第33話 ゼストの不安
「どうしたんだ? さっきから気難しい顔をしているが……」
洞窟の中で黙り込んでいると、心配そうな顔でプリメーラがこちらを見ていた。
俺の視線の先には治療を終えて休んでいる少女の姿ではなく彼女の腰にある剣へと向けている。
「そんなにその持っている剣が気になるのか? 鞘の装飾が施されているが、もしかしたらこの子はどこかのお嬢様なのかもしれないな」
「……それだったらいいけどな」
俺の返答にプリメーラは首を傾げていた。
「もしかして、ゼストはこの剣のことを知っているのか?」
「……まあ、別に隠すことでもないからいいか」
そして俺は少女の剣を指差す。
「その剣はブラバスの聖剣ソアラブレイドだよ」
プリメーラは目を大きく開けていた。
「たしか、勇者のみが扱うことができる伝説の剣か……」
「あぁ、しかも誰でも扱えるわけではなく、剣が持ち主を選ぶんだ。そして選ばれたものは勇者と呼ばれるようになるんだ」
「それじゃ、ゼストもこの剣の……」
「……元使用者ってことになるな」
だが、この剣に選ばれるのは使用者の死後となっていたはずだ。
ということは俺はブラバスでは死んだということになったのだろう。
……覚悟はしていたが、実際に現実をつきつけられると気が沈んでしまう。
「それにしても何でこの子はこんな極寒の地にいるんだ?」
「怪我した箇所を見る限り、おそらくだが、足を踏み外して落ちてきたんだと思う」
「……それで怪我だけで済んだってことは聖剣の加護のおかげか」
聖剣ソアラブレイドには『聖剣の加護』と呼ばれる不思議な力が使用者を覆っていく。
魔物からの攻撃を軽減したり、魔法も微弱なものなら打ち消してくれるといったものだ。
おそらく、この極寒の地をこんな軽装備の中、1人でこれたのも聖剣の加護のおかげなのだろう。
「この先にあるのは、オーガ族の集落しかないからこの子もそこへ向かっていたとは思うがな」
「……どんな目的なんだろうな、可能な限り俺たちと同じ目的であればいいんだけど」
聖剣に選ばれたのであれば、間違った方向に聖剣の力を振るうことはないと思っているが、なぜか俺の胸の内に潜む不安がなくなることはなかった。
「ゼストー、プリメーラ! 吹雪やんだよー!」
考え込んでいるうちに寝てしまったのだろうか、ナディアの元気な声で目を覚ました。
洞窟の入り口を見ると、俺たちを痛めつけていた吹雪が嘘のように止み、青空が広がっていた。
「ふわぁ……もう朝か」
俺の肩に寄りかかっていたプリメーラが大きなあくびをしていた。
「ようやく、吹雪がおさまったみたいだな……またいつ吹雪いてくるかわからないから先を急ごう」
「そうだな……ってこの子はどうする?」
俺は横たわっている少女を指差す。
「簡易的な治療しかできてないからな、オーガ族の集落でもう一度治療を行おうとおもっているが何か不安要素でもあるか?」
「いや……」
不安要素が完全にないかと言われたら嘘になるが、流石にこんな所に怪我人を置いていけるほど、非常にはなれなかった。
ゆっくりと少女の体を抱き上げ、洞窟の外に出ると、背中に背負っていく。
少し揺らしてしまったが、少女が起きる気配はなかった
「大丈夫か?」
「平気だよ、最近鍛錬を怠っていたからちょうどいいかもしれない」
「そうか」
俺の返答にプリメーラはふふっと笑うと先頭を歩き出していった。
「ようやく着いたぞ、ここがオーガ族の集落だ」
プリメーラが足を止めた先にはいくつかの木造の家が建てられた一帯が見えた。
晴れ間が広がっているからかこの極寒の地で暮らすために必要な肉体を持ったオーガ族が歩いている姿もあった。
集落の中に入ろうとすると、2人の門番らしきオーガ族の止められた。
彼らは手にしていた長い槍をこちらへと向けていた。
「すまないが、今は見知らぬものを中に入れることはできない」
プリメーラは彼らに臆することなく、門番に近づいていく。
「私はプリメーラと申す。お主たちの長に面会を願いたいの」
「ダメだダメだ! 今はそれどころではない!」
門番の1人はプリメーラをを鋭い目で睨みつけていた。
「……ん? プリメーラ??」
睨みつけている門番の隣に立っているオーガ族が何かを思い出したような顔をしていた。
「もしかして、我々を救っていただいたという魔導士プリメーラ様でしょうか!?」
「……まあ、魔導士と名乗った覚えはないが」
プリメーラが答えると、聞いてきた門番は興奮気味に睨んでいた方へ長のところへ行くように伝える。
そして、慌てた様子でこちらへと戻ってきた。
「大変失礼いたしました! 長の元へご案内いたしますので、こちらへ!」
先ほどまでプリメーラを睨んでいたオーガ族と思えないぐらい、申し訳なさそうな表情で案内をしていく。
「何か、すごい変わりようだが……ここで一体何をしたんだ?」
「大したことはしてないんだがな、あの時の長が変な勘違いをしたのかもしれないな」
と、言ってるがプリメーラは嬉しそうな表情を浮かべていた。
案内されたのは集落の中でも大きな木造の家だった。
「中で長がお待ちです」
門番のオーガ族に促され俺たちは家の中へと入っていった。
「お待ちしておりました、魔導士プリメーラ様」
中で俺たちに声をかけてきたのは穏やかな表情の女性オーガ族だった。
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【あとがき】
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