第34話
「お母様に会いたかったけれど、会えないのならもう諦めます。それに新しい侍女のエヴァとローズが姉のように接してくれるのでわたくし寂しくありませんわ」
エヴァとローズの名前を出すと手を合わせて喜んでいた二人だったが、ラジヴィー公爵は余計なことをするなと言いたげに二人を睨みつけているではないか。
二人は大きく肩を揺らして、縋るようにキャンディスを見ている。
キャンディスはラジヴィー公爵の注目を逸らすように話を続けた。
「お母様に直接褒めてもらえないなら、わたくしが頑張る意味もありませんのでお祖父様が用意する講師は結構ですわ」
「な、なんだと!?」
今にも激昂しそうなラジヴィー公爵を見ていたが、なかなか引いてくれそうにない。
ここでキャンディスはある切り札を出した。
「講師や身の回りのことは、すべてお父様に相談しようと思っていますの」
「皇帝陛下に……?」
ラジヴィー公爵の真っ赤な顔が一瞬にして元に戻る。
(まぁ、お父様に頼むなんて絶対に無理でしょうけどね!)
キャンディスを見るあの冷たい瞳を思い出すだけで鳥肌が立つ。
ズキリと首が痛むような気がした。
嘘でもいいからラジヴィー公爵を引かせるためにはこれしかないと思っていた。
キャンディスは子供らしく、にっこりと笑いながら立ち上がる。
母親に会わなくてもいい。講師は皇帝に頼む。
これでラジヴィー公爵の付け入る隙はなくなったと、キャンディスは大満足だった。
「お話はそれだけでしょうか?わたくしは忙しいので今日はこの辺で失礼いたしますわ」
「待ちなさい、キャンディス!」
「……なんでしょうか?」
キャンディスはチラリと後ろを振り向く。
ラジヴィー公爵は何一つ思い通りにならずに不満なのだろう。
部屋に入ったときに比べて顔が険しくて今にも怒り出しそうだ。
キャンディスが言えたことではないがラジヴィー公爵もなかなかに短気ですぐに怒る。
そこだけ見ればキャンディスとそっくりだと思う。
しかし怒り出すかと思いきや、子供相手だと思ったのだろうが。
咳払いをしてからこちらを向いた。
「母親に会えるのなら、頑張るのだな……?」
「どうでしょう。もし会えるのならやる気は出たかもしれませんわね。ですが先ほどお祖父様が無理だと仰ったではありませんか」
キャンディスがそう言うとラジヴィー公爵が考える素振りを見せている。
(まさか……今更、母親に会わせると言うつもり?)
キャンディスが言葉を待っていると予想通りのことを口にする。
「わかった。ならば母に会わせてやろう!」
キャンディスはラジヴィー公爵を睨みつけた。
会う直前に具合が悪くなったなどと言ってまた会わせないつもりではないか。
とりあえずはキャンディスが思い通りになるなら、どんな嘘でも吐くのだろう。
それともこう言えばキャンディスは喜んで再び言うことを聞くようになると思っているのか。
ニヤリと歪んだ唇から、そんな思いが透けて見えている。
しかしキャンディスは思っていた。
(やっぱりお祖父様は信用してはダメ。わたくしを従わせて利用するための嘘ばかりつく。わたくしはもうあの頃の馬鹿なわたくしじゃない……このまま後悔するがいいわ)
キャンディスはもう思い通りにならないと思い知ってもらわなければならない。
キャンディスは大きく息を吸ってから答えた。
「───結構ですわっ!」
キャンディスの言葉にラジヴィー公爵はあんぐりと口を開けている。
しかしすぐに大きな声でキャンディスに問いかける。
「何故だ、キャンディスッ!」
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