第44話 元勇者の胸騒ぎ
「うーむ……」
セリカを見送ってから3日ほどが経ったが、俺たちはまだオーガ族の集落にいた。
俺たちもすぐに出発を考えたが、プリメーラの二日酔いが思ってた以上に長引いたのが原因だ。
前までは半日もあれば元気だったのに、今回は2日以上かかっていた。
「同じ酒を飲んでいたにもかかわらず、セリカ殿は二日酔いにならなかったのか……ふふっ、これが若さというやつか」
ベッドにて若干青ざめた顔で呟くプリメーラ。
長寿であるエルフが言うと言葉に重みが増してくるような気がする。
「いやもしかしたら、聖剣の加護のおかげかもしれない、勇者とは酒の魔力にも惑わされないということか!」
「そんなどうしようもない加護があるわけないだろ、単純にプリメーラが酒に弱いだけだ」
「……最近のゼストは私にだけ冷たい気がする、ナディアの頭を撫でるのに私にはしてくれないじゃないか」
プリメーラは拗ねたような顔で俺の顔を見ていた。
「そもそもしたことないだろ……ってかその歳でされたいのか?」
「こう見えても私の心は少女だ! 年齢は関係ないぞ! 頭を撫でられて喜ばないはずがないだろう!」
自信たっぷりに答えていた。
「それに今、ナディアはぐっすりと眠っているからなやるなら今しかないぞ」
先ほど昼食を終えたばかりで部屋のソファではナディアが気持ちよさそうに体を丸くして眠っていた。
「……わかったよ、世話のかかるエルフだ」
俺はやれやれと思いながらプリメーラのベッドに腰掛けると彼女の銀色の髪の毛を撫でていく。
「若干心がこもっていないが、まあいいだろう」
「……何でそんなに偉そうなんだ」
俺の呟きにプリメーラはふふっと笑っていた。
「それにしてもこの3日間、ため息が多いが何か悩み事か? よかったらお姉さんが話を聞こうじゃないか」
「……お姉さんは百歩譲ってそうだとしても、そんな顔色のやつに相談持ちかける気はしないんだけどな」
「そんなこと言わずに、話してみてくれないか? 寝てるだけって言うのも暇なんでな」
さらっと本音がでたぞこのエルフ……。
たしかに1人で溜め込むのも精神的によろしくはないので、仕方なく話すことにした。
「セリカのことをちょっと考えてたんだよ」
彼女の名前を出すとプリメーラは目を大きく開けていた。
「な、何だ……? もしかしてセリカ殿のことが……!」
「……気になってる」
「そ、そっか……まあ、勇者同士なにか惹かれるものがあるのかもしれないしな……それに若いし」
「若いからこそ、不安になっているんだ……」
「いや、若いからこそ時には勢いに任せていくのも大事なことで……」
「たしかにそうだけど、勢いに任せてイソッタ王太子……じゃなくてイソッタ王に俺の名前を出したりしないだろうか」
俺の言葉にプリメーラは口を閉ざしていた。
顔が少し赤くなっているが、まだ容体は良くならないのだろうか。
「どうかしたのか?」
「……いや、なんでもない気にしないでくれ」
「そっか……」
咳払いをしたプリメーラは真剣な表情で俺を見る。
「なるほど、言いたいことはわかった……それでゼストはどうしたいんだ?」
「どうしたいって……」
「悩むってことは何かをしたいから悩むのだろう、そうでなければすぐに忘れている……違うか?」
プリメーラの問いに俺は黙ったまま頭を縦に下ろした。
「それで、どうするつもりだ?」
「ブラバスへ戻ろうと思っている……」
「そうだろうな、だがいいのか……あそこに行けば——」
「——下手したらまた地下牢行きかもしれないな、けど……」
俺は一呼吸おいて自分の思いをプリメーラに告げた。
「あの子は俺のために動いてくれてるのに、その俺が逃げるわけにはいかないからな——」
そう告げるとプリメーラはふふっと笑みを浮かべていた。
「……全く、そんなこと言われたらダメだなんて言えなくなるじゃないか」
「言うつもりだったのか?」
「事と次第によってだったがな……」
そう言ってプリメーラは体を起こし、ベッドから降りていく。
本調子ではないのか、体はふらついていた。
「だけど、ゼスト1人ではいかせない、いくなら私も行くぞ」
「その前に、体調をどうにかしないとな……」
ため息混じりに答えていると、ソファから「うぅーん」と声が聞こえてきた。
ナディアが目を覚ましたようで大きく腕を伸ばしていた。
「よくねたぁ〜! ってあれプリメーラ起きてるけど大丈夫なの?」
「私はいつでも大丈夫だぞ!」
いや、体をふらつかせながら言っても説得力がないんだけどな。
「それよりも、ナディアにも聞いて欲しいんだけど」
「うん? どーしたの?」
俺はナディアに先ほどの話を伝え、明日にもここを発ち、俺の故郷でもあるブラバスに向かうと話した。
ナディアは「ゼストとプリメーラの行くところならどこでもついていくよ!」と言っていた。
「けど、次に行くのはとても危険なところだ……もしかしたらナディアのことを守ってやることができないかもしれないぞ」
「大丈夫だよ! 私だって戦えるし! それに……」
「どうした?」
「そんなこと言ってもゼストは絶対に守ってくれるから!」
ナディアの言葉に微笑んでしまう。
それを誤魔化すためにナディアの頭を一心不乱に撫で回していた。
「ど、どうしたのゼスト、嬉しいけど何か変だよ??」
「羨ま、けしからん! 罰として私にもやるんだ!」
ブラバスに出る時は1人だったのに、帰る頃にはこうして仲間がいることに俺は嬉しくて仕方ない!
——帰るんだ、ブラバスに。
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【あとがき】
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