第45話 ブラバスへ

 「風が気持ちいい〜!! あ、おさかなだー!」


 ザッツ港からロナート行きの船に乗った俺たち。

 プリメーラは「船旅にはお酒が似合う」言って客室で1人で飲んでいた。

 ……二日酔いがようやく治ったというのに、懲りないと思ってしまう。


 俺は部屋にいる気分になれなかったので、甲板に出てボーッと外を眺めていた。

 その隣でナディアは柵から身を乗り出しそうな勢いで海の中を泳いでいる魚を指さしてはしゃいでいた。


 「ブラバスか……」


 吹きつけてくる風を受けながら、これまでのことを思い出していた。

 王殺しの罪を着せられ、牢に現れた男に助けられ、ブラバスを抜け出した森でプリメーラと出会って、いろんな大陸を旅して……


 チェイサーとの再会、そしてそこで出会ったナディア。

 そして、次期勇者であるセリカ。


 この度で、いろんな人たちとの再会や出会いがあった。

 そんなに日にちが経っていないのだが、年単位で旅をしていたような感覚になっていた。


 旅には始まりも終わりもある。

 もしかしたらこれが終わりなのかもしれない。


 ……俺に戻るところがあればの話だが。


 「ねぇねぇ、ゼスト!」


 物思いに耽けていると、ナディアが俺の服を引っ張っていた。


 「うん……? どうした?」

 「今向かってるのってゼストの故郷なんだよね?」

 「まあ、そうだな……」


 あんなことが起きてしまっている以上、故郷と呼んでいいのかわからないところだが。


 「どんなところなの? 美味しいお肉とかあったりする?」


 ナディアは興味津々といった顔で話しかけてきた。

 この子の純真無垢な顔はどんなときでも癒されるし、荒れていた心が穏やかにさせてくれるな。


 「そうだな……」


 俺はブラバスのことをナディアに聞かせていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「またもや勇者が牢獄にいれたれたみたいだな……」

 「……そのようじゃな」

 

 ブラバスの地下にある牢獄にて2人の声が響き渡っていた。

 2人は年老いているのか、どちらの声もしわがれている。

 

 「短い期間で2人の勇者が牢に入れられるなんて、よほど今の王は愚鈍のようだ」

 

 1人は嬉々としてブラバスの王を罵っていたが、もう一人はうねり声をあげる。


 「あぁ、すまんすまん、あんな愚鈍な王でもアレは——」

 「——余計な心配は無用じゃ、アレはもう手遅れじゃよ」


 言葉とは裏腹にもう一人の声は寂しそうに聞こえていた。


 「それで、この勇者はどうする? 前の勇者のようにここから逃すか?」

 「いや……このままのほうが良いじゃろう?それに……」

 「それに?」

 「どうやら前の勇者がこちらに戻ってきてるという情報もあるんじゃ……」

 「ほう……?」

 「行動を起こすならその時になるかもしれん、その時は頼むぞ」

 「もちろんそのつもりだ。だが、お前も無理はするなよ、アル」


 話が終わったのか、それ以降男たちの声は聞こえなくなっていった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「知ってるか? 最近になった勇者が幽閉されたってよ」

 「みたいだな、前の勇者も国王様を殺害して、今も逃走中みたいだしな……いったいブラバスはどーなんてんだろうな?」

 「一説では悪魔が取り憑いたとかいわれるみたいだな」

 「そんなこと大きな声で言うなよ」


 船に揺られること3日目の朝、俺たちはブラバスに近い港であるロナートに到着した。

 ここから出発したのを思い出し、感慨深くなってくるが、周りの会話を聞いているとそんな気分が吹っ飛んでしまう。


 「……勇者ということはセリカ殿か?」

 「そうだろうな……」


 やはり俺の嫌な予感は的中してしまったようだ。


 「どうする? このままブラバスに向かうか?」

 「いや、ブラバスでは俺の顔は知られているから、下手したらすぐに捕まってしまう」

 「……たしかに」


 俺1人だけなら強行突破という形も取れるし、いざ捕まったとしてもどうにでもなるが、プリメーラとナディアも一緒となると身動きが取りづらくなってしまう。


 「今日はブラバスの近くまで行って様子を見ようと思っているが」

 「もしかして私とゼストが出会ったあの森か?」

 「ブラバスの近くで身を隠せるのはそこしかないな……長い船旅の後でゆっくりさせられないのは申し訳ないが」

 「私は大丈夫! ぐっすり眠ったし!」


 いつもの元気な姿を見せるナディア。


 「久々に野宿もいいかもしれないな、それなら少しここで買い物をしておきたいが」

 

 プリメーラも嫌な顔せずに了承してくれた。


 「ホント悪いな……」


 そんな2人に対して、俺は頭を下げた。



 「そういえば、ゼストの出会いはこの薄暗い森のなかだったな」


 ロナートで買い物を済ませてから街道沿いを歩いていき、ブラバスの手前にある深々と茂っている森の中へと入っていった。ロナートをでる時は少し明るかったが、ここに着く頃には日が沈んでいた。

 

 休む場所を決めると、プリメーラはストレージボックスから以前も使用したゴツゴツとした水晶玉を取り出し目の前に置いていった。


 「プリメーラ、何これ?」


 水晶玉を見たナディアが興味津々な顔をしていた。

 

 「これは魔物が嫌がるオーラを放つ魔道具だ」

 「じゃあ、魔物がこなくなるの?」

 「そうだな、難点なのが、この水晶玉があまりにも重いため、常に持って歩くのが困難なことか……どうにかして軽量化できないか模索しているところだが……」


 久々にプリメーラの長い解説が始まった、ナディアも最初のうちはうんうんと頷いていたが、次第にその動きがは止まり顔も困惑へと変わっていった。


 「プリメーラ、そこまでにしておけ……ナディアが今にもなきそうな——」


 話の途中で俺はラファーガを手にする。


 「どうしたゼスト?」

 「……足音が聞こえる」


 俺は小声で2人に伝えた。

 プリメーラもデュアリスを手に取りいつでも矢を放つ準備をしていた。


 「……安心せい、わしゃあんたらの味方じゃよ」


 暗闇の中から、しわがれた男の声が聞こえていた。

 それでも俺はラファーガを話すことはなかった。


 そして暗闇から姿を現したのはボロボロのローブ姿だった。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


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