二章 皇女は変化する
第24話
その日の晩、ホワイト宮殿には頭をぶつけて人が変わったキャンディスの噂があっという間に広がった。
『頭をぶつけたせいで皇女様がおかしくなった』
『いい皇女のふりをして周囲を欺こうとしている』
周囲が警戒している中、キャンディスは自分を変えようと奮闘していた。
まず怒鳴らないようにするだけでも、かなり神経をすり減らしていた。
いい皇女として振る舞いたいが、まだ手探り状態だ。
(とりあえずはエヴァとローズとアルチュールに優しくできたわ!これで死刑への道が遠のいたはずよ……!)
それから一カ月が経つと、キャンディスの努力が伝わり出したようだ。
その変貌ぶりを目の当たりにした者たちは驚きながらも次第にキャンディスへの態度が柔らかくなりはじめた。
エヴァとローズはまだ新人だからか少しドジで失敗をすることもあるが、一生懸命キャンディスの世話をしてくれている。
今すぐにコイツらを辞めさせたいと何度思ったことだろう。
キャンディスは唇に血が滲みそうになりつつも、苛立ちを押さえてなんとか耐えていた。
今まで同じ侍女がそれほど長くキャンディスのそばにいたことはない。
それには侍女長も眼鏡をカチャカチャと鳴らしながら驚いていた。
失敗すれば即クビだったのに、失敗してもクビになるどころか許されている。
失敗といえばアルチュールの食事時のマナーも同様だ。
キャンディスは約束通り、アルチュールにマナーを教えていた。
キャンディスはアルチュールを邪険にしていたことも忘れて、彼に教えてることで自尊心と自信を取り戻しつつある。
(わたくしが今までやってきたことは無駄じゃなかったのね……!)
三食ともにしながらテーブルマナーを教えていたので一カ月も経つと、アルチュールは完璧とまではいかないがマナーをキチンと会得していた。
アルチュールはキャンディスと食事をしっかり摂るようになったからか肉付きもよくなり顔色もずっとよく健康そうだ。
アルチュールと毎日一緒にいすぎて、嫌悪感はあっという間に消えてしまった。
(今度はわたくしがアルチュールにお茶会でのマナーを教えてあげるのよ!)
だんだんと教えることもなくなり、今日は天気もいいので中庭でアルチュールとお茶をしようと約束をしていた。
最初ではキャンディスがアルチュールを虐げるのではないかと疑ってかかっていたジャンヌも今ではすっかりとキャンディスを信頼しているようだ。
それにジャンヌは最近、キャンディスまでもアルチュールと同じように叱ってくるではないか。
それにはキャンディスもジャンヌに反論しようと思ったが、なんだかそんな気分になれずに唇を噛みつつもジャンヌの説教を聞いている。
ジャンヌに好き放題言われると腹も立つし頭にくるけれど、色々と注意されるのは何故だか悪い気はしない。
アルチュールの心が洗われるような素直さと優しさに無意識に影響されていることにも気づくことなくキャンディスは上機嫌で中庭へと向かう。
今はエヴァとローズに準備してもらっている。
髪は高い位置で二つに結えてもらい、イエローと白のフリルが可愛らしいドレスを着て準備万端だ。
シェフには野菜が練り込まれたお菓子を作ってもらった。
サラダを苦々しい顔で食べているのを見たシェフは、キャンディスが食べやすいように野菜を加工してくれている。
おかげで今では食べれるものも増えてきた。
キャンディスが皿を空っぽにするとシェフたちは嬉しそうに顔を綻ばせる。
その顔を見たくてキャンディスは食事を完食するようになった。
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