第36話 男の名は……(SIDE セリカ)

 「動けるか?」


 現れた男は魔物へ視線を向けながらこちらに手を差し伸べていた。

 ——あの時と同じ手。


 「大丈夫です……」


 男の手を掴むとゆっくり立ち上がる。


 「あなたは一体……?」

 「まあ、単なるおせっかいの男とだけ認識しといてくれ、ちゃんとした自己紹介はコイツを倒してからにしよう」


 そう言われて魔物の方へと目を向けると、すぐにでもこちらに飛びかかってくるかのような姿勢を落としていた。

 

 「来るぞ、気をつけろ……!」


 男が叫ぶと同時に魔物はこちらへ飛びかかってきた。

 狙いはどうやら私に定めたようで、大きな口を開けてこちらを喰らおうとしているようだ。

 けど……。


 「そう簡単にはやらせはしない!」


 タイミングを合わせて後ろへと下がり、相手の隙ができたところで聖剣を大きく横薙ぐ。

 

 「グガアアアアアア!!」


 魔物の口の中に生えていた鋭い犬歯が真っ二つに斬れていった。


 「おっ、やるな!」


 男はこちらを見てニヤリと笑っていた。

 ……この表情、あの時と同じ。


 「油断しないでください……! まだ敵は倒れていないんですから!」


 魔物はこれまで相手を喰らうために使った鋭い歯がなくなり、戸惑っているように見えた。

 この隙を逃すわけにはいかない……!


 「たぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 魔物の方へと駆けていく。魔物は戸惑っているせいか私に気づいていない。


 「フレイムブレードッ!」


 剣身に炎を纏わせ、そのまま魔物の体を斬りつけると炎が体全体に広がっていった。

 

 「グォォォォオオオオ!!!」


 炎に包まれた魔物は苦しそうな雄叫びをあげる。

 私はその様子を見ていき、魔物の動きがないことを確認すると聖剣を鞘に収めた。


 「まだだ、魔物は生きてるぞ!」


 男の声が聞こえた直後に炎に包まれた魔物が大きく跳躍する。


 「こちらに体当たりして燃やそうという魂胆ですね……けどッ!」


 私はもう一度剣を取り、敵が来るのを待ち構えていた。

 だが、魔物はこちらに向かってくることなく、そのまま真下へと落下していくと、ダン!と叩きつける音と一緒に魔物が着地した周辺から氷の刃が飛び出してきた。


 「グルゥゥゥゥゥ……」

 

 さらに魔物は自分で出した氷に包まれていった。


 「どうなってるの……?」

 「どうやら、炎に包まれた体を氷で冷やしてるみたいだな、あそこを見てみろ」


 男は剣を魔物の体に向ける。

 

 「傷が癒えてる……?」


 氷に包まれた魔物の体は少しずつではあるが、炎によって焼かれた箇所が元通りになっていた。


 「こんな場所にいるんだから、氷の中が落ち着くよな」

 「何をのんきなことを言っているんですか……!」


 私は男に怒鳴りつけた後、もう一度魔物を斬ろうとするが、近づいた途端地面から無数の氷の刃が飛び出してきた。


 「危ないッ!」


 男がすぐに私の腕を掴み、勢いよく引っ張ったため刃に貫かれることはなかったが……


 「大丈夫か?」

 「た、助かりました……」


 私の体は男に抱きつく形になっていたのですぐに離れる。

 男は自分のとった行動に気づいていないようだった。

 

 「自分の体が回復するまで近づくなってことか……」

 「いったいどうすればいいんでしょうか?」


 私の問いに男は「わかんないな」と答える。

 考えている間にも魔物の体は徐々に元通りになっている。

 その前になんとかして、この魔物を撃破したい。


 「……おせっかいな男さん、私にいい方法があります」


 私が男を呼ぶと、興味津々な表情でこちらを見ていた。


 「この剣には私を守る不思議な力があるんです」

 「聖剣の加護か? だけどあれは弱い攻撃しか効果はないだろ、あの刃は防げないとおもうけどな」


 男の返答に私は驚いてしまう。

 聖剣の加護については、ブラバス国民なら知っていてもどのような効果かは知られていないのに……。

 

 ——やはりこの男は。

 

 「それにだ、加護による壁ができるには時間がかかる、さっきの刃を見る限り加護が発生するよりも早いと思うぞ」


 男の的を得た話に私は出る言葉がなかった。


 「あの刃が出る前に移動できるほどの素早い動きができるのがいれば……」


 男がそう呟くと階段の方から声が聞こえてきた。


 「あ、いたいた! プリメーラー! ゼストがいたよ!」

 「まったく、猪突猛進とはゼストみたいな人のことを言うのかもな、突然飛び出していくとは……」


 そこへ現れたのは灰色と銀色の髪をした女性だった。

 男の知り合いだろうか、彼を見つけるとこちらへ向かってきた。


 「もう、突然飛び出していくからビックリしたよ!」

 「悪かったよ……そういう性分なんだ、許してくれ」

 「私は別にいいけど、プリメーラがすごい心配してたんだよ」

 「な、何をいうか! 私は心配なんかしてないぞ! 私はゼストのことは信頼しているからな!」


 銀髪の女が口にした言葉で私は驚いてしまう。


 「ゼスト……もしかして!?」


 男に向けて話すと、男はため息混じりに頭をかく。


 「……まあ、ブラバスの人間なら俺の名前を聞いたらそうなるよな」


 男は乾いた笑いをこぼす。


 「俺はゼスト・インテグラ。前国王殺し、元勇者……君にとって俺はどっちの認識なんだろうね」


 皮肉めいた言葉の後に男は最後にこう告げる。


 ——聖剣ソアラブレイドに選ばれし勇者さん……と。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

今年も宜しくお願いいたします!


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「応援する」


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