第22話
キャンディスは記憶があるので五歳にもかかわらず、テーブルマナーを会得している。
自分で言うのもなんだがマナーや皇女としての立ち振る舞いだけは完璧に仕上がっていた。
しかしお腹が空いているので今からアルチュールに教えるのは面倒である。
「だけど今日だけは特別にマナーが完璧なわたくしの前で好きに食べてもよろしくてよ!」
「ぁ……」
「早くお食べなさい」
「で、ですが」
「ああ、そうね。アルチュールのお肉を食べやすいように切ってあげてくださる?」
「はい、皇女様」
「それと次の料理をすぐにお願い」
今、キャンディスの口の中が野菜に占拠されている。
早く味を変えたいためスープを飲みたいと思っていた。
結局は自分のためではあるのだがこの時、アルチュールから見てキャンディスがどう見えていたのか知る由もなくキャンディスはスープを自分の元へ運ぶように指示を出す。
アルチュールの前に切られた肉が置かれると、オドオドしながらもフォークを握る。
そして肉を刺した後にゆっくりと口元に運ぶ。
美味しいのか瞳をキラキラと輝かしながらジャンヌを見るアルチュールになんだかいい気分になってくる。
(たまには下々の者にこうして施してやるのも悪くないわね……!)
すぐに調子に乗ってしまうキャンディスは次々に皿をアルチュールの前へ。
キャンディスは一口一口、噛み締めるようにスープを味わっていた。
(染みるわ……!なんて美味しいスープなの)
隣でアルチュールが美味しそうに食べている様子を見るのはなんだかいい気分である。
だんだんと小動物に餌付けしているような感覚になり、楽しくなってくる。
スープを飲むと口内の苦味が消えていく。
キャンディスはホッと息を吐き出していた。
温かいパンが運ばれて、キャンディスの目の前に置かれる。
震える手でパンを持って観察するようにグルリと回す。
(カビが生えていないわ……それに温かくてこんなにも柔らかいのね)
キャンディスがパンを手に持ちながら感動していた。
パンを千切って、口元に運びながら涙が溢れ出しそうになるのを堪えていた。
その後もキャンディスがいつも嫌っている魚やスープなどを食べながら感動していた。
シェフたちが終始困惑していたがキャンディスにはすべての料理が輝いて見えた。
一つずつ味を確かめるようにして食べてみるが、どれも手を込んで作られているとわかる。
(毎回、わたくしのために作ってくれていた料理は……こんなにも美味しかったのね)
それを食べもせずにいらないといい、飾りとして料理を出させて贅沢三昧していた自分が恥ずかしくて仕方ない。
キャンディスはフォークとナイフを置いてナプキンをテーブルの右手に軽く折りたたんで置いた。
「ここにあるすべてのものが……とても美味しいわ」
キャンディスの言葉に今まで何を作っても文句を言われてばかりいたシェフたちが「ありがたきお言葉です……!」と、感激して頭を下げている。
「これからお肌が綺麗になるような健康的なお料理だと嬉しいのだけれど」
「肌、ですか?」
「えぇ、肌を艶々にしたいのよ」
今まで食事の影響か、ブツブツの肌を厚化粧で懸命に隠していた。
いくら香油を塗っても肌が荒れ放題だったが、キャンディスは食事を変えれば肌もサラサラになると思い込んだのだ。
よくわからないキャンディスからの命令なやシェフたちはとりあえず頷くしかなかった。
今まで肉とパンとデザートしか食べなかったキャンディスが健康に気遣うようになったことに驚いていたが本人は真剣だ。
(デザートくらいは今までと同じでいいかしら……でも今までと逆にするということは限りなく少なくしろってこと!?そんなの絶対に無理に決まっているじゃない!)
デザートだけはどうしても譲れない……キャンディスは心の中で戦っていた。
(デザートをいつも食べている量より少なくすればいいのね。いいわ……こうなったらとことんやってやろうじゃないのっ!)
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