第47話 潜入、ブラバス城
「ここじゃよ」
ローブの男に案内されたのは森の中でも更に奥へ行った場所だった。
あまりにも奥に行きすぎて、自分たちがどこら辺にいるのか、わからなくなっている。
「これって井戸だよね?」
男が指を差しているものを見てナディアが真っ先に声を上げると、男は「そうじゃ」と答える。
俺たちの目の前にはいくつもの石を重ねて作ったであろう、井戸があった。
「何でこんなところに井戸だけが……?」
「もしかしたら、この付近に集落があったのかもしれんな、あくまでワシの想像じゃがな」
男は井戸の上に置かれていた板を持ち上げると、すぐ横においた。
「ここから城下町に行くことができるんじゃよ」
そう言って男は井戸の中へと入っていった。
「ご老人!?」
驚いたプリメーラが井戸の穴に向けて叫ぶ。
「大丈夫じゃよ、そこまで深くはないから安心せい」
男の声を聞いてプリメーラはホッと一息ついていた。
「……俺たちも行くか?」
「そうだな……」
ナディア、プリメーラの順番に行き、最後に俺が穴の中に入っていった。
深くないと言われていてもすぐに安心できなかったが、すぐに着地したことに気づくとホッとしていた。
「こっちじゃよ」
俺たちが来たことを確認すると男は目の前にあったドアを開け、中へと入っていったので俺たちも着いていく。
「真っ暗だね」
「プリメーラ、あかりを出せるか?」
「あぁ、少し待っててくれ」
プリメーラの指を鳴らすパチンと言う音が響いていく。
「最近使ってなかったが、たしかここに……お、あったぞ」
プリメーラがそう告げると同時に辺りが明るくなっていった。
「ほう、魔道具か……」
プリメーラの持っている魔道具を目にした男は呟いていた。
扉の先は細い道が延々と続いていた。
高さがあるので、そこまで窮屈な感じはしないが、小さな魔物が現れた時は苦戦を強いられるかもしれない。
できることなら遭遇せずにいたいものだ。
俺の願いが通じたのかわからないが、魔物と遭遇することなく一番奥へと辿り着くことができた。
行き止まりかと思ったが、壁には梯子がかけられておりずっと上まで続いていった。
うっすらとだが、上から人の声が聞こえる。
「ここを上がれば城下町に行くことができるんじゃよ」
「大丈夫なのか……? 出た途端兵士に囲まれるとか勘弁してほしいけど」
「安心せい、城下町といっても中心部とは程遠い場所じゃよ」
「……だといいけどな」
「まったく疑り深いのぅ……そうでなければ勇者として務まらなかったか」
男はブツブツと小声で呟きながら梯子を登っていった。
次は誰が行こうかと考えていたところ、プリメーラが声をかけてきた。
「ゼスト、先に行ってくれないか?」
「別にいいけど、どうかしたのか?」
俺が返すと、プリメーラは目を細めながら俺を見る。
「……ゼストのことだから気づいていないか、どうしてもというなら落ち着いた時にじっくりと見せてやるから今は先に言ってくれ」
そう言ってプリメーラは俺の体を押していく。
「よくわからないけど、先に行けばいいんだろ……だから押すな!」
腑に落ちないが、先に梯子を登っていく。
「ほれほれ、こっちじゃ」
出口だと思える場所で男はこちらに向けて手を伸ばしていた。
俺はその手を掴み、外へと出ると城壁が目の前にあった。
男の言う通り、城下町の様だ。
少し立ってプリメーラとナディアがやってきた。
「ずっと狭いところにいたから疲れたぁ!!」
外にでるとナディアがグッと大きく腕を伸ばしていた。
「おーい、こっちじゃ」
男は自分が行こうとしている場所へと指さす。
その先には小さな小屋がポツンと建っていた。
「ここでしばらく休憩じゃな」
男はそう言って扉のドアを開けて中に入っていった。
俺たちは不安を覚えながらも中に入っていく。
外の見た目とは裏腹に中は思っていた以上に綺麗だった。
小さいながらもテーブルや椅子など置かれ、一応くつろげるようにはなっているようだ。
「慣れない場所を歩いて少しは疲れたじゃろ? 椅子にでも座って休もうじゃないか」
男は近くの椅子に腰掛けていた。
「ゼスト座らないのか?」
「俺は平気だから、2人は座っててくれ」
気が昂ってるのかわからないが、落ち着ける気分ではなかった。
プリメーラとナディアの顔を見ると、若干だけど疲れが見えていたので休ませることにした。
「相変わらずの真面目じゃの」
立ったままの俺を見て男が何か呟いていた。
小屋の中に入ってしばらく休んでいると、どこからかガタガタと音が鳴っていた。
俺はラファーガを構えようとするが、男が「平気じゃよ」と告げる。
音を鳴らしていたのは小屋の隅にある小さな本棚だった。
小さく小刻みに揺れたと思ったら、横にスライドしていった。
「隠し部屋……?」
プリメーラは気になったのだろうか、隠し部屋に向かおうとするが、部屋の奥から人影が見え、足を止めていた。
「ようやく帰ってきたようじゃな」
男はそう告げると部屋の奥から黒いローブを被っている人の姿があった。
あれ……この人は?
「マズイことになったぞ……」
黒いローブから低い声が聞こえてきた。
俺たちを連れてきた男とは声質は違うが、だいぶ年配だと思える。
「どうしたんじゃ?」
「……勇者の嬢ちゃんが奴らに連れて行かれた」
「な、なんじゃと……!?」
黒いローブの男の言葉にボロボロのローブを纏った男が大声を上げていた。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
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