第23話 初対面の異種族
「命を救ってくれた人にこんなことをしてもらうなんて!」
「気にしないでください、何もしないでいるのって暇なので」
カーロラ王との謁見から2日経った。
突然の襲撃にあった際に負った傷がまだ治らないため、俺とプリメーラはまだチェイサーの屋敷の世話になっている。
城下町の方もあれから魔物からの襲撃はなく、穏やかな日常を取り戻しつつあった。
俺は腕に負担をかけない程度に家を壊された人の修復を手伝っている。
チェイサーからは屋敷でゆっくりしてろとは言われているが、ずっと動き続けていたせいか、何もしないでいるのが苦手のためこうして手伝っている。
それはプリメーラも同じなのか、よく博物館へと足を運んでいる。
「ここにいらしたのか、ゼスト殿」
突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと……
「ま、マーク王子!?」
あまり見かけることのない人物だったため、思わず大きな声が出てしまう。
それに対してマーク王子は右手人差し指を自身の口に当てていた。
「……少し、お時間をいただけるだろうか?」
「え、えぇ……構いませんが」
俺が答えるとすぐに歩き出すマーク王子。
不思議に思いながら彼の後ろをついていった。
着いた先は、チェイサーの屋敷だった。
中に入ると、主人であるチェイサーが驚いた様子でこちらへと走ってきた。
「いないと思ったらもしかしてゼストを探しに行ってたのか……言ってくれれば俺が探しに行ったのに」
「どうもじっとしているのは苦手でな……」
「だからって……次期、王だと言われている人が町中をうろうろするのもどうかと思うぞ」
チェイサーに言いたい放題追求されるマーク王子。
だが、嫌そうな顔をするわけでもなく弟の言うことを素直に頷いていた。
チェイサーに案内されたのは応接室だった。
中に入るとプリメーラがソファに座ってお茶を飲んでいた。
マーク王子の存在に気づくとすぐに立ち上がるが、座るように促されていた。
「ゼスト殿も座ってくだされ」
俺もマーク王子に促されるまま、プリメーラの隣に腰掛けた。
そして、チェイサーとマーク王子が座る。
「休んでいるところを申し訳ない……」
マーク王子が口を開く。
「話というのはライカンスロープ族のことだ」
「たしか、山の麓に住み始めたということだったな」
プリメーラは興味津々な表情をしていた。
「それがどうかしたのか? たまにこっちに来て食い物を盗んでいくみたいで、人を襲ったりはしてないようだけど」
「彼らに接触をしようと思っている」
マーク王子の発言に俺を含め全員驚きの声をあげていた。
「まさかとは思うけど、兄さんが直接?」
チェイサーの言葉にマーク王子は首を縦に振る。
「ダメに決まってるだろ! 兄さんの身に何かあったらどうする! 俺とは立場が全然違うんだぞ!」
大声を上げるチェイサー。
珍しく彼の言うことに賛同してしまう。
「それにライカンスロープとはクレスタ兄さんが行ってきた時のことを覚えているだろ!?」
「そこなんだ……」
興奮気味に話すチェイサーに向けてマーク王子は冷静に話を止める。
「どういうことです……?」
「先日、謁見の間でのクレスタの発言だ」
「……町を襲ったのはライカンスロープだとしきりに叫んでいらしたな」
その度にマーク王子に叱責を受けていたことを思い出す。
「何度もライカンスロープ族を敵視する発言があったものだから、少し気になっているんだ……」
「単なる逆恨みの類だと思ってるけど……クレスタ兄さん、気が弱いが人一倍根に持つタイプだし」
チェイサーがせせら笑うとマーク王子が咳払いをしていた。
「それだけなら良いのだが……」
「他にもなにかあるのでしょうか?」
俺が聞くと、マーク王子はしばらく黙った後再び口を開く。
「基本的に怪我を負ったのはクレスタだけだ……団員はほとんど傷を受けていない」
俺を含め全員が「え?」という声が一斉に出ていた。
「……それを確かめに行こうと思っている」
「わかりましたが、マーク王子が行くのは危険です」
そう言って俺は立ち上がる。
「それなら俺が行きます」
次の日の早朝、俺は城下町を出て、遠くに飛びえたつウェルナー山脈へと向かっていた。
「……いくら何でも早くないか?」
俺の後ろには今にも閉じそうな目をこすりながら歩くプリメーラの姿。
「別に無理して一緒に来ることはなかったのに……」
「博物館も通いすぎて飽きてきたところだったからちょうど良いと思ってたんだ」
その後、大きなあくびをしていた。
「プリメーラはライカンスロープ族にはあったことがあるのか?」
今にも彼女が歩きながら寝そうだったので、声をかけていく。
「……会ったことはあるが、もう100年近く前のことだ」
「相変わらず想像もできない過去の話だな」
彼女からすれば100年前というのは人間の言う数年前に近い感覚なのかもしれないな……。
しばらくプリメーラと話しながら歩いていくと、平坦だった道は砂利の多い道へと変わっていった。
チェイサーが言うには砂利道に入ると、山脈への麓は直前だと話していた。
「ライカンスロープ族は警戒心が強い種族だからな、ここからは注意して行かないとな……」
彼女の言葉に頷きながら先を進んでいくと、辺りにピリピリとした気配がし始める。
「……どうやら既にいるみたいだな」
俺が小声で言いながら、ラファーガを構える。
すると、鋭い刃が俺を狙ってきた。
素早くラファーガの剣身で受けきると、辺りにキンと金属音が響き渡る。
「そこだ……!」
その隙にプリメーラがデュアリスで矢を放つと、襲いかかってきたモノは後ろへ下がる。
「こいつら強い……!」
苦痛の声を上げながら後ろへ下がって言った。
そこには灰色の髪をした幼さを残した少女が立っていった。
だが、少女の指先には鋭い刃を携えていた。
「……これがライカンスロープ族か」
俺は初めて見る姿に思わず声が漏れてしまっていた。
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【あとがき】
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