第50話 ボロの中に身を隠した男
「どうした!どうした!!!いつもの威勢はどこへいったんだ!!!」
謁見の間にて倒れる俺をイソッタ王太子は蹴り続けていた。
セリカの放った稲妻による痛みがまだなくならず、動けずにいる。
「まったくつまらん……もういい、セリカよこいつにトドメを刺せ」
イソッタ王太子はつまらなそうな顔で玉座に座り、足を組んでこちらをみる。
その直後、カツ、カツという足音を立てながらセリカが俺の元へ来ると。
聖剣のグリップを両手で持ち、真下にいる俺を突き刺そうとしていた。
「セリ……カ……!!」
声をかけるが、彼女は動きを止める様子はなかった。
勢いよく聖剣を真下へと落としていった。
だが、彼女の剣は俺に突き刺さることはなかった。
聖剣の剣先が俺の腹の直前で止まっている。
「何をやっている! 早くそいつを殺せ!!」
イソッタ王太子はセリカに向けて怒号を飛ばすが、それでもセリカは動こうとはしなかった
「ええい!!! もういい、私がやる!!!」
玉座から立ち上がったイソッタ王太子はセリカの体を突き飛ばすと、セリカは無抵抗のままその場に倒れ込んでしまう。
「ふはははははっ!!!! しねええええええ!!!」
持っていた細身の剣で俺を突き刺そうとするが、俺の目の前を光の矢が通り過ぎていき、王太子の肩に突き刺さる。
「うぎゃあああああ!!!」
細身の剣を落とし、その場にのたうち回る。
「ゼスト……!」
声のした方へゆっくりと顔を向けると、プリメーラやナディア、ローブの男がこちらに向かって走っていった。
「大丈夫か!?」
倒れている俺を見て真っ先にプリメーラが駆け寄ると、俺の額に手を当てて何かを呟くと彼女の手が光出していた。
すると、先ほどまであった体の痛みが和らいで言った。
「……なんとかな」
さっきの痛みさえなければ体は動かすことはできる。
俺は体を起こし、もう一度ラファーガを構える。
「元勇者とあろうものが酷くやられたもんじゃな」
「……相手がセリカじゃなければここまでやられはしなかったよ」
俺はセリカの方を見る、イソッタ王に突き飛ばされて倒れていたが、ゆっくりと立ち上がり、聖剣を手にしていた。
「……どうやらあのお嬢ちゃんは誰かに操られておるようじゃな」
「どうすれば元に戻るんだ?」
「うーむ、相手がわかれば対処法がわかるのじゃが……こうなったら一番簡単な方法でいくとするかの」
「……一番簡単な方法って?」
「相手を気絶させるんじゃ」
たしかに簡単な方法だ……
下手すれば失敗する可能性もあるわけだが……。
「プリメーラ、さっき俺に使った回復の魔法……いつでもできるようにしといてくれ」
それだけ伝えると、俺はセリカに向かって駆け出していく。
セリカもそれに応じるように身構えていく。
「はぁあああああ!!!!」
俺は勢いに乗せてラファーガを彼女に向けて振り落としていくと剣先で受け止めていった。
「……女性にこう言うことするのは好きじゃ無いが、今は許してくれ!」
聞こえるか定かではないが、彼女にそう伝えると腹を目掛けて蹴り飛ばす。
全身を鎧で覆っているため傷をつくことはないが……振動が彼女の体に衝撃を与えていく。
「が……ッ!!」
衝撃による痛みによってセリカは悶え、苦しみのあまり膝が地についていた。
見ているこっちも苦しくなるが、今は……!
「ライオネスチャァァァァァジッ!!!!」
ラファーガの剣身に光を集め、そのままセリカに向けて駆け出していき、彼女の体を壁に突きつけていく。
謁見の間にはドォォォォンという大きな音が響き、あたりは壁がくずれたことで発生した砂や埃で視界が悪くなっていった。
「ふはははは……バカめ!!! 勇者が勇者を殺したぞ!!!!!」
先ほどまで矢による痛みで床をのたうち回っていたイソッタ王太子が大声を上げていた。
「……いや、どうやらそれはなさそうじゃな」
イソッタ王太子に言葉を返したのは、ローブの男だった。
「……立てるか?」
「…………えぇ」
セリカは俺の肩を借りて、ゆっくりと歩き出していった。
その姿を見たイソッタ王は目を見開いていた。
「ば、バカな……!」
その場に崩れ落ちていくイソッタ王太子。
俺はプリメーラにセリカを預けると、項垂れる王太子に向けて剣を向けた。
「……イソッタ王太子、話を聞かせてもらおうか!」
だが、王太子は「クックック」と低い声で笑い出す。
「侵入者だ!!!! イソッタ王をお守りするんだ!!!!」
謁見の間に城の兵士たちが一斉にやってきていた。
どうやらセリカを壁に突きつけた時の音で駆けつけてきたようだ。
「王の命令だ! こやつらをさっさと牢へブチこむのだ! 明日の朝にでも国民の前で公開処刑——」
「いい加減にせんか、このバカ者が!!!!」
王太子の声をかき消すかのように大声を上げたのは……
「ご、ご老人!?」
ボロボロのローブの男だった。
「き、貴様……! 王である私に向かってバカだと……!!」
王太子の言葉に男は呆れたと言わんばかりに大きなため息をつくと、全身を覆っていたボロボロのローブを後ろへ投げ飛ばした。
「なっ……!?」
そこに見えたのは小柄の老人だが……。
「あ、アルシオーネ様!?」
その姿を見て、俺は驚きの声で名前を呼んだ。
「にしても、ずっとローブを纏ってるのは熱いのう……」
呑気に手で自身の顔を仰ぐその姿を見て、一部の者を除き一斉に跪いていた。
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