第54話 新たなる旅路へ
「俺がこの国の王ね……」
あれからすぐに自宅に帰るとベッドの上に倒れ込み、先ほどの話を考えていた。
「……そんなこと全然考えたことなかったな」
俺は聖剣に選ばれた勇者として人々を守るのが使命だと思っている。それは今も変わることはない。
そのため、王になるなんて微塵にも考えたことはなかった。
そもそも、単なる一般庶民である自分にはあり得ない話と思っていたが……アルシオーネ様も元々は庶民だったと聞いたことがあるため、そうでもなさそうだ。
「ただいまー!」
そんなことを考えているとナディアが帰ってきた。
「あ、ゼストも帰ってきてたんだー!」
俺の姿を見つけたナディアはこちらに飛びついてきた。
「見てみて、森の奥に棲みついてたビッグボアを大量に駆除したらお肉たくさんもらったんだよ!」
そう言ってナディアは持っていた大量の肉を見せてきた。
俺やセリカが医療施設で治療を行っている間、ナディアは持ち前の機敏さと鋭利な爪を使って木材の伐採や自警団がやっている害獣の駆除を手伝っている。
「お、すごいじゃないか、そんじゃ今日は肉料理でもするか」
「やったー!!」
ナディアは喜びの声をあがつつ尻尾をブンブンと振り回していた。
「……ゼストどうしたの? なんか困ってそうな顔をしてるけど、たしか今日おじいちゃんのところに行ってたんだよね?」
考えてることを悟られない様にしていたのだが、顔に出てしまってた様だ。
ちなみにナディアのいうおじいちゃんとはアルシオーネ様のことだ。
さすがにやめさせようと思ったが、アルシオーネ様が『孫ができたみたいでいいのう』と喜んでいたのでそのまま呼ばせていた。
「なぁ、俺が王様になるなって言ったらどう思う?」
「ゼストが王様に……?」
ナディアは腕を組んでうーんと悩み出した。
いや、そこまで真剣に考える必要はないんだけどな……。
むしろそこで似合わないとか言ってもらえるぐらいでよかった。
「ゼストならいい王様になれると思うよ! ものすごく強いし!」
彼女から出てきたのは予想通りというか……ある意味彼女らしい答えだった。
「でも、ゼストが王様になったらこんな風に会えなくなっちゃう? それなら嫌かも!」
すぐにナディアが悲しそうな顔でそう話していた。
「どうだろうな、そこまで考えたことはなかったな」
「そうだ! ゼストが王様になったら守るために兵士になればいいんだ! ゼストを守るためなら頑張れるし! 頑張ったら頭撫でてもらえるよね!」
すぐに笑顔に戻ると、嬉しそうに尻尾が左右に揺れていた。
「そんなことしなくても、いつでも撫でてやるから」
俺はナディアの頭に手を乗せると、ゆっくりと撫でていった。
「もどったぞ、って……私のいない間に何をやっているんだ」
撫でている間にプリメーラが戻ってきた。
たしか、城の魔導士たちに呼ばれたとかでずっと研究室にこもっていた様だ。
「帰ってきたものを労うのも勇者の務めだろう? それじゃ私の頭を思う存分撫でるんだ、さあ今すぐ!」
家の中に入ってきたプリメーラはこちらにやってくると自身の頭を差し出してきた。
「幼いナディアはともかく、プリメーラが言うのはちょっと違う気がするんだけど?」
「い、いいではないか! 私だって頭を撫でられたら喜ぶお年頃だ!」
……俺の何十倍も生きているエルフがいうことかそれ?
そう思いながらも、俺は2人の頭を撫でていくのだった。
夜、食事を済ませると俺は家をプリメーラとナディアに任せて外へと出た。
家にいても考えがまとまらなかったので、外の空気でも吸えばもしかしたらと思っていた。
夜も遅いこともあってか、人の姿は少なかった。
静かな方が考えもまとまりやすいかと思って歩いていた。
「ゼスト様……?」
声をかけられて振り向くと、セリカの姿があった。
いつもの銀の鎧ではなく茶色のブラウスに黒いロングスカート姿。
「どうしたんだ、こんな夜に?」
「治療終えたばかりで激しい運動ができないので、散歩をしていました……体を動かさないと夜寝付けなくて」
いつもは寝る前に鍛錬をしてから湯に浸かるとよく眠れるらしい。
「それよりもゼスト様はどうしてこんな夜に……?」
「まあ……ちょっと考え事をな」
「そうですか……」
セリカは静かに答える。
会話が終わり、静寂が訪れてしまっていた。
「なあ、セリカ、冗談半分で聞いてもらいたいんだが………」
「な、なんでしょう?」
「……仮に、そんなこと絶対にあるわけないと思うが! 俺がこの国の王様になるなって聞いたらどう思う?」
俺の質問にセリカは時が止まったかの様に微動だにしなかった。
「す、すまん、変なこと聞いちまった! 忘れてくれ!」
彼女に声をかけてからその場を去ろうとする。
「ゼスト様が王様ってとてもあり得ない気がしますね……」
左手を顎のしたに置きながらセリカはそう答えていた。
「そ、そっか……」
「えぇ、何者かがブラバスを襲撃された時、ゼスト様は真っ先に撃退しにいくと思いますので、城の兵や騎士団の方々が悲鳴を上げるかと」
的を得た意見だった。
言われた通り、何かあれば俺は真っ先に敵を倒そうとするだろう。
「そうだよな……ありがとな、変なこと聞いちまって」
「いえ……ゼスト様のお役に立てたかは微妙なところではありますが……」
いや充分すぎる意見だった。
俺はセリカに礼を言ってから家へと戻っていった。
「おや、随分早いじゃないか」
家の中に入るとプリメーラが声をかけると同時に読んでいた分厚い本を閉じていた。
「ただいま、本読んでたところ悪いな」
「いや、別に構わん。ちょうど区切りもよかったしな」
「ナディアは?」
「さっき寝たぞ、大好きなお肉を食べて腹一杯になったからだろう」
ナディアが寝ている寝室に目を向けると、心地良さそうな顔で眠っていた。
「さっきから何か落ち着かない様子だったが、どうかしたのか?」
プリメーラは2つのグラスを手にすると、俺と自分の前に置いた。
「久々に飲もうじゃないか、それに悩み事があるなら酒を飲むのが一番効果的だぞ」
「どういう理屈だよ」
「酒が入れば舌が回ってしゃべりたくなるからだ」
そう言ってプリメーラはグラスにワインをついでいく。
「……まあいいや付き合うとするか」
俺はグラスの中のワインに口をつけていった。
彼女のいう通り、酒で舌が回るようになったか定かではないが、アルシオーネ様に言われたことを話した。
それに付随して、ナディアやセリカの言っていた内容も。
「なるほど、ナディアは彼女らしい意見だな。そしてセリカ殿は……なるほどな」
「……どうしたんだよ?」
「いや、私も彼女の意見と同じだなと思っただけだ。たしかにゼストは守られる側ではなく守る方が性に合ってるのかもしれんな」
「……おまえまでそう言うか」
「そこまで落ち込むな、別にやらないほうがいいとは言ってないだろう?」
プリメーラは俺の顔を見ながら嬉々とした表情をしていた。
「人の上に立つのはそんな簡単にできるものではないぞ、強さや以外にも知識や人望も必要だ。特に一番必要と言われているのはこれまで生きてきたで培ってきた経験だ。 成功や失敗全てをひっくるめてその経験が多ければ多いほど良いと言われているな」
「経験ね……」
「ゼストはまだ、20を越えたばかりだろう。まだまだ経験することはたくさんある。たくさん経験を積んでも遅くはないと思う」
「そっか……」
「仮にゼストが王になったとしたら……私はできる限り尽力をしていくつもりだ。おまえが足りないところを補っていくのもいいと思っている」
たしかに長年生きてきた彼女がそばにいてくれたら頼もしい限りだ。
ここへ戻ってくるまでの旅でも彼女の知識にはたくさん助けられてきた。
「まあ、ゼストが望むなら夜伽の相手をしても構わないがな」
プリメーラの突然の一言に俺はむせかえる。
「おまえなあ……途中までいいこと言ってたのに」
「まったく、冗談が通じないやつだな……それとも私とそういた夜を過ごすことに期待でも——」
「——ねーよ……まったく」
俺はグラスに入っていたワインを一気に飲み干した。
「でもまあ、考えはまとまったよ」
「そっか……ゼストの役に立てたならよかった」
最後にプリメーラはふふっと得意げに微笑んでいた。
そして次の日の朝、俺は自分の考えを伝えるため、謁見の間を訪れた。
「その様子じゃと、考えはまとまった様じゃな」
「えぇ」
「では、この国をお願いしても——」
「——申し訳ございません」
俺は主君の前で膝を床につけて深く頭を下げた。
その様子を見て、アルシオーネ様は深くため息をついていた。
「やっぱり受けてくれんか……」
どうやらアルシオーネ様にはお見通しだったらしい。
「け、決してこの国が嫌とかそういうのではなく……俺には王の器として経験不足かと思いまして……その……」
「わかっておる」
アルシオーネ様の言葉に俺はゆっくりと顔を上げた。
「人の上に立つには色々な経験が必要になる、むしろそう言う気持ちを持っていたことにワシは安心したんじゃ」
「アルシオーネ様……」
「そろそろ王位を譲ってワシはのんびり気ままな隠居生活を送ろうと思ったが、まだまだ叶わんか」
アルシオーネ様はため息をついていたが、顔は笑っていた。
そして、それから数日して、俺とプリメーラとナディアは城下町の入り口に立っていた。
「ゼスト様、本当に旅立ってしまうんですか?」
銀の鎧を纏った姿でセリカは俺たちを見送りにきてくれていた。
だが、腰の鞘には聖剣ではなく、普通の剣が収められている。
「まだまだ行ったことがない大陸もあるしな、できる限り見てみたいからな」
「そうですか……」
セリカは寂しそうな顔で下を向いていた。
「……ブラバスのこと頼んだぜ、勇者様」
「はい……」
セリカはゆっくりと顔を上げて俺たちをみていた。
「皆様、どうかお気をつけて……!」
俺たちは勇者セリカに見送られながら外へと足を進めていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「行ってしまいましたね……」
3人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「ゼスト様……」
彼が旅に出ることは昨日聞かされた。
もちろん2人が同行することも。
その時私も行きたいと思っていた。
だけど、私は勇者として選ばれた以上……ここを離れるわけにはいかない。
気がつけば3人の姿は見えなくなっていた。
ここにいても仕方ない。寂しくなるだけだから家に戻るとしよう。
振り返り城下町へと戻ろうとすると……。
「素直に行きたいっていったらどうじゃ?」
「え……!?」
目の前には国王様。その隣にはもう1人男性が立っていた。
「こ、国王様……こんなところにいられては危険です!」
「これこれ、ゼストたちを見送るのにこっそり城を抜け出したのがバレるではないか」
国王様は口元に指を当てていた。
「それよりもゼストたちのところへ行きたいんじゃないのか?」
「いえ、そんなことは……!」
私の返答に国王様はため息をつく。
「なら、国王の命令じゃ、彼奴らに同行しここへ戻るまでお守りするんじゃ」
「お、お言葉ですが! 何かあった時この国を守れなく……」
「安心しろ、俺がいる」
国王様の隣に立つ男が口を挟んできた。
「あ、あなたは一体……?」
「この男はワシの信頼できる男じゃ」
「何が信用できる男じゃ……だ、まったく気ままに暮らしてるところに兵を使って脅かしかけてきやがって」
男の悪態に国王様は「ふぉふぉふぉ」と笑っていた。
「ほれ、早くいかないと追いつけなくなるぞ、早くいかんか!」
「……ありがとうございます、国王様」
私は国王様と隣にいた男に頭を下げると彼らを追いつくため全速力で駆けていった。
「全く若いねえ……」
「ワシらにもそう言う時期があったじゃろう? 順番じゃな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ゼスト様はそんな破廉恥な服は好みではありません!」
「何をいうか、ゼストだって男だぞ、こういう際どい服が好きに決まっているだろう」
次の大陸に向かう港町にて、船の出港まで時間があるため時間を潰していたのだが、女性向けの服を扱う店でプリメーラとセリカが言い争っていた。
「あ、ゼスト様……!」
「ゼスト、是非、お前にみてもらいたいものがあるんだが!」
俺の姿を見るなり、こちらへと近づいてくる2人。
「こんな服興味はないですよね!?」
「ゼスト、好きだと言え! それこそ今日の夜にこれを着てだな——」
どうやら今回の旅も騒がしく、そして楽しい旅になりそうだ。
1st STAGE END
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
少しでも「面白そう」と思っていただけましたら、
★ひとつでも、★★★みっつでも、
思った評価をいただけると嬉しいです!
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またすでにフォローや★を入れてくださった方、ありがとうございます。
引き続き面白い作品にしていきます!
また、こちらの作品も第9回カクヨムコンに参加していますので
お時間がございましたらこちらをお読み頂けますと幸いです。
▼タイトル
学校ナンバーワン清楚系美少女と呼ばれている俺の幼馴染。彼女のプライベートでの姿を俺だけが知っている
https://kakuyomu.jp/works/16817330669297782706
宜しくお願いいたします。
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