第51話 裏に潜むもの

 「バ、バカな! あの時たしかに……!」


 俺やセリカ、城の兵士たち、周りに合わせるようにプリメーラとナディアも跪くなか、唯一イソッタ王太子だけはその場に立ち尽くしていた。


 「これまで魔物や違う国の刺客に刺されそうになってことはあったが、まさか実の息子に刺されるとは思わなかったな」


 ボロボロのローブを投げ捨てた男は……ブラバスの国王アルシオーネ様は笑いながらイソッタ王太子の元へ駆け寄っていく。


 「少しぐらい甘やかしたと思っておったが……どうやら間違いじゃったようじゃな」


 イソッタ王太子の前で立ち止まったアルシオーネ様は彼の顔を殴った。

 殴られた王太子は殴られた箇所を押さえながら父親を睨みつける。


 「……そもそも育て方を間違えた。これはワシの責任でもある」


 アルシオーネ様は俺たちや兵士たちのいる方へ振り向く。


 「……アルシオーネの名において、この者イソッタの身分を剥奪する」

 「ふ、ふざけるなあああああ!!!!!」

 

 王太子はその場で叫び出していた。


 「……この者を牢屋へ連れて行け」


 アルシオーネ様の言葉を聞いた兵士たちはイソッタ王太子の身柄を拘束し、地下の牢屋へと連れていこうとする。


 「そうはさせませんよ……」


 突如、聞きなれない声が聞こえてきた直後。

 

 「ぐあああああ!」

 「な、なんだ……があああああ!!」


 王太子を拘束していた兵士たちが次々と黒い光に包まれ、消えていく。

 そして、その黒い光はアルシオーネ様を狙っていた。


 「アルシオーネ様!!!」


 咄嗟に俺が飛びつき、俺とアルシオーネ様は床へと転がっていく。

 黒い光はアルシオーネ様が立っていた場所を包み込もうとしていた。


 「すまんの、ゼスト」

 「いえ、このぐらい……!」


 俺とアルシオーネ様が立ち上がると、イソッタ王太子の真横に見慣れない姿があった。


 「おぉ! ガヤルド助けに来てくれたのか!」


 王太子がガヤルドと呼んだのは小柄な体躯をした少年と思える見た目をしていた。だが、俺たちと違うのは頭には禍々しい形をした大きなツノが左右に生えている。


 「魔族……!」


 一番最初に反応したのはプリメーラだった。


 「えぇ、遅くなりまして申し訳ございません」


 ガヤルドは王太子の前で跪く。


 「そ、それよりもこいつらを始末してくれ!!」

 「かしこまりました……」


 立ち上がったガヤルドは王太子の前に手を広げ伸ばすと、赤い魔法陣が描かれていく。


 「ぬ、ぶぐぉおおおおおおお!!!」


 突如、王太子が苦しみの声をあげ出した。


 「な、なにをするガヤルド!!!!!」

 「あなたの役目はもう終わりですよ、イソッタ王……いや単なる痴れ者の王様」

 「ぬぐああああああああ!!!! は、はかったなあああああああ!!!!」

 「……謀ってなんていませんよ、我々は元よりあなたを利用してきただけですから」


 ガヤルドは王太子に差し出していた手を握りしめると、黒い光がイソッタ王太子を包み込んでいく。


 「ぐぎゃああああああああ!!!!!」


 悶絶の声をあげながら黒い光に飲み込まれる王太子。


 「まあ、このまま殺すのはもったいないですから、十分に使ってあげますよ……私の忠実な部下としとね!」


 黒い光が消えていくと、先ほどまで王太子がいた場所には……黒い魔物の姿があった。

 全身を毛で覆われたその魔物はこちらに向けて大きな口を開けていくと、鋭利な牙が何本も生えていた。


 そして、ギョロッとした目で俺とアルシオーネ様をみると……


 「しぎゃああああああ!!!!」


 大きく口を開けて体をバネのようにしながらこちらへと飛びかかってきた。


 「させるかああああ!!」


 俺はラファーガで魔物の牙を受け止めようとするが、牙の鋭さに耐えきれず剣身が噛み砕かれていく。

 そのまま俺は大きな腕による攻撃を防御できず受けてしまい、吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。


 「ゼスト!」


 俺を見たナディアが素早い動きで魔物に飛び掛かるが……


 「ぐっ……は、はなせ!!!!」


 魔物はナディアの体を掴み、握りつぶそうとしていた。

 

 「ナディア!」


 プリメーラはデュアリスから矢を放ち、ナディアを掴んでいた腕を狙っていく。

 魔物は矢が目障りに感じたのか、掴んでいたナディアをプリメーラに向けて投げ飛ばした。

 

 「ナディア!!!」


 プリメーラはナディアの体を掴もうとするが、勢いが強すぎて彼女の体に打ち付けられてしまい、そのまま倒れていく。


 「プリメーラ…………ナディア……!」


 2人の名前を呼ぶが反応がなかった。

 

 「ぐるあああああああ!!!!」

 

 魔物は雄叫びをあげると、アルシオーネ様を掴もうと腕を伸ばしていた。

 

 「……させませんッ!」


 アルシオーネ様の前に立ったのは聖剣を構えたセリカだった。

 だが、正気を戻すために俺の攻撃を受けた彼女は立っているのが充分なほど瀕死の状態だった。


 「お、お嬢ちゃん……そ、そんな体では無理じゃ! ワシなどどうでもいい今すぐ——」

 「……私は勇者です。勇者の使命は……」


 ——どんな人でも助けること!


 そう叫びながらセリカは聖剣に稲妻を纏らせると、先ほどのように大きく跳躍し、勢いのままに斬り落とそうとする。

 だが、魔物に掴まれ、床へと叩きつけられてしまう。


 「が……は……っ」


 セリカの体と聖剣は叩きつけられたはずみで転がっていった。


 「ふははっ!!! いいぞ!あの痴れ者王を媒体にした割にはすごいじゃないか! さあそのままその老いぼれを喰らいつくせ!!!!」


 次々と倒れていく者たちを見ていたガヤルドは嬉しそうな声をあげていた。

 彼の声に応じるように魔物はアルシオーネ様に近づいていく。


 「……アルシオーネ様を……守らないと!」


 俺は主人を守ろうと必死に手を伸ばしていくと指が何かにあたる


 「……ソアラブレイド!」


 そこには剣身が神々しく輝く聖剣が落ちていた。


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【あとがき】

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