第52話 聖剣に選ばれし男

 「ソアラ……ブレイド……!」


 俺は腕を伸ばし、聖剣ソアラブレイドのグリップを握り、気合いを入れるために大声をあげる。

 それに反応して、アルシオーネ様を喰らおうとしていた魔物がこちらを向いていた。


 「何だ、まだ生きてたんだ……無駄に生きても苦しむだけなのにね」


 必死に立ち上がる俺を見たガヤルドは嘲笑うかのように口を曲げていた。


 「……最後までしぶとく生きろと教えられたんで、そう簡単には死ねないんだよ!」


 俺の言葉にアルシオーネ様がこちらを見ていた。


 「ふぅん、それじゃ死ぬたくなるぐらい痛めつけてあげるよ!!!」


 ガヤルドは俺に向けて黒い光を放つと、呼応するかのように魔物も俺めがけて飛びかかってきた。


 「……オーラ、フィールド……!」


 ソアラブレイドを掲げ、光の壁を発生させ、ガヤルドの黒い光と魔物を弾いていく。

 ラファーガではできなかったが、ソアラブレイドによる加護のおかげで壁の効果が倍増されている。


 「ちっ……忌々しい聖剣の力か!!」

 

 ガヤルドは俺の持つ聖剣に目を向けると、顔を歪めていた。


 「……ソアラブレイドよ、少しだけでいい……俺に力を貸してくれ!」


 俺は聖剣を両手で持ち、語りかけるように呟いていく。

 そして応えるかのように聖剣の剣身に光が纏い出した。


 「ぐおおおおおおお!!!!」


 聖剣の光に反応して魔物が再び飛びかり、ラファーガを破壊した時と同じように口を大きく開け、聖剣の剣身を牙を突き刺していく。

 

 「ぐぎゃあああああ!!!!」


 だが、光を纏った剣身にふれた牙はボロボロと崩れていった。

 自分の武器を失った魔物は怯むがすぐに大きな腕でこちらを殴りかかってきた。


 「はぁッ!!!!」


 魔物の動きに合わせ、聖剣を縦に振り落とし、大きな腕を切り落とすと、魔物は大声をあげていた。


 「なぜだ! あの女勇者とこいつでは聖剣の威力が違うぞ!!! 一体この男に何があるというんだ!」


 魔物がやられていく姿を見たガヤルドからはさきほどまでの余裕の表情は消え、明らかに狼狽えていた。


 「……これで終わりにさせてもらうぞ!!!」


 もう一度聖剣を両手で構え、今度は剣身だけではなく俺の全身を光で包む。

 そろそろ俺の体力も限界を迎えようとしている。やるなら今しかない……!


 俺の状態を見たガヤルドは危険を感じたのか、黒い光を無数に発生させて俺へと放つ。

 だが、その光は俺に触れることなく、消滅していった。


 「行くぞ!!! オーラファアアアアアアング!!!!!」


 俺は聖剣を前に突き出しながら魔物に向けて駆けていき、一直線に魔物の体を切り裂いていく。

 そして勢いを殺すことなくガヤルドへ。


 「ふ、ふざけるなああああああ!!! お前のような下等な人間にこの魔族である私が!!!!」


 ガヤルドは自身の前に黒い壁を発生させ、俺の攻撃を防いでいく。

 

 「下等で悪かったな、そんな下等に負けてるおまえは超下等ってことなんだよ!!!!」


 俺は持てる全ての力を振り絞って聖剣に力を込めていくとバリンと音を立てて黒い壁が消滅していく。

 そしてそのまま聖剣はガヤルドの肉体を貫いていった。


 「そ、そんなばかなぁああああああああ!!!!」

 

 ガヤルドの肉体は聖剣から放たれた光に包まれ消滅していった。


 「……やった……ぜ」


 自分の勝利を確認した俺はそのまま意識が遠のいていった。

 正直それからのことは何も覚えていない。



「……さすがは勇者の血を引いているだけのことはあるのう、レオーネよ」


 遠くでアルシオーネ様の声が聞こえた気がするが、何を話していたのかはわからなかった。



 数日して、アルシオーネ様は国民の前に姿を表した。

 ブラバスの国民はアルシオーネ様が生きていたことに喜び、歌い、笑い……国中がお祭りムードとなっていた。

 

 「ワシから国民に伝えたいことがある!」


 アルシオーネ様は子息のイソッタが魔族と共闘してこの国を支配しようとしていたことを告げる。

 そのために邪魔であった自分と俺を消し去ろうとしていたと話す。


 その話を聞いた国民たちは一斉に黙り出していた。

 疑いもせず、前勇者を追い出してしまったことを……。

 

 「じゃが、そんなことをされたにも関わらず、ゼストはこの国のために必死に戦ってくれた! ワシはこのことを一生忘れることはないだろう!」


 アルシオーネ様の言葉に国民の賛同する声が響き渡っていた。


 「さて、ワシから皆に伝えたいことは以上じゃ、これからは平和への祭りを行うとしよう!!」


 そうしてブラバス平和の祭りが開始された。


 ——ブラバスに平和が訪れた。


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【あとがき】

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