第23話
それにこうして美容と健康に気をつけて美しさを磨くことで素晴らしい男性に娶ってもらい、帝国から出て行くことができるのではないかと思いハッとする。
そのために今までとは真逆なことをして、できることはどんどんとしていくべきだと思っていた。
そうすれば必ず死刑は回避できるに違いない。
(以前もわたくしは美しかったけれど、もっともっと自分を磨いたら、きっと素敵な王子様が迎えにきてくれるわ!)
キャンディスは己の幸せな未来のために気合十分だった。
「デ、デザートも少なめでいいわ」
「本当によろしいのですか!?」
「うっ……!」
食事の楽しみといえばデザートだ。
キャンディスは何よりデザートの時間を楽しみにしていたが
これも未来のためである。
(この国から抜け出したら……吐くほどデザートを食べてやるんだから)
また一つ、キャンディスのやる気が上がる。
キャンディスは食後の紅茶を飲みながら、ケーキを嬉しそうにたべているアルチュールを見て思っていた。
「ねぇ、ジャンヌ……」
「は、はい!皇女様」
優しい目でアルチュールを見守っていたジャンヌだったが、キャンディスに名前を呼ばれて驚きながらも返事を返した。
「明日からはアルチュールにマナーを少しずつ教えてあげるわ。食事の時間になったら、わたくしといらっしゃい」
「え……?」
「こ、皇女様……本当によろしいのですか?」
「わたくしはちゃんと約束を守るわ!」
アルチュールとジャンヌはこれでもかと目を見開いている。
宮殿内で食べ物も満足に貰えないほど居場所がないアルチュールにとって、これ以上のない申し出だった。
アルチュールを毛嫌いしているキャンディスがアルチュールと共にいるようになれば他の者たちも態度を改めずにはいられない。
そんなことにも気づかずにキャンディスは己のプライドを守るために言っているだけである。
それにキャンディスはあることに初めて気づいた。
理由はわからないが一人で食事するよりもずっと美味しく感じるのだ。
(暫くは牢の中のように静かな場所ではなくて、人がいる騒がしい場所にいたいわ)
アルチュールが隣にいる食事はキャンディスの寂しさや不安を和らげてくれることに気づかないまま、そう提案したのだった。
「ぼくに……おしえてくれるのですか?」
「そうよ!何度も言わせないでちょうだい。しつこいわよ!」
「ありがとうございます!」
「ということだから、アルチュールの食事もこれから用意して。わたくしの隣にいるのに骨と皮だけなんてみっともないから、アルチュールには栄養がありそうなものを出してちょうだい」
「ほ、本当によろしいのでしょうか!?」
今まで一緒に食事をするどころか近づきもしなかったアルチュールの分まで用意しろという命令に驚いているのだろう。
シェフたちの問いかけにいつもなら「一度で聞き取りなさい」と食器を投げつけるところだが、キャンディスは厳しい視線を向けて不満をアピールするにとどめた。
「か、かしこまりました!」
「わかればいいのよ」
「皇女様、本当にありがとうございます……!」
ジャンヌは深々と頭を下げている。
しかしキャンディスは下心満載で己のプライドを守るために動いているだけなので何故、お礼を言われているのかはわからない。
だが、いつもこちらを睨みつけてばかりいるジャンヌが深々と頭を下げている光景は悪くない。
それにアルチュールを下僕として手元に置いておけば、ルイーズがキャンディスを排除することも理由がないため簡単ではなくジョルジュと手を組んで、キャンディスを殺すこともないはずだ。
そもそも今のキャンディスに誰か殺す予定はない。
そんな安易な考えから出た言葉だったが、この一件によって二人に感謝されることになるとも知らずにキャンディスはいつもよりもずっと楽しい食事を終えたのだった。
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