第37話 真の勇者とは?

 「……私のこと気づいていたのですか」


 少女は俺の顔を睨んでいた。


 「まあな、君の使っている剣を見れば嫌でもわかるさ」


 そう言って俺は彼女の持っている聖剣を指差した。


 「道理で聖剣について詳しいことに合点がいきました、それよりもあなたには聞きたいことが——!」

 「ちょっと待った、今はコイツを何とかしよう、話はその後でもできるからな」


 俺は氷の中で体を癒している魔物を見る。

 先ほどよりも回復している箇所が増えているように見えた。

 完全に回復される前になんとかしたい。


 「プリメーラとナディアちょっといいか?」


 俺が声をかけると2人は傍にやってきた。

 今の状況やこの魔物を動きや倒すための策を考えたかった。

 

 「なるほど、近づくと無数の氷の刃がやってくるのか……」

 「おかげで魔物自体に近づくことが難しいんだよ」

 

 俺とプリメーラ、勇者の少女が話していると、ナディアが魔物に近づこうとしていた。


 「ナディア、危ないぞ!」


 魔物の周辺に張り巡らされ氷の一帯にナディアが侵入すると、地面から氷の刃が突き出してきた。


 「そんなの見え見えだよ!」


 ナディアは飄々とした動きで氷の刃を避けると伸びた爪で飛び出してきた氷の刃を切り裂いていく。


 「ゼストー! こんなの楽勝だよ!」


 次々と突き出してくる氷の刃を避けながら爪を振るっていくナディア。

 

 「……素早い動きを得意とするのはさすがライカンスロープといったところか」


 ナディアの動きを見て、驚きの声を漏らしていた。


 飛び出しては長く鋭い爪に切り裂かれる氷の刃。

 近づいた相手を突き刺すだけかと思っていたが、次第にナディアの動きを予測してきたのか

 タイミングをズラすようになっていた。


 気がつけばナディアが刃に翻弄されるようになりつつあった。


 「あ、あれ……出てこなくなってる!?」


 驚くナディアの隙を見て刃がナディアの体を突き刺そうとしていた。


 「ナディア……!」


 それに気づいたプリメーラがデュアリスから炎を纏った矢を放ち、ナディアを突き刺そうとしていた刃を溶かした。

 助かったものの少し恐怖を感じたのか、ナディアはこちらへと戻ってきていた。


 「大丈夫か?!」

 「ちょっとヒヤッとしたけど平気平気!」


 そう言いながらもナディアは体を震わせながら俺に抱きついてきたので、頭を撫でると彼女の尻尾がブンブンと動いていた。

 ……なんか、プリメーラからの視線が痛く感じるのは気のせいだろう、うん。


 「でも、ナディアのおかげでコイツを倒す策が思いついた」


 俺はプリメーラと少女を呼んで、思いついた策を伝える。


 「つまりは私が炎の矢で突き出してきた刃を次々と溶かしていってる間に、2人があの魔物を倒すと」

 「そうだな、プリメーラがちょっときついかもしれないけどな」

 「前線で戦う方がきついし危険が伴うだろ……。後方支援は任せておいてくれ、うまく行ったら私の頭を撫でてくれると嬉しいがな」


 プリメーラは俺に抱きついているナディアを見ていた。

 

 「むしろそれだけでいいのか……」


 プリメーラが望むならいいけど。


 「ちなみに勇者様は問題なさそうか?」


 すぐに少女の方を向くと、俺の顔を見てムッとした表情を浮かべていた。


 「……セリカです、あなたに勇者と呼ばれるのはいい気分じゃありません」


 そう告げるとセリカは鞘から聖剣を抜く。


 「私はかまいません、先代勇者の技量みせてもらいます」

 「そんなに真面目に構えなくてもいいんだけどな……」


 俺もラファーガを構えると、ずっと抱きついていたナディアが俺の顔を見ていた。


 「ゼスト、私もやる!」

 「平気なのか?」

 「うん!」


 ナディアの尻尾をみると頭を撫でた時のように尻尾が勢いよく動いていた。


 「……わかった、さっきと同じようにあの氷の刃を惹きつけてくれ、だけど絶対に無理はするなよ」

 「うん! 私がんばる!」


 ナディアは笑顔で答えていた。


 「それじゃ策が決まったことだし……反撃開始といくか!」


 俺はラファーガを突きつけるように魔物のいる方へ剣を向けながら叫んだ。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

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