第38話 ゼストとセリカ
「それじゃいくよ!」
「あぁ、バックアップは任せて好きなだけ動き回ってくれ!」
プリメーラは矢をいつでも放てるようにデュアリスを構える。
その様子をナディアが確認すると、魔物が張った氷のエリアへ駆けていった。
彼女が足を踏み入れた直後、地面から氷の刃が突き出してくる。
「ほーら、こっちだよー!」
ナディアは突き出してくる氷の刃を揶揄うように縦横無人に動き回っていく。
「それじゃ今のうちにこっちもいくぞ」
「はい……!」
俺が声をかけると、セリカは真剣な眼差しで俺を見ていた。
「そんな強張った顔をするな、何かあればプリメーラがフォロー入れると話してたろ」
そう言って俺はプリメーラの方を見る。
「……信頼しているんですね、あの2人を」
セリカは動き回るナディアとプリメーラを交互に見ていた。
「信頼できなきゃ仲間なんていえないだろ?」
俺の返答にセリカは黙っていた。
「そんなわけだ、俺たちはこの魔物を撃破することだけを考えようぜ」
「わかりました……」
そして、俺とセリカは剣を構えて自ら氷漬けになった魔物の元へと駆け出していき、氷の一帯へと足を踏み入れる。
氷の刃はナディアの動きに反応しているのか、こちらには一切刃がつき出てくることはなかった。
だが、俺とセリカの動きに気づいたのか、氷の中にいる魔物が口を開けて、氷混じりの息を吐き出してきた。
「オーラフィールドッ!!」
ラファーガを両手で持ち、俺の周りに薄い壁を発生させる。
魔物が吹き出してきた息は壁に当たり、砕け散っていく。
「ゼストさん……!」
「俺の方は大丈夫だ、俺に狙いを定めてるうちにこいつを倒すんだ!」
俺はセリカに向かって叫んだ。
彼女は俺の方を見て、頷くと先ほどと同じように聖剣の剣身に纏わせ、魔物に向かっていく。
「たぁぁぁぁぁぁああ!!!」
魔物に向けて、聖剣を大きく振り落としていくと、魔物を覆っていた氷が大きな炎をあげて燃え出した。
「グオオオオオオッ!!!」
魔物は苦しそうな雄叫びをあげると、溶けた氷の中から飛び出ていく。
ドスンと大きな音を立てて、セリカの前に立っていた。
「グルァァアアアアアアアア!!!」
自分の安息の場所を壊された恨みなのか、魔物はセリカに向けてその巨体をぶつけてきた。
咄嗟のことで動くことができなかったセリカは聖剣で抑えようとするが、そのまま壁に押し込まれてしまう。
「ぐあ……ッ!」
セリカは苦しそうな声をあげてそのまま床へと崩れていく。
「セリカッ!!!」
俺は叫びながら魔物のいる元へ駆けていき、大きく横に振りかぶる。
「グガアアアアアアア!!!!」
魔物は苦しそうな声をあげると、後ろへと下がっていく。
その隙に俺は倒れているセリカの元へと駆け寄る。
「大丈夫か!?」
俺が声をかけると、セリカはゆっくりと目を開ける。
「大丈夫……とはいえないですが、聖剣の加護がなければ死んでいたかもしれないですね」
俺は彼女を見て安堵の息を吐く
「それよりも、あの魔物をたおさ……ないと」
起きあがろうとするセリカを制止させる。
「そんなんじゃ、魔物に倒してくれといってるようなものだ」
「まさか、いくらなんでもあなた1人では……」
セリカは目を大きく開けて俺を見ていた。
「大丈夫だ……ってか少しの間、これを借りるぞ」
俺は彼女の手から離れ、床に転がった聖剣ソアラブレイドを指差した。
気のせいかもしれないが、さっきから剣身から放たれた光が俺に向けられていた。
自分都合のいい方をすれば聖剣が 「俺を使え」と言ってるように感じられる。
聖剣のグリップを握りしめるとずっと使っていたからか、懐かしさや手の馴染みを感じていた。
……どうやら、まだ俺にも使えるようだ。
「……それじゃ行こうぜ、ソアラブレイド!」
魔物は俺が来ることを予測したのか、大きく息を吸い込み始めた。
先ほどよりも強力な息を吐き出すに違いない。
「やらせるかよ……ッ!」
俺はソアラブレイドを前に突き出し、魔物に飛び掛かるように地面を蹴る。
魔物は大きく吸い込んだ息を俺に向けて吐き出してきた。
「こいつでトドメだ……オーラファングッ!!!」
聖剣から放出した魔力が俺の体を覆っていくのを感じながら俺は魔物に向かっていき、巨体を貫いていった。
「ぐぎゃあああああああああ!!!!!」
魔物は耳に突き刺さるような雄叫びをあげながら、倒れていくと骸は光となって消えて行った。
「やった!!! ゼストが倒したよプリメーラ!!!」
一番最初に喜びの声をあげたのはナディアだった。
どうやら、魔物が消えたと同時に地面を張っていた氷も消滅したようだ。
「……さすがだな、ゼスト!」
ナディアとプリメーラが一緒に俺の元へとやってきた。
一番最初に飛びついてきたのはナディアだった。
「やっぱりすごいよゼストは!」
ナディアは喜びで興奮状態なのか、しきりに自分の顔を俺の顔に擦り付けてきた。
「な、ナディア……! それぐらいなら私もできるぞ!」
プリメーラも同じようにやろうとするが、必死に頭を押さえつけた。
流石にプリメーラに同じことをされるのは抵抗を感じる。
「……さすが、ブラバス1と言われた勇者様ですね、私とは雲泥の差ですよ」
3人の光景を眺めながらセリカは1人呟いていた。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
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