第35話
「それはこちらの台詞ですわ!今まで会えなかったのにどうして急にお母様に会えるようになるのでしょうか」
「そ、それは……色々と都合があってだな」
「なんだかお祖父様は言っていることが二転三転するので信用できません」
「……っ!」
「次からはお父様に直接、お母様への手紙を出してもらうように頼みますので、お祖父様はもうわたくしに会いにこなくていいです。では、ごきげんよう」
「まっ、待つんだ、キャンディス!キャンディス──ッ!」
キャンディスはラジヴィー公爵の呼び止める声を無視して部屋を出た。
エヴァとローズは部屋にいるラジヴィー公爵とキャンディスを交互に見ながら困惑している。
(オーホッホッホ!思い通りにならない現実を噛み締めるがいいわ!)
キャンディスは心の中で高笑いをしていた。
もう来なくていいと言ったとしてもキャンディスの様子を見にホワイト宮殿に来るだろうが、緊急性がなければラジヴィー公爵とは直接、会って話さなくてもいいだろう。
スッキリした気分で部屋に戻ったキャンディスは己の運命が大きく変化したことにも気づかずに、紅茶を啜っていたのだった。
次の日、キャンディスはいつものようにアルチュールと共に食事をしていると『本がよみたいです』と言ったアルチュールの言葉を聞いてキャンディスはピンとくる。
今度はアルチュールに文字を教えようと思ったのだ。
(そういえばわたくし、面倒だし書庫なんて行ったことなかったわ。今回はアルチュールと一緒に行ってみましょう)
最近はアルチュールを連れて色々な場所に行くことが楽しみになりつつあるキャンディスは朝食を食べ終えてすぐにバイオレット宮殿にある巨大な書庫に移動していた。
キャンディスは滅多にホワイト宮殿から出ることはなく、幼い頃はバイオレット宮殿にある書庫に来ることはなかった。
理由は単純、本に一切興味がなく読まないからだ。
もし読みたいものがあったとしたら侍女に頼んで取りに行かせていた。
それからラジヴィー公爵を黙らせるためにも少しは自分で勉強しているフリをしなければと思った。
(ドレスや宝石はわたくしを救ってくれないとわかったもの。今から強くならないといけないし、勉強もしないといけないし、皇女も楽じゃないわ……!)
だが、今から断罪されないために力をつけることは必須。
今まではラジヴィー公爵に用意してもらっていた講師だが、できれば公爵の息のかかっていない者が望ましい。
キャンディスの様子はすべて筒抜けでサボろうとすればラジヴィー公爵がやってくる。
その繰り返しだったことを思い出す。
そしてこの頃から勉強漬けの毎日だったが、こうして外を見るようになり視野が広がったのはありがたい。
(本当はお父様に頼めたらいいのだけれど……絶対に無理よね)
自分で名前を利用しておいてなんだが、キャンディスは父に疎まれて嫌われている。
そう知っているのにわざわざ近づくのは気が引ける。
それにあの表情を見て、好かれていると思っていたキャンディスがおかしいのだ。
(わたくしがお父様に愛される未来なんて、ありえないんだわ)
それに今の段階からすでに父がキャンディスを嫌っているのは、ハッキリとわかりきったことだ。
ルイーズとはあんなに一緒にいたのにキャンディスには一度も会いにこないことがその証拠だ。
そんな相手に自分から近づいてお願いするなんて考えただけでゾッとするが、以前までは隙があればバイオレット宮殿に突撃して媚びていたのかと思うと、信じられない気持ちである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます