第37話
「あ、ありがとう……」
「大丈夫ですか?」
リュカはそう言って書庫の入り口に視線を送る。
護衛騎士と目が合うと、彼は申し訳なさそうにペコリとリュカに頭を下げた。
誰も入らないように言っていたのかもしれないが、さすがにキャンディス相手に引き留めることはできなかったのだろう。
リュカとは相変わらず視線も合うことなく、オドオドしている。
「……君たちはどうしてここに?」
「わたくしがアルチュールに文字を教えるのですわ!そのためのいい本がないか探しに来たのです」
「そ、そっか」
リュカはアルチュールにチラリと視線を送ると、自らの腕をギュッと掴んでから距離を空けるように一歩後ろに引いた。
(確かリュカお兄様はアルチュールに関わるなと言われているんだったかしら……)
キャンディスはリュカとの会話を思い出していた。
リュカが読んでいる本を元に戻そうとがんばっているアルチュールと共に本を整えてから、本を探しに行くために歩き出す。
「リュカお兄様、勉強の邪魔をして申し訳ありませんでしたわ」
「あっ……」
「アルチュール、行きましょう」
「はい、キャンディスお姉様」
「アルチュールが読めそうな本はどこにあるかしらね。どんな本が読みたいのかしら?」
「キャンディスお姉様が出てくる本がいいです」
「ふふっ、アルチュールったら。本の中にわたくしは出てこないわ」
そんな会話をしながらアルチュールが読めそうな本を探すものの、どれも難しそうな大人向けの本ばかりで、どこに何があるかまったくわからない。
ジャンヌとエヴァとローズは外で護衛に止められて、外で待機しているため、一緒に探してもらうこともできない。
ずっと上を見上げているせいか首も痛くなってくる。
キャンディスが読みたい本も見つからずに広い書庫の中をウロウロと彷徨っていた時だった。
「あ、あの……」
「リュカお兄様?」
リュカが本棚からチラリと顔を出した。
眉が寄っていて怒っているようにも見える。
もしかしたら勉強の邪魔になってしまったのかもと、キャンディスはリュカに言葉を返す。
「うるさかったでしょうか?」
「違うんだ……そのっ、さっきのお礼に本を探すのを手伝うよ」
「え……?」
「もちろん、迷惑じゃなかったら……だけど」
リュカの声がだんだんと尻すぼみになっていく。
「是非、お願いしますわ。本の場所がわからなくて困っていたのです」
「……!」
キャンディスが上を見上げすぎて痛む首を押さえながらそう言うとリュカの表情が明るくなる。
冷静に見てみるとリュカは照れ屋で人見知りではあるが心優しい少年なのだと思った。
まずはキャンディスが探していた本を言うとリュカはあっという間に本が置いてある場所まで案内してくれた。
何冊かの本を見つけてテーブルに置いた後に、今度はアルチュールが読めそうな本がある場所へと案内してもらう。
「こっちだよ!」
そう言ってリュカがアルチュールに手招きする。
アルチュールと共についていくと、子供向けの物語がたくさん並んでいる本があった。
アルチュールが瞳を輝かせながら本棚に飛びついた。
リュカが数冊の本を取り出してアルチュールに見せる。
「僕が君くらいの時に読んでいた本だよ」
「わぁ……!」
アルチュールはリュカから本を受け取ると、満面の笑みを浮かべながら「ありがとうございます」とお礼を言った。
リュカも目を見開いてアルチュールを見ていたあとに「……どういたしまして」と小声で呟いた。
「はやくキャンディスお姉様みたいに文字がよめたらいいのに」
アルチュールがそう言ったのを聞いていたリュカが口を開く。
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