉じ込められて罰を受けた後に首を斬り落とされた。
『俺がお前を愛することはない』
そんな言葉は今もキャンディスの胸に棘のように突き刺さっている。
(兄弟をみんな殺したんだもの。その前も侍女や従者、護衛に何の罪もない人たちも。傷つけた人が多すぎて数えられないわ……わたくしが愛されるわけがない。罰を受けるのは当たり前よ)
こうして時が戻ってから考えるのは身勝手な振る舞いをしてきた後悔ばかりだ。
アルチュールに対しても侍女やシェフ、ホワイト宮殿で働いている人たちにもそう。
今、様々な人と関わり、仲を深めていくことでキャンディスには新しい気づきがたくさんあった。
真逆作戦で行動を変えてきたキャンディスだったが、ヴァロンタンに対してもそれは同じ。
これから関わり方は大きくなっていくだろう。
キャンディスは何をしても父親からも母親からも愛されることはないと理解している。
(もう……わたくしは両親からの愛は得られない)
悲鳴をあげそうになるのを唇を噛んで堪えていると、後ろから黒髪と黒い瞳の男性が顔を出した。
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