第38話
「キャンディスはもう文字が読めるの?」
「え、えぇ……もちろんですわ!」
キャンディスはリュカの問いかけに髪を払いながら得意げに答えた。
前は読めなかったが、今は記憶を引き継いでいるからかスラスラと読めてしまう。
多少ずるい気もしたが読めるのだから仕方ないではないか。
「こんなに小さいのにすごいんだね!」
「……っ!?」
そう言ってリュカは笑みを浮かべながらキャンディスの頭を撫でる。
キャンディスはリュカの行動に驚いていた。
(あんなに根暗でオドオドしていたリュカお兄様がこんなことするなんて意外だわ)
しかしキャンディスはその行動が気に入らずに頬を膨らませながらリュカの手を掴む。
「子ども扱いしないでくださいませっ!」
「ご、ごめん……でもすごいなって思ったから」
「……!」
「本当だよ」
リュカは両手を振りながら申し訳なさそうにしている。
キャンディスはフンと荒く息を吐き出した。
そんな時、アルチュールがキャンディスのドレスの裾を引く。
本を読んでと言わんばかりにこちらに向けてくるではないか。
「アルチュール、明日からわたくしが文字を教えてあげますわ」
「…………よみたいです」
「今はリュカお兄様の邪魔になってしまうわ。今日の夜にジャンヌに読んでもらうのはどうかしら?」
「……でも」
アルチュールは本を持って悲しそうにしている。
キャンディスがふわふわのイエローゴールドの髪を撫でているとリュカが「僕のことは気にしないで」と言っている。
「なら今、少しだけ読みましょうか?」
「いいのですか?」
「えぇ、もちろん。その前にもう少し時間がかかりそうだとジャンヌとエヴァとローズに声をかけてくるから待っていて」
キャンディスが扉の方へと歩いていくと、アルチュールが椅子によじ登るようにして座ると本をめくっているのが見えた。
キャンディスはアルチュールが心配そうなジャンヌとエヴァとローズに「少し本を読んでから」状況を報告してからアルチュールの元に戻る。
するといつの間にか本は閉じられていて、リュカがアルチュールの前に紙を広げている。
キャンディスがこっそりと二人の様子を覗いていると……。
「これが〝あ〟だよ。それからこれが〝る〟と読むんだ。書いてごらん」
「はい」
「これでアルチュールと読むんだよ」
「わぁ……!」
どうやらリュカは本が読めないアルチュールを見て、文字を教えてくれているようだ。
それにはキャンディスも驚いていた。
リュカは母親に言われた通りアルチュールに関わることをしないと思っていたからだ。
キャンディスは二人の邪魔にならないように先ほどリュカに教えてもらった何冊かの本を取り出して読んでいた。
(あら……なかなか面白いのね。悪くないじゃない)
こうしてゆっくり本を読んだことがなかったキャンディスにとっては新鮮だった。
どのくらい時間が経ったのだろうか。
アルチュールがキャンディスの名前を読んで駆け寄ってくる。
「キャンディスお姉様、みてください!ぼく、文字がかけましたっ」
「まぁ……!アルチュール、なかなか上手に書けたじゃない」
「えへへ」
紙にはキャンディス、アルチュール、リュカと書かれていた。
キャンディスがそう言って褒めると、アルチュールは嬉しそうに頬を赤らめた。
アルチュールは振り返ると「リュカお兄様、ありがとうございます!」と大きな声でお礼を言った。
どうやら文字を教えてもらったことが相当嬉しかったようで興奮気味にリュカに話しかけている。
リュカは若干引き気味であるが、アルチュールに対してはキャンディスよりも話しやすそうにしている。
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