第46話 ブラバスの勇者として……

 「……安心せい、わしゃあんたらの味方じゃよ」


 そう言ってボロボロのローブ姿の男がこちらへと近づいてきた。

 背は小柄で声からして年配のようだが、夜であることと、全身がローブに包まれているため顔まではっきりと見ることができなかった。


 「……だからと言ってそう簡単に警戒を解くことはできないぞ、ましてやこの場所においては」


 俺はローブの男に向けて、剣を突きつける。

 こんなことをされれば怯えるものだが、この男は一切動じなかった。


 「大丈夫だよゼスト、この人から敵意は感じられないよ」


 俺の後ろにいるナディアが男の顔を見ながら話していた。


 「……そうなのか?」

 「うん、それに敵意剥き出しだったら私が真っ先に斬りかかってるよ」


 ナディアの話を聞いたローブの男は「ふぉふぉふぉ」と笑っていた。


 「流石は敵の感情を読み取ることができるライカンスロープといったところじゃな」

 

 男は水晶の前にある大きな石に腰掛けた。


 「ほれ、いつまでもそんな物騒なものを構えてないで、お主らも座ったらどうじゃ?」


 いつの間にか主導権を握られてしまっていた。

 俺はため息をつきながら、言われた通り座った。


 

 「それで、俺たちに一体何の用だ?」

 「そんなに慌てるでない、まずは暖をとってからじゃ」


 そう言って男は俺が用意した薪を組み立てると呟き出した。

 すると薪がボッと音を立てて燃え出していった。


 「……魔法を使えるのか?」

 

 俺が聞くと男はふぉふぉふぉと笑うだけだった。


 「さてと、暖かくなってきたことじゃし、そろそろそろ話をしようかの」


 ようやくかと思いながら、俺は男の方へ目を向ける。


 「お主らは勇者セリカを助けにきたのじゃろ?」

 

 男の言葉に俺はラファーガを構えようとするが、プリメーラが俺の手を掴んで止める。


 「彼女は今、城の地下牢に幽閉されておる」

 「……それを伝えるために来たのか?」

 「それだけならわざわざ危険を犯して来る必要はないじゃろ?」


 それを伝えるなら矢文とか鳥を使うなど色々と方法はある。

 だとしたら、この男は何のために……。


 「代わりには到底ならないが、この国を救って欲しいのじゃ」

 「救う……?」


 俺が返すと男はゆっくりと首を縦に下ろす。


 「現状、ブラバスは魔族の手によって蹂躙されようとしておる。 現国王のイソッタは奴らの傀儡となってしまわれた」

 「魔族……!?」


 最初に声を上げたのはプリメーラだった。


 「ご老人、ブラバスに魔族がいると言うのか!?」

 「あぁ、そうじゃ……イソッタ王はこの国を我が物にしたがいため、魔族の誘惑を受け入れてしまったのじゃ……そしてアルシオーネ王をその手で殺害した」

 

 男の話に俺は驚きの声を上げる。


 「……あとはわかっておるじゃろ? 勇者ゼストよ」

 「……その罪を俺に着せたわけか」


 思い出してみれば、あの時のイソッタ王太子に違和感を感じていたが、まさか魔族と手を組んでいたとは……。

 魔族と戦っていたアルシオーネ様が聞いたら、ひどく嘆くに違いない。


 「……プリメーラ、ナディア」


 俺が呼ぶと2人は一斉に俺の顔を見る。


 「2人はセリカの救出を頼みたい」

 「ゼストはどうするの?」

 「……悪い、やることができたからそっちを優先する」

 「行くのか? 罪をきせた王の元へ」


 プリメーラの言葉に俺は「そうだ」と告げた。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 ——ここは?

 

 目を開けると、石で覆われた薄暗い場所にいた。

 そうだ、私は地下牢に入れられたんだ。


 「イソッタ王はなぜ、ゼスト様を……」


 立ちあがろうとすると、ズキンと全身が痛み出した。

 逆上したイソッタ王に暴行を受けたことを思い出してしまう。


 「これから私はどうすれば……」


 そんなことを考えているうちに、遠くから声が聞こえてきた。


 「だ、誰だきさ——ぐはっ!?」

 「ど、どうした! がはっ……!」


 誰かにやられたのか、苦悶の声が聞こえていた。

 一体何が……。


 「たしか、この辺りだったな……まったくもう少しわかりやすく造れなかったのか」


 しばらくして、文句を口にしている男の声が聞こえてきた。

 声の特徴からして年配の方だろうか。


 「……おっと、ここのようだな」


 鉄格子の前にボロボロのローブを着た人物が立っていた。


 「誰ですか……あなたは?」

 「安心しろ、俺はアンタの味方だよ、勇者セリカ」


 名前を呼ばれ、とっさに腰にある聖剣の柄を握る。

 何故私の名前を……。


 「ちょっと待ってろ……」


 そう言うと、男は持っていた剣で鉄格子の一部を寸断した。

 なんて力だ……。

 

 「それじゃこんな薄暗いところからさっさと脱出するぞ」


 そう男が告げた時、辺りが再び騒がしくなっていった。


 「こっちだ! 気をつけろ手強いぞ!!」


 兵士の大声が響き渡っていた。

 どうやら、兵士たちが一斉にこちらに向かっているようだ。


 「しょうがない、お嬢ちゃんはあっちから外にでな、ここは俺が何とかしてやる」


 黒いローブの男は鞘から剣を引き抜くと、兵士たちの方へと向かっていった。

 私は男が開けた箇所から抜けて、出口へと向かっていった。


 

 「いくぞ!!! がはっ!?」

 「大丈夫か!! ぐほっ……!?」


 兵士たちが男にやられていく声が聞こえていた。

 本来なら助けなければいけないのだが……

 今はここを抜け出さなければ……


 目の前にはこの地下牢唯一のドアが見えた。

 ここを抜ければ……!


 「させませんよ……」


 後ろから声がして、振り向くと……


 「ぐっ……!?」


 お腹の辺りに何かがぶつかり、私は吹き飛ばされドアへと叩きつけられてしまう。


 「まったく、あの王はホントに愚かですね、くだらない感情で勇者を幽閉するなど」


 痛みで意識が朦朧としているため、誰が話しているのかわからなかった。


 「まあいい、勇者の力利用させてもらいますよ……!」


 その声を最後に私の意識が遠のいていき、目の前が真っ暗になっていった。

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