第43話 勇者の帰還

 「おはようございます」


 いつものように火が昇る頃に起きて、鍛錬をしているとセリカに声をかけられた。


 「おはよう……それよりも大丈夫か?」

 「何がですか?」

 「いや、二日酔いとか……昨日はプリメーラと一緒にかなりの量呑んでたから」

 「いえ、至って平気です」


 彼女の顔を見てみるが、誤魔化している様子はなかった。

 ……ってことは相当強いのか、どこぞのエルフも見習ってほしいほどだ。


 「ならよかった……それよか、悪かったなプリメーラのやつが吹っかけるような真似をして」

 「い、いえ……私も楽しめましたし……! むしろ私の方こそあんなはしたない真似をして申し訳ございませんでした……」


 どうやら昨日のことを覚えているのか、顔を真っ赤にしながら勢いよく頭を下げていた。


 「いやいや、俺は何とも思ってないから! た、楽しんでもらえたなら何よりで……」


 何故か俺も一緒に頭を下げてしまう。



 「……それで、いつごろこちらを発つんだ?」


 しばらくの間互いに頭を下げていったが、何とか無理矢理、話の話題を変える。


 「えっと……もうすぐ出発をしようかと思っています」

 「ずいぶん早いんだな……」

 「兵たちにはザッツ港で待つように伝えていますので、あまり待たせても……彼らの疲労も溜まっていると思いますので」

 

 たしかに、温暖な気候のブラバスから極寒の地で何日も野営を続けていれば疲れが見えてくる。


 「わかった、出発する時は声をかけてくれ、みんなで見送るようにするから」

 「は、はい! ありがとうございます!」


 セリカは輝くほどの笑顔でもう一度頭を下げていた。

 

 そして、数時間が経ち、セリカの出発の時間がやってきた。

 集落の入り口には俺とナディア、オルティアさんの他にもセリカに手伝ってもらったオーガ族の男たちがきていた。


 「……ナディア、プリメーラはどうした?」

 「頭が痛いし、気持ち悪いってずっと唸ってる」

 「……またか」


 久々に酒を飲んだためか、二日酔いがいつもより以上に来てしまってるようだ。


 「オーガ族の皆さん、ありがとうございました……そしてご迷惑をおかけいたしました」


 セリカはこちらにいる全員に向けて長い時間頭を深く下げていた。


 「……そして、ゼスト様」

 

 頭を上げたセリカは俺の名前を呼ぶ。


 「お……ど、どうした?」

 「お会いできてよかったです……!」

 「別にそこまで言われるほどでもないんだけどな……」


 セリカの言葉にオーガ族の男たちは大騒ぎしていた。


 「……最後に握手してもらってもいいですか?」


 そう言ってセリカは俺の前に手を差し出した。


 「こんな手でよければ」


 俺も彼女に向けて手を差し出すと、セリカからギュッと俺の手を握りしめていた。

 お互い無言のまま、互いの手を握りしめていく。


 「……それでは行きますね、それでは!」


 俺の手を離したセリカは再度こちらに向けて頭を下げてから雪原の方へ歩き始めた。

 

 「ゼスト、どうしたの?」


 ナディアや他のオーガ族が盛大に手を振る中、俺はセリカが握りしめてくれた手を見ていた。


 「……いや、何でもない」


 彼女が俺の手を握りしめた時、これが最後みたいな感じに受け取れてモヤモヤとした気持ちになっていた。

 俺の気のせいならいいのだが……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「セリカ・サイオン……帰還いたしました」


 オーク族の集落を出てから3日後、私は王都ブラバスに帰ることができた。

 国民に喜びの声を聞きながら、私はブラバス城の謁見の前と向かった。


 「待っておったぞ、して、聖剣にかけられていた封印は解くことができたか?」


 イソッタ王は玉座に座りながら、聞いてきた。


 「はい……」

 「おぉ! そうか! 聖剣が真の力を手に入れたとなればブラバスの更なる繁栄は確実のものとなる!」


 両手をあげて喜びの声を上げるイソッタ王。

 

 「……イソッタ王、発言よろしいでしょうか?」

 「構わん、どうした?」

 「私がしたことは本当に聖剣の力の封印を解くためだったのでしょうか?」

 「……どういうことだ?」


 私は顔をあげてイソッタ王を見る。


 「……オーガ族の集落で前勇者、ゼスト様にお会いしました」


 そう伝えるとイソッタ王の顔が険しくなった。


 「また、封印と思っていた石を破壊した際、強力な魔物が襲いかかってきました……彼らと協力して撃退することができましたが」


 イソッタ王は何も語らずただ黙っていた。


 「彼らやオーガ族の話ではあの封印は聖剣の力を封じてるものではなく、強力な魔物を封じてたものでした……本当に私がやったことは——」

 「ええい、黙れッ!!!!」


 突如イソッタ王は激怒し、持っていた杖を投げ飛ばしてきた。

 防ぐことができず、杖は私の腕に当たった。


 「あのゼストは私の父、そして国民を愛した前国王アルシオーネを殺害した重罪人だ! そんなやつの言うことをそのまま信じたというのか! この大馬鹿者が!!!」


 イソッタ王は怒りのままに私を蹴り飛ばしていた

 防御することなく私は王の暴行を受けていく。

 

 「……違います」

 「何だ?」

 「……ゼスト様は簡単に人を殺害できる人ではありません…………!」


 痛みをこらながら私は自分の思いを伝えていく。


 「ゼスト……様だと……!!!」


 イソッタ王は私の腹に向けて勢いよく蹴っていった。

 痛みに耐えられず私は苦悶の声をあげてしまう。


 「もういい貴様など用済みだ! 衛兵! この裏切り者を牢へぶちこめ!!!!」


 「イソ……タ王……!!」


 そして王の声に駆けつけた衛兵によって私は牢へと入れられてしまった。


 「ごめ……んなさい……ゼスト……様」

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