第34話 プリメーラの偉業

 「……あなたがこの集落の長か?」

 「えぇ、オルティアと申します」


 自分の名前を名乗ったオーガ族の女性は、先ほどの門番とまではいかないが、背も高く、ほどよい体つきの女性だった。

 白いドレスも合間ってか、生半端な綺麗さではなかった。


 「もしかして、ゼスト……あの人に見惚れてる??」


 気がつけば隣にいたナディアに声をかけられて慌てて否定をするが、ナディアはこちらを嘲笑うかのようにニヤニヤとしていた。

 その様子を見ていたプリメーラは気難しい顔で咳払いをすると、オルティアさんの方へと向き直す。


 「……というと、フューエル殿は」

 「私の祖母になります」


 プリメーラはその直後「なるほど」と呟いていた。


 「こんなところで立ち話もなんですから、応接室にご案内いたしますね」


 そう告げるとオルティアさんが隣の部屋に移動を始める。


 「その前にだ、ここへ来る途中で怪我人を発見したんだが、見てくれるところはないだろうか?」

 

 プリメーラの話に合わせて俺は背負っている少女を見せる。

 少女の姿を見た瞬間、オルティアさんの顔が若干強張ったように見えた。

 

 「応急的な処置はしたが、まだ完治とはなっていない……意識も戻っていないので専門的な人間に診てもらったほうがいいのだが」

 

 プリメーラの訴えにオルティアさんは考え込んでいた。


 「……わかりました、集落に僧侶がおりますのでそちらにつれていきましょう」


 そう言って彼女は外にいる門番を呼び、少女を診療所に連れていくように頼んでいた。


 「それでは改めまして、ご案内いたします」



 彼女に案内されたのは、無骨な広い部屋だった。

 客をもてなすためのテーブルやソファなどは置かれているが、部屋を彩る花や着飾るための装飾品などはなかった。


 「粗末な部屋ですが、お寛ぎくださいませ、今お茶を用意させますので」

 

 オルティアさんは部屋から出ていった。

 

 「オーガの特性というか、あまり着飾るのが好きではないようだぞ」


 部屋を見渡していると、プリメーラが声をかけてきた。

 どうやら思っていることが顔と行動にでてしまっていたらしい。


 「それにしてもゼストはオルティア殿みたいなのが好みか……まあたしかに綺麗且つ品位がある感じもするしな」

 「……変な勘ぐりはやめてくれ」


 すぐに空いている椅子に座ると、ソファに腰掛けたプリメーラが俺を見て揶揄うように微笑んでいた。



 「体を温めるダンホティになります」

 

 オルティアさんと一緒にやってきた小柄の年配のオーガ族の女性がそう言いながらカップに薄茶色のお茶を注いでいく。

 全員分のお茶を注ぎ終わると、ティーポットを置いて応接室から出ていった。


 「そういえばつかぬことをお聞きしますが、フューエル殿は……」

 「祖母は3年ほどまでに病気でこの世を去りました」

 「そうか、すまなかった」

 「いえ、お気になさらず」


 プリメーラは気まずそうな顔でティーカップに口をつけていた。


 「今回はどのようなご用件でこんな山奥までいらしたのですか? たしか、ファイヤーウォールのメンテナンスはだいぶ先だった気がしますが……」

 「……ファイヤーウォール?」

 「私が作った魔道具の一つだ」

 「祖母の代の時にプリメーラ様がファイヤーウォールを設置してくれたおかげでこの集落はだいぶ住みやすくなりました」

 「……もしかして、プリメーラの名前を聞いて門番の態度が変わったのって」

 「あぁ、考えている通りだ」


 プリメーラは恥ずかしそうに再度ティーカップに口をつけていた。

 いつもなら自信たっぷりなぐらい饒舌になるのだが、今回はやけに静かだ。


 「……仕方ないだろ、まさかここまでなってるとは思ってみなかったんだ」


 どうやら恥ずかしいだけのようだ。

 プリメーラは顔からエルフの個性とも言える長い耳まで真っ赤になっていた。


 「話はそれましたが、こちらへは……?」

 「そうだな……!」


 待ってたと言わんばかりにオルティアさんの話に合わせるプリメーラ。


 「たしか、この集落には大魔王が作り出した強大な魔物を封印した場所があったと思うが」

 「えぇ、ございます……フローズンジャッカルですね」

 「もしかしてそれがこの大陸のコンチネントエビルか?」

 

 プリメーラはゆっくりと首を縦に下ろす。


 「まさかとは思いますが、プリメーラ様は封印を解くつもりでは……」

 「むしろその逆で、オーガ族の使命と同じだ」


 プリメーラはゲンバラ大陸やウェインズ大陸で起きたことをオルティアさんに話していた。

 

 「なるほど、何者かがあの強大な魔物たちの封印を解こうとしていると……もしかしたら」

 「どうかしたのか?」

 「いえ、ここ数日、人間たちがここへ襲撃をかけてきているのです」

 「人間が……?」

 「ですが、この極寒の地に耐えられないのか、集落の戦士たちに歯が立たずすぐに撤退していっています」


 オルティアさんは嬉しそうに話してた。


 「……一つお伺いしたいですが、その人間というのは銀の鎧を纏った連中でしょうか?」

 「えぇ、そうですね」


 彼女の返答に俺は深いため息がつく。

 道理であの少女の姿を見た時、オルティアさんの顔が強張ったわけだ。

 

 「どうした?」

 「……多分だけどブラバスの騎士団連中だ」

 

 俺の言葉にオルティアさんは驚いた表情を見せていた。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。

今年も宜しくお願いいたします!


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「応援する」


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